朝焼けの木漏れ日
少し落ち着くと夏七子ちゃんは「ありがとう」と言って瞳を潤ませながらも部屋を出て行った。
私は、腹ごなしにリビングに降りた。
真斗は居なかった。
が、延期に過ぎない。
ひとまず夏七子ちゃんの手料理をレンジで温めなおしていただく。
少し味が濃かったが、私が同い年だった頃に比べればすごく美味しい。
ひょっとしたら今でも大差ないのかもしれないけど、
でもそんな夏七子ちゃんの手料理は沁みた。
シジミとアサリのお味噌汁、豆腐、納豆、骨抜きされた鮭。
初めて食べたはずなのに懐かしい。
胃袋を掴まれたのだろうか。
美味しかった。
「ごちそうさまでした。」
一人手を合わせ、後片付けをする。
ちょうど、真斗が帰ってきた。
私を見るなり気にしない素振りでお風呂に入りに行った。
皿洗いが終わって机を拭いていると風呂上がりの真斗がリビングに戻ってきた。
真斗は基本リビングにいる。
今回は冷蔵庫のものを取り出すためだったのかもしれないが。
冷蔵庫から振り返った真斗の前に立ち塞がった。
「おかえり」
少しニヤけそうになる。
やはり真斗が冷蔵庫から取り出したのは酒瓶。
「え、た、ただいま。」
中々良いリアクションね。
「ちょっと歯ぁ食いしばっててね!」
「え?」
ッパシーン!
訳が分からないという真斗の顔に思い切りビンタをしてやった。
「テッ!?」
グーじゃないだけありがたいと思いなさい。
「何すんだよ!」
さすがの真斗も怒るだろう。
だが、さすが真斗、手はあげない。
「自分の胸に聞きなさい!」
真斗が一瞬受け身を取ろうとするくらいの勢いで真斗の胸元を指差す。
「はぁっ!?」
「それと!次はあんたが私を打ちなさい!」
「はあっ!?」
さらに混乱する真斗が面白くて面白くて。
もう我慢なんて忘れていた。
そんなものは最初から必要なかったのかもしれない。
「私があんたを打ったんだから、あなたは私を打つ権利がある!先に始めたのは私!だから、文句も後腐れもない!」
「だからってお前」
「ほらっ」
自分から真斗に顔を近付ける。
「いや、お前、バカ」
「いいから!それとも打ち返すまで打たれたいの!?」
「なんでそうなるんだよ!そもそも!」
「い、い、か、ら!ほら!」
真斗が徐々に後退る。
「どうして、お前!」
「さあっ!」
遂に真斗の背中は冷蔵庫にひっついた。
「だからってお前を殴れるかよ!」
「どうして打てないの!?」
「お、お前が大事だからだよ!!」
これ以上後には退けない真斗はぶちまけた。
一瞬頭が真っ白になった。
「だったら、夏七子ちゃんの事は!?」
「もちろん大事だ!!」
だがここまではシナリオ通りだ。
「なら、ちゃんと大事にしなさいよ!!」
「はい!」
「なら、もう泣かせない!?」
「はい!」
「じゃあ今からする事は分かってるよねっ!?」
一瞬真斗が持ってる酒瓶に視線を逸らした。
視線を戻す時には前より鋭くする。
「はいぃっ!」
ちょっと退いて逃げ道を作ってやると真斗は開放したままの縁側から酒瓶を投げ捨てた。
ガサガサ
残念ながら瓶の割れる音は聞こえなかったが落下する草の音は聞こえた。
おかげか真斗もやっと冷静になったのだろう。
投球フォームのまま固まっていた。
そんな真斗に声をかけてやった。
「正解!」
ポンと自分よりも高い肩に手を置いた。
「馬鹿野郎お前、アレは大事な」
真斗は言いかけた。
が、さすが真斗。
もう間違えたりはしないだろう。
「お前、本当に、」
真斗の歯切れが悪い。
何とも言えない何も言えない表情の真斗。
そんな真斗にお詫びと褒美も含めて抱き付いてやった。
「ありがとう、真斗!」
真斗がびっくりしたのが体から伝わった。
「急にどうしたんだよお前!」
「信じてた!きっと真斗なら。って!」
真斗は私を打たない。
それは真斗だから。
真斗は私が信じた真斗だった。
「こんな卑怯な私でも真斗は!だから、ありがとう!」
もっと力を込めて抱き締めてやった。
真斗は落ち着きなくあちらこちらを見渡しては手を空中で彷徨わせている。
「え、あ、うん、どういたしまして。」
「ねぇ、真斗。」
グイッと顔を真斗に近付ける。
まだ足りないのだ。
「分かるよね?」
「えっ?いや、それはその…」
真斗が凄く戸惑っている。
顔はもちろん耳まで真っ赤だ。
いつもなんだかんだどっしりしていたのに。
「ね?」
さらに顔を近付ける。
「あ、ああっ!」
真斗は決心したように目を閉じる。
「じゃあっ」
パッと真斗を開放し後ろに回って背中を押した。
「さっさと夏七子ちゃんに謝ってきなさい!」
「えぇっ!?あっ、おう!」
お互い気まずいので真斗は空気を読んでさっさとリビングを出た。
のだが、ひょっこり顔を出して、
「綺音、ありがとう!」
なんて久しぶりの笑顔で言うもんだから、
私は私を落ち着かせるために、縁側から夜空の雲に隠れた月を僅かな星明かりを頼りに探していた。
夜間は今見ている方角から逆に月が出ているのにこの時はまだ気付かなった。
が今は月を見つける事よりも、探すことで気を紛らす事の方が大事だった。
だから、今はこれでいい。
これでいい。と、私は思う。
なんだか顔が暑いけども、
2夜連続です。
頑張りますた。
そういえば、真斗くんの禁酒宣言は本文では出てないですが、綺音ちゃんが来る前から既にしていた事です。
そんなわけで久々のラブコメ。(?)
次回もばばんと行けたらいいなぁと思いつつ。
突貫でしたので誤字脱字の方あるかもしれませんがよろしくお願いします。
それでは