綻びた絆
喧嘩は、お兄ちゃんが負けた。
お兄ちゃんが、絢音ちゃんが連れて来た女の人にトドメを刺そうとした所で、絢音ちゃんが立ちはだかって、その隙に逆転が起きた。
その後、同じようにトドメを刺そうとした女の人を説得し、嵐のような喧嘩は止んだ。
理由は、女の人のお姉さんをお兄ちゃんが殺した、らしい。
本当か嘘か、当人達に尋ねようとした絢音ちゃんの目の前で先に女の人が手をあげて、お兄ちゃんが応戦した。
やがて応酬は激しくなり、その場の誰にも手がつけられなくなった。
私は恐怖心で固まって動けず、
絢音ちゃんはただただ困惑し、
後から来たお父さんは観察に夢中。
長くない時間を永遠に感じ、絢音ちゃんに声をかけられるまで時が止まっていた気さえしていた。
悪夢から目覚めたように激しく緊張していた心臓が徐々に徐々に落ち着いて行く。
額を伝ったのは本当に冷や汗か。
周りの景色は全てが破壊されていた。
ほんの少し前までが夢だったかのように。
寒い
もう夏は終わり日も沈んでいる。
寒い
身体中が痛い。
寒い
その痛みは熱をも帯びるほどなのに、
流れる血では冷やせない。
寒い
お腹が空くほどに寒い。
家に着いても誰も居ない。
この家には私1人。
他のみんなはもう居ない。
みんな私を暖めてくれた。
暖めてくれたみんなはもう居ない。
殺されてもう居ない。
殺したのはあの男。
みんなは最後に私を暖めてくれた。
それなのにあの男はまだ寒いと言う。
いつか殺してやる。
あいつは凍えたまま死んでしまえばいい。
今日、あいつを殺せそうだったのに。
だったのに、途中で殺せなかった。
何故だ。
私はこんなにも殺したいのに。
私を止めたのは
私?
死にそうになった私を、死んでいるはずのお姉ちゃんが庇った。
だから、あの男を殺そうとしたのに、
今度はあの男を庇った。
分からない
なんでお姉ちゃんは泣いていたの?