黒い影の子供
こんなことになるなんて思ってなかった...
とあるマンションには、一つの噂があった。
夜が明ける前の時間帯、いわゆる彼は誰時、その時間にマンションの9階の904号室の前を通ると事は起きる。
壁の中に潜む真っ黒な子供の影に追いかけられ、マンションの下に落とされてしまう...そういう噂があった。
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バンッ‼︎
「邪魔なんだから出て行けよ‼︎‼︎‼︎」
「ごめんな、さ、ごめんなさい‼︎‼︎お母さん‼︎」
バンッ ! ガチャ.
「痛いよ..お母さん...何にもしてないのに、どうして..?」
溢れる涙を拭う。
いつもは、叩かれて部屋から追い出されるくらいだったが、締め出されたのは初めてだった。しかも今から暗くなるっていう時間に。
「どうしてお母さんは叩くんだろう...もう嫌だよ..」
上を向くと涙で滲んだ空に広がるのは真っ赤な空だった。
「血みたい...」
気味が悪くなり考えごとをして時間を潰そうと考えていたら、小さい頃に聞いた噂を思い出した。
「黒い子供の話...」
思い出したら少しゾクリッとした。
「考えるのやめておこう...」
そう言えども、一度頭に浮かんでしまったことは中々消し去ることはできない。
もうすぐ中学生になるからと行っても、怖い話は怖いのだ。
自分の頭の中に浮かんでしまったものを振り切るために、マンションの廊下を行ったり来たりしている。
曲がり角のところで自分の影は途切れるのだが、曲がった後に角の奥から伸びる自分の影にドキリとする。
伸びた影が私のものではない様に感じ、少し早足になる。「そんなわけないのに...」
そんなわけない...はずなのだが私は足を止めることができ無くなっていた。
(...ない、待って、ない。私の影がないの。)
自分の足から伸びるはずの"黒い物"がないのだ。
いつもなら私の歩くそばを片時も離れないはずなのに。
「ない、ない...ないないないない‼︎」
今にも発狂してしまいそう...!!と、その瞬間目の前に気配を感じとっさに顔を上げた。