空を越えて
あれ?
ここどこだろう。
揺られてる。
暑い、熱い。
体が冷え切っているようで、
ピクリとも動かない。
誰かに抱かれて揺られている。
この懐かしい感触。
きっと真斗だろう。
この温かさ、心地良さは。
覚えている。
真斗は泣いている。
泣いたまま、私を抱えて彷徨っている。
真斗から伝った雫が私の頬に垂れる。
それでも私は目覚めない。
これは夢?
私は確か一度も真斗に抱き抱えられた事なんて無かったはず。
それでもこの懐かしい感触。
真っ暗な私を温めてくれる真斗。
じゃあ真斗を温めているのは?
真斗は泣いている。
寒いからだろうか?
なら、私が温めてあげる。
私が
真斗を
「ぁ」
目が醒めると、さっきまでの事が夢なんだと分かった。
目の前には火の海が広がっている。
そうだ。
私が、
私が真斗を温めてあげなくちゃ。
真斗は私の目の前に寝転がっていた。
まるで二度と目を覚まさないかのように寝入っている。
こんな場面なのにぐっすりと寝てしまっているだなんて。
まったく真斗は。
しょうがない。
寒くないように私が温めてあげよう。
私もなんだか寒くなって来ていた。
だから、腕が無い真斗の代わりに、側に落ちていた夏七子の髪飾りを手に握り締め、真斗に覆い被さるように身を投げ出した。
これでみんな一緒。
誰も寒くなんか無い。
みんな一緒。
暗い
クライ
くらい
その日は真斗によって起こされた。
夏七子ちゃんが今日の朝食当番だ。
なので、着替えるので真斗を部屋から追い出した。
そして、忘れてしまった夢を必死に思い出そうとするが、
サンタクロースだけが何故か思い浮かび、それ以外は重く靄がかかっていて、何も、何も思い出せなかった。
悪夢ではない、だろうが、嫌な夢であった。
そんな事くらいしか覚えていない。
気にしてもしょうがない。
着替え終わった頃には気持ちも入れ替わっていた。
うやむやでどうしようもないことよりも、
目の前の片付けるべき事がある。
気合を入れる。
夏七子ちゃんお手製の朝食を食べて
学園祭まで1週間目前に野望を燃やす。
バス内で追加の睡眠もとって、
意気込むがまずは授業だ。
教室に入ると、サボっている奴らがさも平然と「文化祭が楽しみ」だのほざいていたから、思わず込み上げるものでも、前に真斗が中学生相手に手をあげたのを思い出しぎゅっと堪えた。
こいう奴らがのさぼっているから今の世の中は…
気合が横道に逸れないように、授業の準備をして、教室に着いている友達と雑談を交わし誤魔化す。
そうして始業のチャイムがなった。
朝のHLで先生が言った。
「さあ、もうすぐ学園祭が迫っている。
だからって勉学を疎かにする事なく、だからって学園祭を抑制する気もない。何事にも全力に取り組めばいい。
君たちはまだ若いんだ。なんでも、とは言わない、出来る事以上にやりたい事をやれ。
戻らない時を必死に生きろ。
後で後悔しても今は今でしかない、今を後悔するな。
ってなわけで、学園祭準備も忙しいだろうがちゃんと寝ろよって事。
あと、全力の奴を邪魔するやつ邪魔になるやつに私は容赦しないからな。」
最初が業務的に、徐々に情熱的に、最後には冷徹に言い放った。
教室になんとも言えない空気が流れていても、委員長の号令でいつもの授業前の雰囲気になる。
先生は教室を出る際に私に視線を送っていた。
昼放課になると先生に談話室に呼び出しがかかった。
私と委員長、青山さんは今日は休みなので2人だけが呼ばれた。
「さあ、朝の話で大体察しはついているだろうが。」
そこで一旦区切って先生は自分にだけあるお茶を飲んだ。
「例年、私が見てきた中じゃ今年のは間に合わないだろうな。
絶対に。」
先生の言葉はあらゆる意味で強かった。
「ギリギリだった年でも今頃には"クラスが一丸となって"追い上げをかけてやっと、ギリギリだった。
まあ今回は私があまり直接関わらなかったのもあるけどな。」
委員長は完全に俯いてしまっている。
私はただ先生から目を離さないようにしていた。
「どうだ、間に合うか?」
問いかけてからお茶を一口すすった。
私達がすぐに答えられないのを知っているから。
私も、直接ハッキリと言われて揺れている。
そんな中委員長が口を開けようとした時、先生はにやけながら訂正した。
「いや、我がクラスは学園祭に参加できる、か?」
本当に意地の悪い。
思わず先生を嫌いそうになる程。
だが、先生は笑っているんだ。
この状況で。
なら。
「…間に合います。」
「ほう?」
先生はまるで聞き取れなかったかのように問い返す。
「間に合わせます。私達のクラスは学園祭でお好み焼き屋をやります。」
響かないように、だが力強く言った。
宣言した私を委員長は不安気に見ていた。
大丈夫、大丈夫だよ。
心の中で言う。
睨むわけではないが強く先生に眼差しを送る。
睨めっこをやっているのではないかという間が空いてから。
「分かった。
お好み焼き屋、で良いんだな?」
「はい。」
迷いならある。
でも迷ってる暇はない。
学園祭を間に合わせるのなら。
「委員長も、それでいいよね?」
「え、うん、」
委員長はまだ煮え切ってない様だが、そんな時間も惜しいのだ。
「分かった。
時間を取らせて悪かったな。出来るだけの事はやってやる。
ただ、最後はお前たちがどうするか、だからな。」
「はい!」
「はい。」
少しだけ残っていたお茶を全部飲み干してから先生は出て行った。
茶碗はそのままでいいとの事。
私は委員長に視線を送ってから一口で一気に飲み干して教室に戻った。
委員長は私より数分遅れて教室に入ってきた。
その頃には私は昼食を済ませ眠ろうとしていた。
委員長は何かを言いたげに私を見たが、結局言えずに自分の席に着いた。
今日の帰りのHL。
先生に言われ教壇の前に立った。
「じゃあ、最後に学園祭についてのお知らせがある。
高崎。」
「はい。」
委員長がものすごく不安そうにしている。
「学園祭の事ですが。最終的に"お好み焼き"のみになりました。
焼きそばはやはり間に合わない様なので却下になりました。」
当然バッシングは来た。
どれもこれも考え無しの感情論ばかり。
そんな中1人だけ意外な人物が手を挙げた。
「どうしてですか?」
ザワつきが少し止み、その人物が周りにもわかった。
「率直に時間が無いからです。」
他人行儀に答える。
「何故、時間が無いんですか?」
クラス中で口を開けているのは2人だけになっていた。
「今日、これまでの作業が遅かったからです。」
「何故、作業は遅れたのですか?」
「偏に、人員の不足です。」
「何故、人員が不足しているのですか?」
「予定していた人員を実際の人員が下回っていた。それだけです。」
「なら、何故焼きそばを企画したのですか。」
「人員が企画当初よりさらに減ると予測していなかった、要は調子に乗っていた、だけです。」
「では、最後に、お好み焼きは間に合いますか?」
「間に合せます。」
「本当に?」
「はい。すいません、最後にこちらからの質問もいいですか?」
「はい。」
「もし、間に合わないとしたら、それは何が原因になると思いますか?」
「偏に、人員の不足。これ以上の不足、いえ、これまでの不足を合わせてやっと、間に合うかどうかじゃないでしょうか?」
「そうですか。ありがとうございます。」
委員長はやっと手を下ろした。
「そういう訳で、今日から全員、残って貰います。どうしても無理だと言う方は先生に直接理由を述べて下さい。」
「ならアタシは今日塾があるから。」
サボり筆頭が先生に言い訳をしようとする。
「そして、証拠の後日提示をお願いします。」
「はぁ?」
それは複数の声でもあった。
「今日からは全員、強制参加です。」
「は?ふざけんなよ、用事があるって言ってんじゃん。」
「でしたら、理由と後日の証拠提示をして下さい。」
「んなのしなくてもいいだろ?別に。何の権利があってアンタが仕切ってるわけ?」
「私は実行委員です。それだけです。」
「アンタ大概にしなよ。実行委員がそんなに偉いわけ?」
「実行委員でもないあなたはどんなに偉いんですか?」
「あ?」
猿なんじゃないかと思うほどすぐに簡単に激情する。
席を立って教卓を挟んで私の前まで詰め寄る。
「何様のつもり?」
「実行委員です。」
「ふざけんなよ!」
先生の眼の前で胸ぐらを掴むとは、脳が足りない割に度胸だけはあるようだ。
「アタシは、帰るから。」
吐き捨てるように言って胸ぐらから離そうとした時、手首を掴む。
「!?」
「全員、強制参加です。」
貼り付けた笑顔で言う。
それ見ている先生も微笑んでいる。
だから、これでいい。
「ふざんなって!手ェ離せよ!」
反抗するのを一度こちらに強く引き寄せてから離してやった。
すると反動で後ろに転んでしまった。
「いった!
テメェ、いい加減にしろよ」
「はい、そこまで。」
先生が私の前に立ち塞がる。
私を守るように。
「そういう事だから、今日から学園祭に向けて全員で頑張ろう!
じゃあ解散!つっても帰るなよ!」
先生は非常に上機嫌で都合のいいオモチャを見つけたいじめっ子のようだった。
その笑みは熱く冷たく腹の底が大層黒いモノだった。
遅くなりました。
すみませんでした、本当に。
切りどころもイマイチわからず人によっては中途半端ですが、長くならないようにと、ご容赦を。
そんなわけで、
サボり魔筆頭を「山本 穂花」にします。
委員長にも名前をぉ…
それでは