おまえは死ぬなと言われた。
タタタタタンっと、小気味いい音が、少しの休憩を挟みながら数時間聞こえてきている。
遊ばれているということを、この場にいる歩兵全員が分かっている。
武器の数が違う。弾薬の数が違う。人数が違う。補給路を断たれたこちらと違い、あちらは兵糧も十分にあるはずだ。
空腹よりも喉の渇きが酷かった。
死んだ仲間の身体の下でじっと身を潜める。動けば、立ち上がれば、待っているのは集中砲火だ。
反撃の機を窺っているのではない。逃げのびるための隙を待っているのだ。
先に進むことは無理だ。きっと、無意味だろう。やつらの後方にあったはずの野戦病院は、たぶんもう無い。
このまま隠れていては、体力が底をつき本当に身動きが取れなくなる。撃たれるのを覚悟して拠点に戻り、指揮官の指示を仰ぐ。
そうすれば打開策があるかもしれない。
そんな希望ともいえない願望は、聞こえてきた重厚な動力音によって、粉みじんに砕け散った。
姿を現したのは、数台の戦車だった。
死体の下に隠れていた仲間が泣きだした。
怒りを覚えるには感情が死に過ぎていたけれど、これは、今、目の前に広がるこの光景は、惨過ぎる。
ひどい訛り、それでもこちらに意味が通じる言葉で、投降勧告の文面を読み上げた男の表情までは分からなかった。
一台の戦車が砲台を動かした。
大砲が発射される。
砲身に吊り下げられていた、二人の女の身体が反動で揺れた。
多分死んだ。
わけのわからない嗚咽と鼻水を垂らし、仲間は泣き続けている。
戦車の砲身の先に両手を括りつけられ、ぶら下げられているのは従軍看護婦だろう。
裸にされ血を流し、戦車が動くたびにゆらゆら揺れている。
辛うじて相手に向けていた銃を、数人が手放した。
こんなの……撃てるわけがない。
もう嫌だ。と誰かがいった。すすり泣く声が聞こえる。
砲身の先で痛めつけられた女が揺れる。
仲間の死体の下で、生きている仲間が絶望に泣く。
視界の端で死体が動いた。がっと肩を掴まれ、それがまだ死体ではない事に気付く。
「お前は戻れ。技術兵のお前が死んだら弾が撃てなくなる。」
「……っ」
武器が使えなければ、戦争は出来ない。
撃てるわけがないのに。戦意なんて、もう、この場にいる誰も持っていないのに。それなのに、まだ続けるために――。
「お前は死ぬな。」
呪いのような言葉だと思った。




