風穴
さすがに土日までも朝から学校と言うのは滅入るので、午後からとなった。
強制力もないので、来れる時に可能な時間だけ。
それだけでもとても助かる。
何より寂しさや焦りが多少和らぐ。
それでも、私と委員長はお昼前から学校に居た。
口裏を合わせたわけではないが、奇遇、という奴だ。
早めに昼食を済ませ家を出た時は真斗に心配されたが、無用だと言ってさっさと学校に行った。
土日は平日よりもバスの運行が多いので助かった。
涼しげな風を時折感じながら私達は汗を流した。
少し休憩をしようと、委員長が提案する。
伝言を回し、40分休憩しようと。
少し長いなと思ったが、その理由は真斗の手にある物で分かった。
何で学校に真斗が来ているのか問い詰めると、夏七子ちゃんに言われて差し入れを持ってきたと答えた。
小っ恥ずかしいにもほどがある。
だが、案外真斗の顔は広いようで、みんなと挨拶を交わしながら差し入れを手渡ししていた。
そう言えば、真斗の事を未だに知らない事が多い。許嫁なのに。
ぼーっと真斗の方を見ているとこっちに来ておにぎりを差し出した。
顔が熱くなって思わずそのおにぎりをぶんどってしまう。
「なーに怒ってんだよ?」
「…怒ってない。」
棘のあるような言い方をしてしまう。そんなつもりはないのに。
「えー、怒ってるじゃん。」
「だからおこ「あ、まだあの事気にしてんのか?」
「え?何の事?」
「あれ、体重カサ増しのやつじゃないの?」
「なっ!?」
そういえばそんな事もあったな。
忙しくて忘れていた。
忘れていた羞恥心で真斗の足を踏む。
「あそこで見たものを忘れなさい。」
「いでで!分かった、わかったから。いでで」
オーバーに痛がる真斗から足を退かす。
そして何故か周りから笑われているのに気がついた。
「?」
そこに委員長が解説を添えてくれた。
「あなた達の仲が微笑ましいのよ。」
「え?」
「いい夫婦になれそうね。」
そこでまたみんなが笑い出した。
「え?え?」
「あら、あなた達婚約してるんでしょう?」
「そうだけど、いや、なん、でその事を。いや、違うけども。」
「え、違うのか?」
恥ずかしさと混乱で頭が真っ白になりそうな時に真斗の声で醒めた。
「許嫁でしょうが!婚約はしてない!」
もう一度真斗の足を踏んでやった。
「あいでっ!」
みんなが吹き出した。
「何も違わないじゃねーか。」
「ち、が、う、で、しょ!」
恥ずかしさから足に力を込める。
「私はまだ結婚する気なんてないんだから!」
「ふふふふ、そうなんだ。お似合いなのに。」
「ッ!」
委員長がクスクス笑って言う。
顔から火が出そうだ。
「もう!用が済んだらさっと帰って!」
足を退かしてそっぽを向いてなるべく人が少ない所に行く。
「おー、いたた。冷たいなぁ。」
「その割には嬉しそうですね。」
「いや、こう言う空気が何だか久しぶりに思えてな。」
「真斗さんだってまだまだ若いじゃないですか。」
「そういう事じゃないんだけどなぁ。まあ、あいつの事、よろしくな。」
「はい、」
振り返ると真斗は委員長と楽しげに話をしながら、他の子達からも声をかけられながら帰って行った。
「真斗さん振られちゃったね。」
「ばーろ、ちげーよ。あれは照れ隠しだよ。」
「そうだといいね。」
「その言い方やめろや。」
「「「あははは」」」
それからは、休憩前よりもみんな張り切って作業をしていた。
疲れが溜まるといけないから、早めに切り上げて解散した。
帰ってからもちろん真斗と衝突した。
ほとんどは私からだったが。
それを見守る夏七子ちゃんは委員長たちのように微笑んでいた。
今日は先に一人で湯に浸かっていたが、夏七子ちゃんが勝手に入ってきて、そのまま一緒に入る事になった。
そこで、どうか真斗を許してほしいと。
カサ増しの件については知らない様子だ。
でも、真斗が私に何かしたのは察しが付いているようで、本当に兄妹なのかと思うほどに良い子だ。
ぜひ妹に欲しい。
いや、真斗と結婚すれば可能なのだが、そのためにわざわざ結婚するのも、いや、いや、いやいやいや。
バカな事を考えているとのぼせたのか心配されたので、一先ずあがる事にした。
着替えている最中、やはり体重計が目に入るのでちょっと乗ってみる事にした。
両足を乗せる前に周囲を見渡し、扉に気配がないか確認する。
そうして乗ってみると、前回とさほど変わりはなかった。
計り終えても油断はせず、パパッと着替えて浴場を後にした。
私が出て少しすると夏七子ちゃんも出てきた。
今日は土曜日だし一緒に映画でも見ようと言われたが、残念ながら夜更かしは出来ない。
学園の作業は今更順調だが、欲を言えば少し保険を作っておきたい。
だから明日も早い、とは説明せずに明日は遊びに行くから、と嘘を言って断って自分の部屋に行った。
ちょっと心苦しかったが、合同が始まった時遅れている方がかっこうがつかないし申し訳なくなる。
だから、と自分を言い聞かせ眠りに着いたのだが、
夜に目を覚ましてしまった。
トイレに行こうとすると、リビングに明かりが点いていた。
夏七子ちゃんが起きているには遅い時間なので、真斗だろうと思い、とりあえず用をたしてから、チラッと覗いてみた。
顔が仄かに熱を帯びているのか赤く火照っていて、視線も遠くを見るように握っている缶を見つめていた。
見慣れない缶が気になって縁側まで近づくと、さすがに気づかれた。
「明日早いんじゃねぇのかよ。」
真斗のそんな言葉より手に持っているものに衝撃を受けた。
「そんな事より貴方、ソレは。」
口調がキツくなる。
だってソレは夏七子ちゃんへの裏切りなるから。
「見てわかんねーか?ここにちゃんと度数も書いてあるぞ。」
もう少し距離が近ければひっぱたいていただろう。
「違うわ、なんでソレを貴方飲んでいるのって聞いているの。」
「別に今日買ってきたわけじゃないさ。たまには飲みたい時だってある。」
「夏七子ちゃんに内緒で?」
「ああ。それに付き合いもあるしな。」
「今は関係ないじゃん。」
「そうだな。」
「じゃあなんでよ。」
返ってくる答えくらい大体予想はつくが、
「逃げるためさ。」
予想外の答えだった。
「夏七子には悪いが、俺はそこまで強い人間じゃないんだ。今も昔も。だから、どうしても忘れたい時、溺れるのはもう懲りたから、ちょっと気を紛らわすぐらいに1杯だけ飲む時がある。」
そう言って、今もってる缶を持ち上げ揺する。
中にまだ入ってるのがわかる。
「じゃあ、なんでよ。」
「ははは、逃げられないか。」
朗らかに笑う真斗。
「そうだよ、逃げられないからこいつに頼っちまうんだよ。こうしていても何も変わらないって言うのに。」
楽しそうに笑う真斗を見て少し心が痛む。
「じゃあさ。」
「ん?」
もう一口と真斗が酒を呷る。
「私たちを頼ってよ。」
真斗が目を見開いて手を止める。
「そんなんじゃなくてさ、夏七子ちゃんや私、を頼ってよ。」
恥ずかしすぎて真斗から視線を逸らして言う。
「…」
まるで、驚いた鳩のような顔をしている真斗。
「力になれないかもしれないけど、でも一緒に逃げてあげられる。
真斗は一人じゃないんだからさ、頼ってよ。」
変な間になるのも嫌だからさらに豆鉄砲を食らわせてやった。
「…ぁ、ぁあ…ぅ…」
真斗が完全に固まる。
それなのに、真斗の瞳からは溶け出した涙が流れている。
自分が言ったこと、それがどう真斗に伝わったのかを分かったから、さらに恥ずかしくなる。
逃げ出したい。
だが言った矢先、退けない。
だからさらに豆鉄砲を放ってやる。
「そ、それでもし、もし、私が、私たちが困った時は、頼らせてもらうから。それならいいでしょ。
それと、今日は差し入れありがとう。」
そう言ってすぐに退散した。
これはヒットアンドアウェイって奴だ。
逃げではない。
自室に戻って布団に篭り恥ずかしさを誤魔化すように言い聞かせた。
何故こんな思いをしているのか、仮定が頭に浮かぶと余計に恥ずかしくなって布団をきつく体に押し付け巻きつける。
おかげで睡眠時間が予定より減ってしまった。
朝、と呼ぶにはお昼に差し掛かっている頃、起こされた。
目覚まし時計の騒音より優しい、大きな手で揺さぶられた。
「んん…ぁれぇ?…」
自然に目覚めた訳でもないのに静かな目覚めに、何が起こったか分かっていなかった。
目を幾らか擦ると真斗が視界に入っているのがわかる。
「お、おはよう。」
「おは、よう」
それも結構視界を占領しているのがわかる。
「飯はできてるから。」
が、私が起きたのを確認するとすぐに離れていった。
危うく打つところだった。
それから昨日のことを思い出し少し恥ずかしがってから、制服に着替えて学校に行く準備をして、朝食に手をつけた。
真斗はテレビを見ている。
「なんでわざわざ起こしたの?」
何故か若干の恥ずかしさを伴いながら聞いてみた。
「いんや、今日の朝は暇だったから、飯でも作ったら起きてくるかなと思ったけど。」
言葉は省略された。
真斗にデリカシーは期待出来ないのでただ面倒だったんだろう。
「ふーん、ありがと。」
素っ気なく言ったのに内心はまだ穏やかにならない。
言葉を交わすたびに思い出しては変な気分になる。
それを誤魔化す様に今後の学園祭の準備の予定を確認する。
今日は風も落ち着いていて、だから昨日よりも暑かったが、もう夏と呼ぶには少し遅いので、額に汗を浮かべる程度だった。
今は私と委員長で窓を全開にした教室内でレシピをまとめていた。
さすがに扇風機を回す程ではないがたまに下敷きで煽ったりはする。
「うーん、この作業お腹が空いてくるね。」
「そうだね、委員長ご飯食べて来なかったの?」
「食べては来たんだけど、さる事情でちょっとだけなの。」
なるほど乙女の事情か。
「真面目だねぇ、私はあんまり気にしなけどなー。」
手は休めないもののやはりペースは落ちる。
でも話でもしてないと保たない。
「油断大敵って言うでしょ?手遅れになる前に、まだ楽な内に。」
そして、窓の外を見つめて「それに」と続けた。
「好きな人の前くらい綺麗に居たい、って気持ちが不思議と私の中にもあったのよ。」
「え」
委員長の髪が風に靡く。
それを片手で抑える委員長の仕草、容姿はまるで映画のヒロインの様だった。
驚き止まぬ中委員長は楽しそうに聞いてきた。
「今日は来るかな、真斗さん。」
「え、あ」
もしかしたら
「よーっす。」
ガラガラと無造作にドアが開く。
ビニール袋を片手に陽気な真斗がやって来た。
「噂をすれば、ってやつだね。」
委員長は私にはにかんでから真斗の方へ駆け寄った。
「こんにちわー!ちょうど小腹が空いてたんですよー」
機嫌の良い時の委員長の声音、笑顔。
分かってしまった。
いや、分からない方がおかしいんだ。
おかしいのは真斗、
なのに私の胸がチクっとする。
アレ?
委員長が席に戻るそれに続いて真斗がこっちにきた。
「ほい、じゃあ頑張ってね。」
2人分のラムネと麩菓子、チョコレート一つを机の真ん中に置いた。
「しっかりしろよな。今晩は美味いもん作ってやる。」
そう言って視線が彷徨っている私の頭を軽く撫でた。
いつもなら払っているのに、、
真斗もそう思っていたのかすぐに手を離して、委員長と手を振り合いながら教室を出て行った。
ドアが閉まる音でふと意識が戻った。
渦巻き始めたモノが静かに落ち着いていく。
「いいなぁー」
委員長の一言でまた荒れ始めようとしている。
「どんなご馳走なんだろう。」
閉まったドアから振り向いて私にいつもの様に笑いかけた。
「うん」
反射的に生返事をした。
「そんな事言ってたらまたお腹が空いてきちゃうね。」
呆れる様に笑いながらラムネの栓を開ける。
今日の委員長はいつも以上に爽やかで、輝いていて、
これが青春なんだろうと、まるで絵に描いたような女子高校生然としている。
ビー玉を押し込んで弾ける炭酸を口元にハンカチを当てながら少し飲む。
それを見ているとやはり委員長なのだとわかる。
「あ、ラムネ自分で開けられる?」
「どうだろ。」
開け方はなんとなく知っている。
だがそれを思い出す暇もなく委員長に見惚れていた。
「どうしたのー、さっきからボーッとしてるけど?」
「いや、大丈夫だよ。昨日ちょっと寝るのが遅くて。」
「へぇ、何してたの?」
麩菓子をツマミに委員長が問いかける。
「ちょっと何でか寝つけなくて。」
「そうなんだ。まあ熱中症じゃなくて良かった。あ、ラムネ開けられなかったら言ってね。」
真斗から貰ったビニール袋にゴミをしまって口周りを拭く。
私もいい加減麩菓子に手をつけた。
委員長は椅子に座り直して作業を再開している。
私も片手間に作業に集中しようとする。
、でも、どうにも何か引っかかるものが胸を刺そうとする。
それが気になって、身が入りきらない。
が、昨日で中々に進んだ分、今日は夕日を見る前に終わった。
前倒しで少しでもやってしまおうとも思うが、今日は休日。
それに私にはご馳走があるからとこれにて解散になった。
みんなを集めて、お礼を言うと、真斗に差し入れのお礼を言っておいてくれとみんなに言われた。
了承して、また明日も頑張ろうと士気を高めたまま別れた。
時間も有るしと、ちょっとした山の中にある委員長の家まで行って少しお茶をしてから帰った。
委員長の親にお土産を持たされ、慣れたいからと帰り道を教えてもらい一人で山を下る。
毎日ここを往復するのか、とあまり見慣れない山の中を見渡しながら下っている。
と、何やら幼い声での喧騒が聞こえた。
様子を見に行くと、
夏七子ちゃんと男の子が言い争いをしているようだ。
夏七子ちゃんには後ろで見守る女の子が一人、男の子の方は4人で、内2人が主に夏七子ちゃんと言い合っていて他は相槌を入れたりしているだけだ。
飛び出そうとするのを抑えて様子を伺う事にした。
所々聞き取れないものの状況は大体感じ取った。
真斗を余所者と言うのが夏七子ちゃんには耐えられないらしい。
夏七子ちゃんは昔からここで生まれ住んでいるが、真斗は違う様だ。
男の子達は余所者を余所者と言って何が悪いと開き直っている。
ただ、男の子が夏七子ちゃんの前で真斗を余所者と言わなければ済む話だが、それで済むほど彼らは大人ではない。
理解はしているのだろうが、感情が先に動く。
だからこうして衝突している。
その衝突はもはや言葉だけでは収まりそうになくなった時、飛び出た。
飛び出した真斗は夏七子ちゃんの前で手を広げ男の子達の前に立ち塞がった。
男の子の突き飛ばそうとした手を真斗が抑えている。
「お前ら、何やってるんだ」
いつもとは違う、唸るような低い声。
怒気を孕み、威嚇する真斗の声音が空気を重くする。
男の子達はたじろぐが、四人で顔を合わせると、真斗に向かっていった。
「うるせー余所者!」「大人だからってカッコつけるんじゃねぇ!」「邪魔なんだよ!」「超ウゼェ!」
二人がかりで真斗にタックルをしかけるが、真斗は踏み止まる。
それに乗じて真斗を殴ろうとした一人の顔を真斗の手が覆いかぶさる。
「あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!」
悲痛の絶叫に皆の視線が集まり、気が逸れた隙に、すぐさま顔から手を自分にしがみ付いている二人の首を掴み、持ち上げる。
「う゛っ!?」「うぇっ!」
二人とも苦しそうにもがき、足を地につけようと空を蹴る。
残りの二人は萎縮し動けないでいた。
「うがっ!あぐぅ!」「かはっ!うぇ、ぇっほ!」
二人の喘ぎが場を見ている者の足を重くする。
そんな中夏七子ちゃんが真斗に抱きついた。
「止めて!お兄ちゃんっ!」
真斗は表情を変えずに手を放した。
二人ともその場で尻餅をついて着地し、未だ喘ぎながら首を摩ったりしている。
戦慄は続く。
「こいつがどうなってもいいのか!」
真斗が他の一人に睨みをきかせると他の一人がその隙に夏七子ちゃんの首筋にカッターを当てていた。
焦りすぎているのか幸いまだ刃は出ていない。
真斗は一層目を見開き、その男の子に距離を詰めた。
男の子がビクッと怯えた隙に、顔を掴みそのまま地面へと首から下が当たるように叩きつけ引きずった。
掴んだ手に力を込め、空いている手でカッターを持つ腕を捻る。
より一層悲鳴が上がる。
それはドラマやアニメとは比べ物にならないほど痛々しい。
そして、耳元で真斗が何かを囁くと、悲鳴が収まり始め、それは嗚咽に変わった。
真斗は拘束を解いてやりカッターを自分のポケットにしまった。
そして、残る一人と対峙した。
恐怖で完全に錯乱して投げやりに真斗に突っ込んでくる。
「うわあぁああぁぁ!」
それは無謀。
自棄になって、でもどうすればいいのかどうしようかも分からずただ目の前の恐怖を消そうと。
その恐怖は今まで味わった事のないもの。
真斗は向かってくる男の子の頭を掴み強引に障害物のない方へ投げとばす。
男の子は受け身も取れずにただ地面を少し跳ねた。
その場の全員が真斗に畏怖している。
夏七子ちゃんは呆然と男の子達を見ていた。
パンっ!
真斗が掌を合わせ音を鳴らす。
「帰れ、これで分かっただろう?」
その言葉に一番威勢のいい男の子が反応する。
「お前なんてパパに言いつけてやるからな!」
それに呼応するように続く。
「そうだ!お前なんて出て行かせてやる!」
「余所者のクセに!」
「覚悟しとけよっ!」
自分たちが、真斗が手を挙げた時点で実は有利だと分かった途端に憎たらしさを撒き散らかす男の子たち。
「そうか、じゃあ。ここで死ぬか?」
真斗は声音が普段の通りに近いもので言う。
表情もさっきと比べて幾分か穏やかだ。
冗談だと言われれば、この時でなければ信じているような雰囲気。
でも、私はこんな顔をする真斗を見るのは初めてだ。
「ひっ!」
短い悲鳴が聞こえる。
先ほどの恐怖が蘇ったにだろう。
「みてろよ、学校でどうなっても知らないからな!」
勝てない真斗ではなく、夏七子ちゃんに吐きすてる。
「やってみろ、殺すぞ」
が、真斗のドスの効いた一言に涙ぐんで一目散に逃げ出した。
緩やかだが坂なので何人かがつまづいたり、転ぶ。
真斗はそんな男の子をただ静かに表情を変えずに俯瞰していた。
声が完全に遠のくと、夏七子ちゃんがその場に座り込んだ。
「ぅっ、ぅう、グスッ」
堪えている様子だが流れる涙は拭っても拭っても止まらない。
夏七子ちゃんの友達が心配そうに声をかける。
真斗もやっと夏七子ちゃんの方に向き直った。
「ごめん。」
そう言って、夏七子ちゃんの友達の頭を優しく撫でる。
「ごめん。」
腰を落として、夏七子ちゃんと同じ目線になってもう一方の手で頭を撫でる。
夏七子ちゃんの友達の顔には涙の痕があって今も瞳は潤んでいる。
私はやっと動き出すことが出来た。
「あの…」
だが、どうしたらいいのかが分からない。
出てきても出来る事がない。
「よう」
真斗が情けない顔を向ける。
先ほどと違ってなんだか弱々しく見えた。
「うっ、うん。」
「それじゃあ、帰ろうか。」
真斗が手を離して立ち上がると、真斗の服の袖を夏七子ちゃんが引っ張った。
「ははっ」
乾いた笑顔を浮かべ、また夏七子ちゃんの頭を撫でてから手を繋いだ。
「悪い、その子を送ってってくれないか?」
「うん、分かった。」
お友達の方も頷いて了承してくれた。
「悪いな。」
「いいよ、気にしないで。」
真斗に連れられて夏七子ちゃんとお友達と歩いていく。
下り終わると、それぞれ別の方向に別れた。
「また後で。」
「うん。」
短い挨拶を交わしお友達を送り届けた。
「それじゃあね。」
「うん、ありがとうございました。」
「そんなに畏まらなくていいよ。夏七子ちゃんの友達だし。」
「ありがとうござ、、ありがとう。」
笑ってくれた。それが例え作り笑顔だったとしても今は嬉しい。
「ふふっ、それじゃあ明日もし、何かあったらすぐに言うんだよ。」
「…はい。でも」
「大丈夫、今度はあんなことにさせないから。」
心配そうにしているお友達を宥めてやる。
「だから、これからも夏七子ちゃんと仲良くしてあげてね。」
「うん!もちろん。」
言われなくてもという様子。
「じゃあ、これで。またね。」
「バイバイ!」
手を振り合って別れた。
いい子だ。
だが、真斗はそんな子もを泣かせた。
これはとことん話し合わなければいけないようだ。
腕がなる。
さっきは情けなくも見ていることしか出来なかったが、
今度はそうはいかない。
帰り道気合を入れて帰った。
この頃にはもう学園祭の事は頭になかった。
もちろん約束したご馳走のことも。
燦々と尚も夕日が照らす。
それでも秋風が冷やしてくれる。
今は心は熱いまま。
ごめんなさいっ!
早めに更新するなんて私には早かったようです。
毎度毎度。
それに今回はちょっと遅延しちゃいました。
もうどこで切っていいのやらで気づいたら寝落ちです。
文が消えてないだけまだ幸い。
そんなわけで少し無理やりかなとは思いますが、
ちょっとズレ始めていた軌道も修正できたので、
良かったかなとは思います。
夏七子ちゃんのお友達の名前、考えなきゃ。
たぶんそこまで出番はないけど、なんか思い入れが出て来た。
やっぱり名前考えるのは苦手ですね。
男の子たちも適当に決めれば場面が想像しやすいんでしょうけど、力不足です。
ぶっちゃけアイアンクローってめっちゃ書きたかったですが、描写でなんとか。
ちなみに最初に顔を掴んだ子と2回目の子は別です。
最初の子は真斗に叫んで突撃した子です。
とまあなんとか。
そんなわけで3月がもう終わってしまう。
何故まだ寒いんだ!
今月は2話だけで非常に申し訳ないです。
来月、来月頑張ります!
それでは