表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリアル・コード  作者: 松原秋人
1/1

プロローグ

 目を覚ました時、視界に映ったのは燃え盛る炎だけだった。

 人肌を焼く匂いが鼻孔を貫き、意識の調和を乱す。

 助けを求める声と悲痛の叫びが共鳴し、鼓膜を通して脳を揺らす。

 鈍い痛みを帯びた体が、少年を地べたに押し止める。


 ――――熱い、痛い、苦しい。


 燃え尽きた家屋が音を立てて崩れ落ち、行く手を塞ぐ。


 ——もう、ダメなのかな……。


 脳裏に浮かぶのは、当たり前の——けれども美しかった——幼年の記憶。

 声を出せばいつでも見えたあの優しい笑顔も、己の目標となったあの背中も、ともに草原を駆け抜けた友も、今はもう、燃え尽きてしまった。

 まだ幼い一人の少年が受け止めるにはあまりに凄惨な現実。

 なぜこんな目に遭わなければならないのか。なぜこんなに苦しまなければならないのか。なぜ、どうして、この小さな村の人々が。

 世界の不条理を恨み、少年は助けを乞う。


「だ……か……」


 極限まで乾枯(かんこ)した喉が、声帯の機能を阻害する。

 眼前には炎の海。いつもは見えている美しい星空も、荘厳なる山嶺も、今は黒い粉塵に覆い隠されている。


「誰か……誰か……」


 少年の赤い瞳から涙がとめどなく零こぼれる。

 誰も守れなかった。誰も救えなかった。

 憎い。憎い。自分達から全てを奪った奴らが憎い。奴らを前にして何もできなかった自分が、なによりも憎い。

 少年は己の無力さを呪い嘆く。

 食いしばる歯は欠けて落ち、臓腑(ぞうふ)から溢れた血が口内を(おか)した。


「もうやめてくれ…………」


 その少年の切なる願いをあざ笑うかのように、炎は勢いを増し、村を焼き尽くさんとする。

 家屋を飲み、人を飲み、大切なものを壊し続ける。

 気づけば、炎が木材を破裂させ、空気を割る音ばかりが響いている。涙は枯れ、喪うしなうものも無くなった。

 少年は煌々(こうこう)と照る闇に、漆黒より暗い人影を見た気がした。

 その影は、哄笑とも、失笑ともいえぬ表情をしていた。

 折れた骨が軋み、焼け焦げた肌が悲鳴を上げる。だが、これだけは、告げておかねばならない。

 少年は叫んだ。その影に向かって。


「待っていろ。いつか、僕は必ず、必ず……」


 少年の意識は、そこで途絶えた。

文章書くのってめちゃくちゃ難しいですね…

小説家の方々は本当に凄いと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ