真斗と夏七子と 3
「何してんだ!早く殺れよ!!」
「ごめんなさい…」
どうやら俺に謝ってるわけでは無いようだ。
…なら、邪魔するなよ。
一気に起き上がって殴りかかろうとするも阻まれる。
「いいから殺せ!役立たず!!」
こいつ!
「早く!早くぅ!!!」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
俺が殴っても彼女は動じない。
まるで何もなかったかのように謝り続ける。
「このぉ!!いいからヤレよ!!」
何の遠慮もなく、男はただ思いっきり殴った。
それでもなお。
「ごめんなさい…」
「チッ!…」
痺れを切らして男は帰った。
「…」
彼女は謝る事をやめた。
そして膝から崩れ落ちた。
今さら、目の前の少女が年相応に見えた。
「…」
今さら、何て声をかければいい?
「…。」
彼女はそのまま空を見上げていた。
その虚ろな目、どこかで見覚えがあった。
思わず手を伸ばす。
「あ
そこから先が出なかった。
彼女は、 彼女は誰だ?
俺が好きになったのは、
俺が思いを寄せていた、
確かにそれは、
でも俺は最初から、
最後にやっと分かったじゃないか
俺は、俺が、
僕が、
初めから求めていたもの
その目には、
その目の映る空は、
誰もいない
ただ見上げるだけの空は_空の ̄
知っていたんだ、自分は一人だと
知っているんだ、自分は一人だと
だから、彼女は一人だった
一人だった彼女を好いたのは俺だ
俺が好いたのは一人の彼女だ
初まりも終わりも彼女は一人だった
だから俺はこんなにも
こんなにも
今さらだ
今さらこんな事を自覚するなんて
もうそこに一人の彼女はいない
今さら俺は一人じゃなかったのだ
一人じゃなければ彼女と寄り添えた
だから今さらもう一度彼女に
『会いたい』
_ただそれだけだった
だから俺は、今さら込み上げてくるモノを抑えられなかった。
熱い、熱いソレは頬を伝う。
もう無いと思っていた。
あの時に、父が死んだあの時に枯れ果てたのだと。
目の前の彼女は言った。
自分は第二世代だと。
ならば、ならば
「お前は、自分の事をどこまで知ってる?」
こちらに気を向かせるために抱きしめた。
それから彼女は、夏七子は語った。
人形人食種_今さらその名を知る。
そして第二世代とは、
第一世代とは、
彼女について知っている事、、
どうやら繋がれた彼女の手は別の場所にあるようだ。
人形人食種の中でもっとも自我を保ったサンプルとして第二世代の礎になった。
その代わりに、夏七子が同じ歳になったら自分の腕を差し出すと言った。
夏七子が俺についてどれだけ知っているかは知らない。
だから、ただその頭を撫でた。
それから、その日から、
俺は徐々に夏七子を気にかけ始めた。
それから俺は夏七子を庇い始め、
それから俺は母と対立し、
それから男は出て行き、
母は男を追って消えた。
最初は、夏七子を無視していた祖母も、
次第に…
そして最後には、夏七子に食われる事を選んだ。
俺に後を託して、自分だけ一人でイッた。
満足気に。
残された俺たちはそのまま仕組まれた運命に、
そして、欲深い俺はただ彼女に会うために綺音を利用した。
しようとした。
結局最後には、
一人になった彼女の手によって俺は、
誰かに会う事を忘れ、一人になった。
久しぶりにペンが走った、という感じです。
複数の言葉に複数の意味を込めて、答えは一つですが、解釈は任せます。
予定より勢いで端折ってますが、彼と彼女の前日譚はここまでです。