裏切
寒さに耐え切れず目が覚めた。
体が震えて動けない。
動けば寒さなんて忘れる。
その寒さが忘れられず動けない。
外はまだ暗い。
臭いがする。
嫌な臭い。
お腹が空いてきた。
すると不思議と寒さも忘れ、その臭いに強烈に引き寄せられる。
分かっている。
分かっている。が、体が勝手に動くのを否定できない。
向かう先、近づくにつれ臭いのせいでヨダレが止まらない。
目に映る朱、赤、紅。
臭いも色も濃く濃くなる。
散らばる食べカスよりも、それを食べ散らかしたモノに興味がある。
意思とは無関係な意識が足を進める。
「先生」
その先にはやはり肉を貪る人間がいた。
「?」
こちらに気付き振り返るその顔はいつも通りの先生の顔だった。
「言われた通り行って、アテがなくなったので帰って来ましたよ。」
「おお、久しぶりだな。
お前も食うか?」
差し出される肉。
思わず手がのびる。
「やめて!」
後少しで口に入れる所だった。
どこの部位かは分からないが、恐らくそこに転がる死体の何処かだろう。
もはや誰かも分からない死体。
「こうなるのが嫌で抗って来たんじゃないの!?
何でも普通に食べてるの!?」
それでも食べる手を止めない先生。
「そうは言っても、『人間』食わないと死んじゃうだろ。」
「それはどっちの意味ですか!?」
「まあ両方だけど、話を合わせるなら、
私達は人間を食べないと死んでしまう。だな。」
「抑制剤はどうしたんですか」
「プラシーボ効果って知ってるか?」
「じゃあこの注射も偽物ですか」
「お!まだ使ってなかったのか。
まあ効果は半々。
打ってみるか?」
「私はずっと騙されてたの?」
力が抜けて膝をつく。
「まあそう落ち込むな。
全部が全部嘘じゃない。」
「説得力ないよ。」
「生がダメなら焼くか?」
「…」
「人間食わないと死ぬっていうのは残念ながら事実だ。死にたくなかったら食え。」
「何でですか」
「私達を作った偉い人に言え。」
「どうやって」
「直接会えばいい。」
「どうやって」
「その内来るさ。」
「…」
ただただ呆然とお腹を鳴らしながら先生が食べ尽くすのを眺めていた。
行く宛も帰る場所もない。
さあ、どうしよう
「いつまでもそんな所に居ると喰われちまうぞ。」
振り返る正樹が居た。
「そいつは裏切り者だからな。」
前日話しかけたのも正樹くんです。
昔からつるんでた2人の1人。
そういえばまだ名前が出てなかったので。




