馬場アタル
俺には本当に取り柄が無い。得意なことも無ければ、やりたいことだってない。火那魔法学園に入学したのも、親に勧められただけだった。名門といわれるこの学園でも俺と同じような思いの奴は意外といるみたいで、悪友の犬塚・八木・天尾の三人とは性格はバラバラだが気付けばいつも一緒にいた。類は友を呼ぶってやつだ。そんな俺たちに、色恋の話なんて遠い世界のことだと思っていたんだ。
あの時までは。
彼女を初めて見たのは、中等部の始業式の日。編入生だった彼女は、職員室の場所が分からずに迷子になっていた。女になんか興味のなかった俺がわざわざ案内するなんて真似するわけがない。彼女から声をかけてきた。
一目惚れだった。
彼女は全身をローブで覆い、頭にはフードを被り、全身を可能な限り包み隠していた。それでも、血のような紅いお下げと瞳は隠しきれない。俺は特にその瞳に、まるで深淵から覗く悪魔に憑りつかれたかのように、惹かれていった。
それからの俺は必至だった。毎日話しかけ、何も知らない彼女に学園のことを教え、ペアになることができた。けれど組んてみて分かったことだが、彼女の能力は俺たちの力を遥かに凌駕していた。彼女は魔法こそほとんど使わなかったが、普段の佇まいを見ているだけで俺たちとは生きてる世界が違うと嫌でも痛感した。
彼女は明確な目的を持っていて、その瞳は常にそれを捉えていた。彼女の強さはきっとその目的の為に得た力なんだろうと知らずに感じていた。今になって思えば、彼女の瞳に惹かれた理由はその真っすぐさだったのだろう。俺たちには無い目的。俺たちには無い意志。俺たちには無い信念。
だから俺は、彼女と同じになろうとした。目的が無いなら作ればいい。これまでに考えることのなかった思いだ。だけど目的なんて持ったことのない俺に、突然そんなものは見つかるのだろうか。
そうだ。俺は彼女に恋をした。ならばそれを目的にしよう。彼女は常に一点を見つめている。その視界に、きっと俺は映っていない。だから俺の目的は、彼女に見てもらうこと。そう決めた。
見てもらうためにはどうしたらいいのかを考えた。これまで、貫き通したい何かは無かったが、不自由に思ったことも無かった。見てもらいたいなんて思うのは初めてで、何をどうすればいいのか分からなかった。だから俺は、ひたすらに彼女のことを見ていることにした。ひたすらに彼女の背中を追いかけ、ひたすらに彼女の心に問いかけ、ただひたすらに彼女だけを見続けた。
それを三年に渡り続けたが、俺は少しも彼女に近づけてはいなかった。そこで俺はとうとう、彼女に言葉で想いを告げることにした。中等部最後の日、あの日彼女が迷っていた、あの場所で。
結果はまぁ、分かっていたけど玉砕。三年間ペアを組んだのに、隣に立つことさえできなかった。でも俺は諦めない。卒業まで三年、それからもいくらでも時間はある。
それなのに。
いきなり現れたあいつ。彼女と同じ色を持つあいつ。彼女と同じ、目的を持ったあいつ。あいつが彼女を奪っていった。あいつさえいなければ。
あいつが憎い。周りから蔑まされているはずのあいつが彼女の隣にいることが許せない。そんなあいつを選んだ彼女も……
今、目の前に対峙している彼女は、俺だけを見ている。なんだ、こんなに簡単に見てもらえるじゃないか。隣に並ぼうとしたから悪かったんだ。こうして正面から向かい合うのが正しかったんだ。
俺はあいつを選んだお前も許せない。この決闘に勝ち、俺はお前を……
オレダケノモノニ。




