決壊
「ふぅ」
いつも通りに仕事を終えて、一息つく。
道具を片付け帰る準備をする。
忘れ物の確認をして家路に着いた。
家に着くと、先に夏七子が帰っていた。
「お帰り、お兄ちゃん。」
夏七子の頰は赤く腫れていた。
「ただいま。」
荷物を置いて、手を洗いに行く。
リビングに行くといい匂いがした。
今日の料理当番は夏七子だったか。
夕飯の支度を手伝っていると家の戸が開いた。
家に着くと2人はもう帰ってきていた。
それで大体の時刻が分かった。
泣き止んだ委員長に肩を貸してここまで運んできた。
私は委員長の家を知らない。
だからと言って放っておく訳にも行かず、暗くなる前に連れて帰ることにした。
真斗達なら分かってくれるだろう。
火を消して後は皿に盛り付けるだけ。
たったそれだけの日常に不幸は訪れた。
3人揃うはずだった夕飯には1人多く、
お兄ちゃんの怒りは爆発した。
なんで怒ってるのか分からない。
どうしてお兄ちゃんは女の人を怒鳴りつけているんだろう。
どうしてお兄ちゃんは絢音ちゃんを怒鳴りつけているんだろう。
こんなにも荒れた兄を見るのは久しぶりだ。
私はただ、隠れるように身を丸める。
自分に飛び火しないように、
余計な油を注がないように、
お姉ちゃんの仇がのうのうと生きている。
それだけでも耐え難いのに、一緒に食事をするなんて…
ありえない…あってはならない…
それはお姉ちゃんでなければいけないから。
私がここに居ちゃいけない。
こいつがここに居てはいけない。
お姉ちゃんの仇は私が取る。
そうすればきっとお姉ちゃんは報われる。
そうすればやっとこいつは幸せになれる。
言うならばそれは映画のようだった。
自宅が面白そうなことになっている、死神と呼ばれる少女にそう言われ、試しに観に行ってみた。
家の前まで来たところで玄関から何かが吹っ飛んだ。
バチィッ
拳と拳が強くぶつかる音。
アクション映画さながらの常軌を逸した攻防。
人を喰らう者同士の争い。
報告書や僅かの記録映像でしか知らなかったその光景を目の前に胸が高鳴った。
人形人食種による共食い。
なんら珍しい事ではないが、こうまで拮抗しているのは初めて見た。
食べたモノで強さが変わる人形人食種の勝負は大抵すぐに決まる。
真斗が何を食べたかは把握しているはずだが、
なら戦っている女の方は何を食べた?
分からない、興味を唆られる。
家具がグチャグチャに散乱し、飛び交う泣き声と叫び声と鳴き声に耳を塞いで、ただ私は蹲り自分の身の安全を願った。
コロコロ視点を変えて書いて見ました。
次話は視点固定のはずなのでご安心を。
そんな訳で前話寝ぼけてちょっとミスがあったので修正しました。
これで少しはわかりやすくなった、かな?