消えない雲
家に着くと、夏七子ちゃんはもう寝かしつけられていた。
家の中は妙に静かで、そんな中真斗は淡々と料理を作っていた。
無駄にいい匂いがするのが台無しだが、刃物や火を扱っているので昼間の話は後回しにして、私は風呂に入った。
上がると、真斗は居なくなっており、代わりに机に一人分の料理が並べられていた。
無造作に洗い物だけが流しに置かれている。
並べられた料理の食器の前には私の箸が置いてある事から、昼間の真斗が信じられなくなる。夢だったのではないか。
ごちそう、にしては寂しい夕飯を食べ終わって、お礼代わりの皿洗いを済ませると丁度真斗が帰ってきた。
ガラッ
「…」
リビングに入るなり私の顔を見ようともしないで、冷蔵庫の奥から酒を取り出した。
「ちょっと。」
手を拭き終わり真斗を呼び止める。
「なんだよ。」
いつもより暗い。
「その手に持ってるものは何。」
「…ジュースだよ。」
は?
「ふざけないでよ!」
「ちょっとアルコールが入ってるからってうるせぇなぁ。」
さすがの私にもジュースじゃない事は分かった。
それに、今真斗が持っているのはよくお父さんが好んで飲んでいた瓶だ。
確かウィスキーだったような。
それを持って真斗はまた縁側まで行く。
肌寒い風が吹く。
それを暖めるようにため息を吐き、瓶の栓を回した。
「そうやって逃げるの?」
真斗の後ろに立って見下ろす。
あんなに頼り甲斐のある背中が今は見る影もない。
「ああ、今も昔もこれからも。」
「逃げてきた?」
「ああ。そうしてやっとここに辿り着いた。」
真斗が持っているのは酒瓶だけ。
何も割らず何にも注がずにわっぱ飲みする。
「でも、ここからも逃げ出すんでしょう?」
「そうなるな。」
「じゃあ次はどこに逃げの?」
呆れた。
いや、真斗に変な期待をし過ぎただけかもしれない。
無意識に許嫁というだけで真斗を高く評価し過ぎていたのかもしれない。
「さあな。
でも、またここへ辿り着くんだ。ここに来るまでまた逃げ続ける。」
虚空を見つめ酒を呷る真斗。
情けない。だが、どこか引っかかる。
「それじゃあ、貴方が置いて逃げ出したモノはどうなるの?」
「それからも、逃げ出すんじゃないか。」
引っ叩きたくなる。
「…夏七子ちゃんはどうするの?」
拳に力が入る。
「俺には、どうしようもねぇんだ…」
真斗が泣いた。
震える背中はまるで虐待に耐えている子供のよう。
真斗の頬から伝わる雫は酒か涙か、それが乾くのにはもう少し風に当たる必要がある。
もう冷めてしまた。
この男には失望した。
「ごめん」
鼻水をすすりながら、去ろうとしていた私に謝った。
「相手が違うでしょ。」
吐き捨てるように言って自室に向かった。
そういえば、『ごちそうさま』を言いそびれていたのを思い出した。
礼儀正しくを厳しく教育されたので何だか気持ちが悪い。
だが、今の真斗にはそれを言う気が起きない。
感情を優先してしまう自分にも嫌気がさす。
何だかモヤモヤしたまま、振り払うように眠りにつく。
そう簡単に眠れる訳もなく、翌朝バス内で学校の前のバス停で声をかけられるまで眠っていた。
授業中も悔しいことに眠ってしまった。
心配され、保健室まで薦められたが大丈夫だと振る舞った。
今日からは中学生たちも交えて学園祭の準備に取り掛かる。
はじめに互いに自己紹介をしあい、仕事の再分配をした。
仕方がないが、今日の作業時間はいつもの半分。
ぎこちなくも中学生たちと協力を始めた。
情けないが今日も仕事をサボる者は多かった。。
昼間寝ていたせいで夜なかなか寝付けず、家の中に居ても空気が不味いので軽く分かる道のり内で走った。
夜道なので夏七子ちゃんには心配されたが、誰にも会わずに帰った。
汗を流してお風呂を上がった頃には真斗はもう寝ていて、夏七子ちゃんも明日の準備をしていた。
私も寝なきゃといつもより早めに寝た。
寝た、はずなのに今日も授業中は危なかった。
バス内でも頭をこくりこくりと揺らしていて、昼休みも食べ終わってはすぐに眠ってしまった。
何故こんなに疲れているんだろう。
しばらく寝ていなよと青山さんに言われ、委員長にまで後押しされたので、みんなに申し訳ないがしばらく保健室で寝ている事にした。
自然と目が覚めて、状況を確認しに教室に行くと、青山さんが一人泣いていた。
「どうしたの!?」
「ごめん、ごめんなさい、ぅぅ、グスッ」
「大丈夫なの!?」
慌てて駆け寄る。
見た所外傷はないけど。
「うぅん、違うの、わ、私、ダメだった、ごめんなさ、ぃ、ン」
しゃくり混じりに青山さんが謝る。
顔は机に突っ伏したままだが、袖が濡れているので分かる。
「大丈夫、大丈夫だから。」
青山さんは精神的要因で泣いているのでまずは宥める。
友達としても泣いているのを見過ごせない。
「グスッ、ぅう、うあぁぁあああぁん!わあぁあ!」
泣き噦る青山さんが落ち着くまで励ましの言葉をかけながら背中を撫でた。
少し止むとまた話始めてくれた。
「私じゃみんなを説得できなかった。グスッ、みんなを止められなかった。」
みんな。
今はここに居ないみんな。
普段から青山さんは交友関係が広い。
広いが故に色んな友達がいる。
『みんな』、だがその友達は、青山さんの友達はこの場から去った。
理由は大凡が私が気に入らない。それに便乗したサボり。
そのサボりのせいでの諦め。
仕方がないのも有るが、私は気に入らない。
私が気に入らないのなら、ぶつかってこればいい、
サボりに関しては言わずもがなだが、
諦めた人たちが今は逃げ出した真斗に重なって見えて、
気に入らない。
なんとか間に合い(?)ました。
早い事にもう4月。
忙しくなりますが、これからも頑張ります。
感想ありがとうございます。
嬉し恥ずかしとっても励みになります。
今回はご意見の通り早めに切ってみました。
最近は遅れに焦り量を気にしてましたが区切りは大事ですね。
贈り物みたいにあまり長くなりたくはないってのもあるんですが。
ともあれいつもご閲覧ありがとうございます。
それでは
(今回は日本語がおかしいようなところがありますが、(いや、いつものような?)、いつものように雰囲気で読み飛ばしてください。誤字脱字は目を瞑っていただけると)