最期の望み
どうしたらいいか分からない。
どうすればいいか分からない。
どうしたいか分からない。
どうすべきだったのか。
殺されて良いとは思っていない。
殺すべきとも思えない。
今、私はどうすれば。
「ごめん。」
息が出来ない。
鈍い痛みで鳩尾殴られたと気付いた。
思わず倒れ込み両手をつく。
激しく咳き込む。
正しい呼吸の仕方が分からない。
「綺麗なままで」
押し倒され首を絞められる。
「殺すから。」
「好きだった。」
「ぁ…っ!」
「ずっと」
「ずっと!」
「ずっと!!」
「っぁ!…ぁ…!」
「これからもずっと!」
「必ず!絶対!後を追うから!」
「…っ…」
「もうすぐ、もうすぐ終わるから…!」
「お願いだから抵抗しないでくれ!」
「後で、あと少しで、!」
「……」
「穂花?」
「穂花??」
「
痛い
苦しい
重い
苦しい
息苦しい
痛い
重い
苦しい
聞こえない
息苦しい
聞こえない
聞こえない
聞こえない
息が出来ない
もう
息が
それは走馬灯なのかもしれない。
翔太がこっちに手を振っている。
その後ろで少女の首を絞めている自分。
だれかを食べている自分。
揺られ流れていく景色。
何で彼女は戻って来たんだ?
何で彼らは殺されていない?
何かがおかしい?
何もかもがおかしい?
まだ死ねない?
また、死ねない?
「嘘だ、まだ生きてるのか?」
「…」
「そんなはずは」
背中から嫌な感じがする。
「……」
横たわる穂花。
「………」
強く胸がはねた。
この鼓動は誰の音だ。
「………っ」
「!!」
思い切り振りかぶった拳が簡単に止まった。
柔らかい穂花の手のひらに包まれて。
「おかしいよ」
「くっ !」
力負けして拳が離れない。
「何で正樹がこんな事してるの」
空いている手で首を狙うが手首を掴まれギリギリで阻止される。
「何で翔太が殺されなきゃいけない」
「それが「なら、何で『酒井真斗』は生きてる」
「高崎達だけが許されて、何で私達はダメなんだ」
「何で」
何で
「何で!」
何で
「私達だけが!!!」
それを言ったところで何も変わらない。
「あ゛ぁっあ゛っっ!!!」
掴んだ手首を逆方向に捻る。
悶える正樹を横目に立ち上がる。
今は真実だけ知れればいい。
「ねぇ、私、何かおかしいかな?
何が違うのかな?」
「あ゛あ゛ぉ…」
悶える正樹を見下ろす。
「こんなにも、こんなにも生きたい。
死にたくない。
死にたいほど生きたい。
辛すぎるよこんなの…!」
「そ、そんなの、当たり前じゃん!」
「…」
「俺だって死にたくないよ!!
殺したくなかった!!
嫌いじゃなかった!!!
正直、憧れてたよ!!」
こちらを睨み返しながら立ち上がる正樹。
「でも!殺らなきゃ殺られてたんだよ!!
何も知らないで勝手に出ていくから!
誰もこんなの最初から望んでなかったよ!!
それでも俺たちを置いて行くから!
俺か翔太と穂花の命なんて比べるまでもなかった!
それでも!それでも!!俺は生きたかった!!!
最後でいい、少しだけでいい、どうせなら。お前らに笑顔で見送られたかったんだ…!
ほんの少しソレを願っただけで翔太は…
最後まで笑って逝ったよ。…」
「そんな……
…私も死にたくないよ。
私だって死にたくないよ。
でも…」
「やっぱり、比べるまでもなかったな。
最初から俺じゃ最後まで敵わない。」
「1人ぼっちにしてごめん」
私はそれでも生きたい
そう願っている間に、
正樹の腹から腕が飛び出した。
巻き散る血飛沫と伝う血。
誰が泣いてるのかも分からない。
「泣いて…くれるのなら、俺も、もう、少し、生きた、かった。な。」
腕が引き抜かれると、返り血がよく似合う女が居た。
「そうはいかないよ。」
倒れる正樹の最期の顔は、笑顔を作れずに虚ろ向いていた。
「約束は守ってもらうよ。」