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最弱の王  作者: ぱるお。
1話 魔法の使えない魔法使い
2/27

相棒


「ヒノワ君! 本当にやるの?」


 そのたった一人の女子生徒、朧ツキヒ。


 学校指定の白いローブを身に纏いフードを深く被っているため、彼女の容姿のほとんどが隠れてしまっている。分かることはヒノワよりも背が低く、フードから覗く瞳と溢れる二つのお下げが、ヒノワと同じ血のような紅色ということくらい。


彼女はこのクラスで、というより学園内で唯一、ヒノワに好意的に接してくれる人物である。


「まあ、ね。一応この為にこの学園に来たんだし」


 様々な恩恵を得られるMRSを目的にこの学園を訪れる生徒は多く、ヒノワもその一人である。彼はとある目的の為、魔法が使えないという不利を抱えてでも勝ち上がる必要があった。


「でも無謀だと思うよ? ヤマト君のランク、知らないわけじゃないでしょ?」


 小中高一貫校である火那魔法学園の全校生徒は、三千人強。


 その内上位100位以内はほとんどが高等部の三年生が占めているが、ヤマトのランクはなんと84位。同学年の中でも三番目の成績である。対価に退学がかかっている以上、ヒノワでなくとも試合を受け入れる者はいないだろう。周りの反応やツキヒの心配も、この裏付けられた強さにあった。


「大丈夫だよ。これでも編入試験には受かってるんだから」


 火那魔法学園は毎年一定数の退学者や留年者を出している。それは偏に成績の基準や試験が厳しいからこそであるが、そんな中でもヒノワは難関とされる編入試験を乗り越えてみせた。


「それはそうかもだけどさ……」


 ヒノワの自信は最もなのだが、どうにも不安がぬぐえない。魔法が使えない彼と学年で3位の成績を誇るヤマトとでは実力に差がありすぎるようにしか思えない。


「ヤマト君は強いよ? 多分、君じゃ一発で倒されちゃうと思うんだけど」


 包み隠さず本音を言うが、これもヒノワのことを思ってのことである。絶対的な力の前に級友が伏せるのは見るに堪えない。


 そして彼女の言う通り、ヤマトは腕利きで火力自慢のパワータイプ。水魔法と氷魔法を操り戦場を豪快に暴れまわる様は『暴風雨』と揶揄され恐れられている。魔法の使えないヒノワにとって、彼の強力な一撃を貰えば致命傷は免れない。


「それに、登録は終わってるの?」


「え、登録?なんの?」


「MRSは個人ランキングとペアランキングと二つ集計するから、二人組で登録しないと試合すらできないよ」


「……え?」


 MRSは基本的には個人ランキングが反映されるが、進級試験や特定の大会は二人一組での参加が強制されている。その為、登録するには必ずペアで登録しなくてはならないのだ。まさに寝耳に水である。


 編入生であるヒノワ以外は中等部からの繰り上がりのため、ほとんどの生徒は毎年同じペアで登録している。年度が始まってまだ数日だが、ペアを組めていない生徒はいないに等しいだろう。いたとしても相棒として信頼できるか分からない。進級や大会が掛かっているため、誰でも良いというわけにはいかないのだ。


「どうしよう……知り合いだってほとんどいないし……」


 ほとんどどころか皆無に近い。一人だけ心当たりがあるが、ほどの実力者ならば当てにはできないだろう。


「……仕方ないなぁ、私が組んであげるよ。君が構わないなら、ね」


「え、本当に!?」


 彼女の申し出は願っても無いことだった。正直今のヒノワでは、組む以前に話せる人間を探すことすら困難なのだ。彼女の実力がどうであれ、ペアになってくれるというだけで救われる。


「でも、僕で良いの? 君にも相方がいるんじゃあ……」


「あー、うん。大丈夫。元々今年は別の人と組もうって思ってたから」


 出会ってまだ数日しか経っていないが、ここまで歯切れの悪いツキヒは初めて見る。彼女なりの事情があるのだろう。


 しかし理由はどうあれ、彼にとっては都合の良い話である。今を逃せば恐らく二度とペアは見つからないだろう。断る理由など無かった。


「お願いしても、いいかな?」


「うん、こちらこそ。よろしく相棒!」


 ツキヒが笑って差し出す右手を、ヒノワも右手を以て応えた。

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