NI
「知らない。」
「本当に?」
「…名前しか知らない。」
「へぇー、名前しか知らないんだ。
本当に?」
「今度こそ、本当。」
「て事は私に嘘ついたんだ。」
「…」
「否定してくれてもいいじゃん。」
「ごめん。」
「なんで謝るのさ。やましいことでもあるの?」
「...ないよ。」
「じゃあ、何を隠してるの?」
「...
隠しているのはそっちじゃないの?」
「おや、形勢逆転かな?
何を隠してるって思うの?」
「何もかも、大事なこと全部隠してるじゃん!」
「ほほー、ってことは知ったんだね。
この町の秘密を。」
「大体のことは真斗から聞いてるよ。」
「あー、ついにばらしちゃったかぁ。」
「でも、まだ何か隠してる。」
「何を?」
「分らない。」
「勘ってやつか。
んで、どこまで聞いたの?」
「真斗たちの現状と、町の病気くらい。」
「へぇー、じゃあまだ秋月朱音のことは何も聞いてないんだね。
まぁ、言う訳ないか。」
「その、朱音って人は、委員長や真斗と何か関係があるの?」
「ありあり、おおありだよ。
だから、私は何か知らないか聞いてみたんじゃない。」
「そう。私は
真斗が寝言で言ってたのを聞いただけだよ。」
「だから、名前しか知らないのね。」
「うん。」
「それって本当?」
「うん。」
「信じていい?」
「うん。」
私は委員長の瞳の奥の闇に向かって嘘をついた。
いつごろからだろうか、
こっちに来てから、
いつの間にか自分じゃない誰かの夢を見ていた。
いつしかそれは自分の夢じゃないことが分かった。
いつしかそれは自分じゃない夢じゃない誰かの記憶だと思った。
真斗の身長が今より低くて、顔も幼くて、今よりもずっとずっと笑ってた。
周りには知らない人たちばっかりで、一人っ子のはずの私に妹がいて、真斗の家に両親が居て、夏七子ちゃんがいない。
そんな日常が狂い始めていく日常。
つまらないと嘆いていた日常が、鮮血に彩られていく。
それを望んだはずなのに、結末に絶望する。
絶望の中の希望に魅入られ、さらに絶望を突き進んでいく。
止まれないことを楽しみ、止まらないことに悲しむ。
最後まで傍にいた希望を突き放し地獄へ落ちていった。
それらを知っても尚、秋月朱音の全てはきっと私には理解できないだろう。
だから、私はまだ、彼女の名前しか知らない。
サブタイトルが思いつかない病。
雨が大変ですね