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空の空  作者: lycoris
空の空
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温もりの痕

ある日、お姉ちゃんが家に来た。

それまで私は1人っ子だった。

お父さんやお母さんに甘やかされて、でもみんな仲良く。

そこに、お父さんがお姉ちゃんを連れて来た。

理由は教えてくれなかった。

きっと私に言っても分からないからだろうけど。

お姉ちゃんは素っ気なく、「よろしくお願いします。」と頭を下げた。


私より一回り年上のお姉ちゃん。

よくお父さんやお母さんのお手伝いをしている。

私とも遊んでくれるが、向こうから遊ぼうと来た事は無かった。

お姉ちゃんは無愛想だった。


一度聞いてみた。

「なんでいつもつまらなさそうなの?」

「その通り、つまらないからだよ。」


お姉ちゃんはそう言って私の頭を優しく撫でた。

微笑みかけるその瞳に私はいない。


ある日、お姉ちゃんに彼氏が出来たという。

見覚えはあるけど知らない人。

昔からの幼馴染なんだって。

向こうから告白して来て、意外にもお姉ちゃんは了承。

理由を聞くと、

「ほんの少し世界を変えれば、何かおもしろいかもしれない。」

ただそう思っただけだと、嬉しそうに私の頭を撫でた。


だんだんと月日が経つにつれお姉ちゃんは笑うようになった。

決まって彼氏の話をする時だ。

それ以外にも少しは表情が変わったりするようになったが、

私の頭を撫でてくれる事はほとんど無くなった。

それは悲しい事だ。

寂しい


中学校にあがったお姉ちゃんは生徒会に入った。

もっと世界を広げてみたい。って。

相変わらず口ではつまらないつならないと言ってても、

その表情で嘘だと分かった。

寒い


この頃から時折寒気を感じるようになった。

あまりにも尋常じゃないと思ったから、お父さんに相談した。

病院に行って注射を打ってもらった。

とても体が暖かくなった。

なんとなくお姉ちゃんに頭を撫でられた感触を思い出した。


お医者さんは、寒気を感じさせないためにもこれからはお肉をよく食べる事。

定期検診にも来るように、と言われた。

これで寒くなくなる。


ある日、お姉ちゃんがファーストキスをしたと自慢して来た。

少し羨ましいと思ったけど、その日は寒気が止まらなかった。

気が狂いそうなほど。

私の中で何かが変わってしまいそうなほど。

その日はお姉ちゃんに無理を言って一緒に寝てもらった。

こんなに安らかに眠れたのはいつぶりだろう。

それに、とても、暖かい。

ずっとこうしていたい。


次の日、お姉ちゃんも少しだけ寒気を訴えていた。

私の風邪をうつしてしまったかもしれないから、学校終わりに一緒に病院に行く事にした。

家の前で待っているとお姉ちゃんが彼氏と一緒に帰って来た。

家の前で私に軽く挨拶だけして彼氏は帰っていった。

交際はとくに問題はないらしい。

寒気がした。


病院に着いて、定期検診も兼ねていた私が先に終わった。

次にお姉ちゃんが診察室に入っていった。

雑誌の面白さが分からない私は漫画を読んでいた。

お姉ちゃんも注射をするようだ。

しばらくすると、

絶叫が聞こえた。

全力の甲高い悲鳴。

身体中に鳥肌が立つ。

私は漫画を放る出して飛び出した。

頭の中はお姉ちゃんの無事だけだった。

「お姉ちゃん!!?」

お姉ちゃんを押さえつけている看護師の手を掴み、投げ飛ばす。

近くにいた医者にも拳を乱暴に振るった。

「大丈夫!?お姉ちゃん!?」

肩を揺らし返事を促す。

お姉ちゃんの目は充血していた。

「がっ、ぐぐぁ。あ、がぁ、ぐぁぅっ、う、ぎぉ、う、げ、」

見たこともない表情で痙攣を起こしていた。

「お前ら!お姉ちゃんに何した!?」


医者が言うには、私用の注射をお姉ちゃんにもした。

アレルギーか何かの反応でこうなってしまった。

お姉ちゃんはしばらく震えながら身を抱えていた。

解決策は、"肉"を食べる事、それしかないと。

注射は一時的な誤魔化しにしかならない。


お姉ちゃんはただ黙って、私の手を握って一緒に帰って来た。

お姉ちゃんの手は私より冷たかった。

でも、私は少し暖かくなった。



それからお姉ちゃんは度々おかしくなった。

つまらない、なんて言わなくなり、ぼーっとしてる事が増えた。

昔みたいにあまり笑わなくなっていた。


ある日、そんなお姉ちゃんが、泣きながら帰って来た。

制服を鮮血に染めて、

無くなった片腕を必死に抑えて、

それでも嬉しそうに笑う。

まるで自分が泣いてる事に気付いていないように。

その笑顔はとても無邪気だった。





何かが邪魔をして、そこから先の記憶が思い出せない。

赤い記憶。とても暖かかった。

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