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最弱の王  作者: ぱるお。
1話 魔法の使えない魔法使い
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真夜中の約束

 

「やあ、こんなところでどうしたんだい? そんなに息を切らしてさ」


 ブランコから飛び降りてきた彼女が、下から覗き込みはにかむ。顔に刺すフードの影と、その中から覗く紅い瞳が対照的だった。


「ちょっとトレーニングをね。そんなツキヒはこんな夜中に、どうしたの?」


 このご時世、女の子でなくとも夜中の一人歩きは何があるか分からない。特にローブを着ている彼女は自身を魔法使いと語っているようなものだ。いつ、魔法使いに恨みを持った人間が襲ってきたとしてもおかしくはないのだ。


「私は考え事。ここあんまり人が来ないから、一人になりたい時にはよく来るんだ」


 ちょっとお話をしようか。そう付け加えてヒノワを手招く。二人並んでベンチに腰掛けた。


「なにかあったの?」


「ううん、何もないよ。君との将来を考えてただけ」


 そう言ってツキヒは悪戯に笑った。


「将来って大袈裟な……確かに向こう一年は相棒として付き合ってはいくんだけどさ」


「……そうだね、どうせ一年限りの付き合いだよね」


 ツキヒはそっぽを向く。他所を向いているとフードの所為で表情が全く見えない。人付き合いの希薄なヒノワには、彼女の考えが全く分からなかった。


「どうせ、なんて言わないでよ。僕にとっては重要なんだからさ」


「重要?」


「うん。勝手かもしれないけど、僕は魔法大会に出場する。優勝しなくちゃならないんだ」


「いいよ」


「だから君にも手伝って——って、えぇ!?」


 ツキヒの即断に思わず変な声が出る。火那魔法学園は国内でもトップレベルの魔法科学校である。火那魔法祭は学園を解放した文化祭で、その魔法大会は校内外から幾人もの手練れが参加することで有名だ。


 そんな魔法大会に出場するのを止められるのは愚か、優勝することにさえ否定されなかったことに驚いてしまった。


「あの、魔法大会に出るんだよ?」


「秋の、火那魔法祭のだよね?」


「分かってるなら良いんだけど、無茶だと思わないの?」


 自分で言ってて悲しいが、しかし実際過去に優勝した者の中には、『英雄』、『返り血の踊り子』、『千獣王』、『暗黒将軍』等、伝説級の猛者達もいる。戦争が終結して年月の浅い昨今、名のある者達がこのような大会に参加するとは思えないが、多くの達人達に注目されていることは間違いない。


「正直無茶だと思うけど、優勝したいんでしょ?」


「うん、どうしても」


「なら私も、全力で協力するよ」


 紅い双眸がヒノワを見つめる。自分と同じ色なのに、自分とは全く違う色のように見えた。


「どうして、そこまで?」


 急に不機嫌になったり、かと思えばじっと見つめてきたり。コロコロ変わる彼女の態度はまるで、魔界の紅い月が雲に見え隠れしているかのよう。


「君が黒子ヒノワ君で、私の相棒だからだよ」


「僕が、僕だから……?」


 その時、ヒノワとツキヒ、二人の違いが分かった。分かってしまった。


 ツキヒの瞳には希望や期待、あるいは羨望といった前向きな想い、その熱い温度が感じられた。


 それに対し世界に絶望し復讐のみを誓った自分。全く違うように見えて当然だった。


 それでも彼女は、ヒノワがヒノワであることに意味があると言う。彼の冷たい心が彼女の熱で溶かされてしまうかのよう。


 もちろん五年も抱いてきた復讐心がそう簡単に無くなるものではない。ただその復讐心が無ければ、彼女と一緒に歩く明るい未来もあったのかなと、有りもしない幻想を抱き、そしてかき消した。


「約束をしようか」


 そう言って小指を突き出すツキヒ。


「約束?」


「そう。二人で絶対に優勝して、MRSでも上位を勝ち取るの!」


 魔法大会で優勝するようなペアならば、MRSでも十分な成績を記録できるだろう。MRSは個人成績とペア成績の二種類ある為一緒くたにはできないが、それだけの実力を示せる。そもそも学生が大会に出場するためには、MRSのペアランクで上位20組に入らなくてはならない。


「うん。約束だ」


 ヒノワも小指を突き出した。彼女の指は眠り続けるヒナタとは正反対に、熱さえ感じるほど熱い。


「それで、君の願いが叶ったらさ……」


 僅かに俯き、その表情が隠れる。


「私のささやかな願いにも一つ、付き合ってもらえないかな……?」


「……? うん、いいよ。僕にできることなら」


「約束だよっ!」


 ツキヒはぱっと手を離し、立ち上がる。勢いよく立ち上がったせいか少しよろけた。


「じゃあもう帰るね!」


「え、送るよ」


「ううん、大丈夫! すぐそこだからさ」


 また明日。と手を振り駆け足で去っていく。何かを隠すように去っていく後ろ姿を、見えなくなるまで見送った。


 ところで、


「帰り道、聞くの忘れた……」


 やっぱり迷っていた。



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