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空の空  作者: lycoris
空の空
9/113

遠くの木枯らし

解散とは言ったものの、それぞれ自分たちの担当場所へ散るだけだ。

今日の今日までサボってきた連中は、無理やり人での少ないところにぶち込んだ。

今は手段を選んでられない。

考えている時間すら怪しい。

サボり始めていた子達は少し気まずそうに、初日からほぼ居ない連中は開き直ってるのと、ただ突っ立ってるだけのに別れた。

今日は徹底抗戦。

(あたし)は参加せずに監督をする。

今までも指揮を執っていただが、今日は細かい動きを、結果ではなく過程のみに集中する。

不平不満がある者を全員完膚なきまでにねじ伏せる。

そんなわけで今日の本監督は委員長に丸投げ。

先生が若干サポートしてくれる事で納得してくれた。

私はそれぞれの製作場所へと息巻いて足を運ぶ。


最初は看板製作担当場所。

教室の机を全て後ろに下げ、確保したスペースを出入口、立看板の3つで狭いながらも分けて使っていた。

雰囲気的にはもう終盤なのでミスをしないように緊張感が感じ取られた。

それでもみんな楽しそうにしている。

サボりを除いては。

残念な事に、中学校の子も居て、合計で5人。

そいつらの顔を睨むように見回して記憶していく。

生憎と1人じゃサボれないような連中のようで近くで固まっている。

私の姿を確認した彼らはバツの悪そうに、仕事をしているフリをしたり、それでも話し続けていた。

短距離かつ早足で逃がす前に接近する。

正面に立ち、一息吸う。

「あなた達、名前は」

張り上げないように抑えて声を出す。

それでも全員には届くよう。

「佐藤です。」

「鈴木です。」

「田中です。」

「…。」

「…。」

が、答えたのは中学生の3人のみだった。

残りは同じクラスメート。

なんと情けない。

そんな彼らの

「名前、なんだっけ?」

命令口調で告げる。

「あん?」

「…。」

1人が私の方を見る。

もう1人は未だ黙り。

「で、名前。

自分の名前も分からないのか、そもそも名前が無いのか。」

「は?喧嘩売ってんの?」

「…。」

「…そう」

それから目線を中学生達の方に変える。

睨んでるつもりも無いのにビクッとした。

近くに道具を取りに来た責任者の加藤さんを呼び止める。

「ねぇ、加藤さん。そこの佐藤、鈴木、田中に仕事はある?」

「う〜ん、と。今は仕上げだからねぇ〜」

「なんでもいい。簡単なモノでも雑用でも。

なんでもいいよ、仕事になりさえすれば。

それこそ突っ立ってても。」

「あー、なら、

仕上げ中だしなにかおかしい所、ミスが無いか見ててくれる。

見つけたらすぐに呼んで。

それならむしろ立っててくれてるだけの方がいいし。」

「そうね。

佐藤、鈴木、田中、すぐに持ち場につきなさい。」

「「「はいっ」」」

それから残りカスの方を向く。

「さて、こいつらには?」

指を指して尋ねる。

「うーん、今から途中参加というのもどうも…」

「そう、分かった。じゃあ連れてくけどいい?」

「ああ、うん。いいよ。

それにしても、本当に『本気』って感じだね、今日の高崎さんは。」

「別に私は最初っから本気だったよ。」

「へぇ、それが聞けてよかったよ。

大丈夫、私は間に合わせるから。」

「ありがとう、加藤さん。

それじゃあ頑張ってね。」

責任者である加藤さんをいつまでも引き止めておくわけにはいかない。

「ええ、そっちこそ頑張って。

一応、私も本気だから。」

互いの武運を祈ってサムズアップを交わし合う。

今は本気。私はそう捉えた。

それはそれで、これこそが嬉しかった。

私の本気が誰かに伝わって誰かも本気になってくれる。

本気のぶつかり合いは、私にとっての青春だ。

だから、私は、彼らの本気も見てみたかった。

(あたし)が、本気だから。

「ほら、行くよ。」

1人は立ち上がった。

残りは、まだ反抗するようだ。

「なんで俺がお前の言う事を聞かなきゃいけねぇんだよ。」

大方帰りのHLで騒動を起こした奴とつるんでいるんだろう。と簡単に想像できる。

「じゃああなたは何故この場に居るの?」

「は?」

立ち上がった方はジッと私を見ている。

「成績が怖いの?先生が怖いの?

それとも私が怖いの?」

ついに立ち上がって詰め寄ってくる。

「あんまり調子に乗んなよ。女だからって」

あんまりにも体が生理的に拒絶反応を起こすものだから、

彼の顎下から突き上げる様に胸ぐらを掴む。

そのまま指先に力を入れ最後にそれを手首に伝せる。

「誰が、調子に乗ってるって?」

彼は爪先に立ちになりながらも驚愕の視線を向ける。

「えっ?うぇっ?!」

「あまり調子に乗るなよ」

最後に腕力を使いゆっくりと彼の爪先と地面を離してやる。

「言ったはずだよね。これは命令だって。

強制、あなたは従うしか無いの。ね?」

私の持ち上げている腕を必死に引き剥がそうと抵抗する。

時間が惜しい。

一つ睨んでやるとビクッと怯み、一瞬抵抗は止んだが新しい手が私の腕を掴んだ。

「もうやめろ高崎。俺たちが悪かった。」

もう1人が止めに入った。

視線でその存在を確認してから、力を抜きつつ解放してやった。

「ゲホッ、ゲホッハァ、ゲホ」

呼吸を整えている間に割り込んできた方と話をする。

「どうせ最初はコイツから手を出すだろうと思って抑えようとしてたんだが、まさか逆を抑えるとは思わなかったな。」

「それで?」

「ん?いやぁ、実行委員殿は恐ろしいと思っただけだよ。」

「あ、っそ、」

出口へと向き直す。

「ほら、行くよ。」

「はあ?だからなんで俺たちが」

「もういいから行くぞ!」

片方が不満を吐き散らすのを、片方が興味無さげに(なだ)める。

次は小道具の担当場所へ向かう。

小道具と言っても、調理器具の一部や、食材を運んだりする。

当日の教室内の机のセッティングなどもする。

先週までは他の担当場所へ手伝いに行っていたが、今週からは試作用に材料を運んだり学校自体の学園祭準備に駆り出されている。

元々人数のいない場所だ。

だから、今日は責任者1人でやっていた。

「こんにちは渡瀬くん。」

「あ、高崎さん、どうも。」

私の後ろを見て訝しげにしている。

「どういった用件?」

「人手が要るだろうと思って連れてきたの。」

小道具の責任者の渡瀬くんは荷物を一旦降ろした。

「おお、助かる。サンキュー。

やっぱ本気なんだな。」

手が空いた事で、感謝の印として私の前へ片手を差し出した。

「所で、他の担当は?」

「え、

あ…」

気まずそうに片手が宙を彷徨っている。

「わかんねぇな、集合場所には誰も来なくて、時間が無いから俺1人で運んでたんだよ。」

「そう、」

まっすぐ彼の目を覗き込む。

一瞬で目を逸らして、手も引っ込めようとする。

その手を掴んで一度振る。

「来なかった人達は何処に居るか分かる?」

ここに居る全員に問いかけるように聞く。

「いや、分かってても探しに行く時間も今からじゃなさそうだし。」

連れてきた2人は答えないようだが、知らない様子だった。

「手間をかけさせるね。ごめんなさい。そして、ありがとう。」

「あ、いや、それほどでも。」

照れているところ悪いが現状時間は押しているので、

「じゃあ、2人とも、しっかりやってね。」

もう一度手を振ってからやっと離してやる。

少し手汗が付いたが、気にするような事でもない。

突っ掛かってきた方を少し睨みながらこの場を後にした。

(あたし)ではあの2人の本気を引き出せなかったのが少し悔やまれるが、それで足が重くなってては既に身動きすら取れなくなってしまう。

だから、その枷を振り払って、

次なるサボり組を探しに行く。


次は当日用の法被(はっぴ)の製作担当場所へ。

































担当場所の責任者は即興適当に考えました。

普段からパッと浮かべばいいんですがね。

まあ次出番があるかどうかは…


と、補足として

綺音ちゃんの身長は163cmです。

他の数値は乙女の秘密だそうで。

胸ぐら掴まれた方はまあ、(男にしては)小っちゃい方で保管して頂けると。

まあ必要のない蛇足かもしれませんがね。


それではまた

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