アヤネとアカネ
誰かが手を握っている気がした。
目が覚めた時、白いベッドの上に居た。
自分の周りを計測器具が取り囲み、
その近くで白衣の大人たちが忙しなく手を動かしている。
その手は錯覚だったのだと気付いた時、女が来た。
「おはよう、綺音。
調子はどう?」
「…あ、やね?」
「そう。
痛みとかはない?」
「…」
ゆっくりと首を振った。
それが精一杯だった。
「そう。
もう少しの辛抱だからね。」
「…」
私の頭を撫で何処かへと行ってしまった。
「…」
何も思い出せない。
何も。
あやね
知らない言葉。
その言葉を頭の中で繰り返していると、今度は男がやって来た。
「おお、綺音、目が覚めたのか?」
「…」
「ああ、良かった、良かった。」
この男は、私を見ながら別の物を見ているような気がした。
私の手をとる。
「これで…」
そこから先は聞き取れなかった。
そのまま呟きながら男は何処かへ行った。
あの手じゃなかった。
失望と共に目を伏せ、次に目を覚ました時には、
さっきと違う場所に居た。
「おはよう。」
「…」
まただ。
「起きれる?」
「…。」
だが今度は周りに機械や人はなかった。
「何か欲しいものは?」
「…」
ない。
「何かしたい?」
「…」
ない。
「…じゃあ昼になったらまた呼ぶから。」
男は私の頭を撫でてから何処かへ行った。
外は明るかった。
布団から出て探索してみた。
本当に知らない場所だった。
分かったのはそのくらい。
「お、こんな所にいたのか。」
さっきの男だ。
「飯出来たぞ!」
私の頭を撫でてから私の手をとった。
「腹減ったろ?」
そのまま手を引かれ、連れて行かれた先には知らない人達が居た。
「おはよう。」
みんな口を揃えて言う。
それからこの人達と一緒に同じものを食べた。
「美味いか?」
聞かれても分からない。
「黙ってても食うって事は『不味くはない』って事だな。」
「えー、結構グルメなんですね。」
「そりゃあ毎日アタシが作った料理を食べてるんだから。」
「じゃ午後は任せちゃおうかしら?」
「えっと、それはまた今度の機会に」
「俺、楽しみっす!」
「あらあら」
みんなが笑ってる。
「おかわりもあるから、たくさん食べろよ。」
また、この男に撫でられた。
食べるのに邪魔だ。
窮屈な食事が終わってする事が無くなった。
そんな私の横にまたあの男が来た。
「スイカ、食うか?」
返事もしてないのに構わず私の横に皿を置いた。
「種には気をつけろよ。」
返事もしてないのに。
スイカは甘かった。
「散歩でもするか?」
「…」
「暇だからだよ。」
「…」
男は私の手を引いた。
そのまま森の方へと連れられた。
「何か感じるか?」
「…」
言ってる意味が分からない。
「そうか…」
握る手に力がこもる。
「じゃあ何か見えるか?」
分からない。
「…」
この手は
「アカネ!」
誰の手?
私は誰?




