鳥籠
「あんな人でも私のお父さんなんだって。」
「…」
言葉にならない。
父親が自分の子供に暴力を振るうのか。
「私とお兄ちゃんは異父兄妹で、あの人は私の父親。
たまに帰って来て、暴れて帰っていく。」
ぎこちなく途切れ途切れに話す。
話を聞いて絶句した。
そんな親は漫画やドラマの中だけだと思っていた。
「それって…」
「DVってやつ。」
「なんで真斗は黙ってるの?」
真斗ならきっと反撃するはずだ。
そもそも黙って居ないだろう。
「やり返したら、あいつと同じになってしまう。
それに、俺が耐えればいいだけだから、って。」
夏七子ちゃんの目に涙が浮かぶ。
「ずっと、ずっと私を庇って。」
「…別居とかは出来ないの?」
「本当はもうしてるんだけど、向こうからやって来るの。
いつ来るか分からないからお兄ちゃんも気が休まらないと思う…」
「そんな事って…」
私の中でドス黒いモノが渦巻く。
夏七子ちゃんは涙を堪えながら言った。
「そんなお兄ちゃんが、綺音ちゃんがいる時はとっても楽しいそうだった。
だから、綺音ちゃんが帰って来てくれて嬉しかった。本当に。
これからみんなで幸せに暮らせるんだって、思ってた。
私の家族がこの2人だけなら良かったのに、って!」
堪えきれず溢れた涙がスカートを濡らす。
「…」
「もう、嫌だよ、お兄ちゃんが傷つくのは。
お兄ちゃんは何もしてないのに!」
「…」
黙って唇を噛み締め、掌に爪を食い込ませる事しか出来ない。
夕日が落ちきる前に帰る。
「話してくれてありがとう。」
「ごめんね、私、何も出来なくて。」
「いいよ、謝らなくて。夏七子ちゃんは悪くないんだから。」
「…うん。」
「私が、なんとかしてみる」
自分の親を手にかけて今更、
ましてや他人の親なんて、
今さら、今更変わらない
過去は変わらなくとも
せめて せめて
私はもがき足掻く。
真斗は今、真斗の父の母の家に住んでいる。
真斗は生前の祖母に家をくれと約束をした。
その代わりに精一杯夏七子ちゃんを守ると。
真斗と祖母の間で交わされた約束は、
壊れてしまった真斗の燃料になった。
いつからか燃料は足枷になっていった。




