悪夢の冒頭
騒がしい足音に目を覚ました。
時計を見ると体が反応してしまった。
いくら探しても見つからない制服。
捨てて来たのだからここには無い。
冷静になって落ち着いた。
だから、これからはもう今までの日常じゃない事を思い知った。
もうこれまでに戻れない。
部屋を出て顔を洗い食卓に向かった。
「おはよー、綺音ちゃん!」
「おはよう。」
夏七子ちゃんと朝の挨拶を交わす。
真斗はいつも通り居なかった。
夏七子ちゃんは既に食器を片付けていた。
友達との待ち合わせがある夏七子ちゃんはいつも私より先に家を出ていた。
「行ってきまーす!」
いつもよりゆっくり久々の朝食を味わって、
二度寝をする気分でもなかったので、
とりあえず真斗の畑の様子を見に行くことにした。
なんとなくの道のりで時間をかけて探した。
陽が真上に登りきったところで、やっと真斗を見つけた。
「真斗。」
「!?」
「どう?育ってる?」
「ビックリした、綺音、か。」
一旦手を止めて私の顔を確認した。
「そーだよ。」
「学校はどうしたんだよ。」
作業を再開する。
「制服向こうに忘れちゃった。」
「なんだグレちゃったかと思った。」
「そんなんじゃないよ。」
「何かあったか?」
「…ううん、何にもないよ。
ここみたいに何もない。」
「っはっはっは。まあ何かあったらまた帰ってこいよ。」
「うん。私好きだよ、ここ。
死ぬならここで死にたい。」
「物騒な事言うなよ。」
「割と本気だよ。私が死んだらここに埋めてね。
まだ死ぬ気はないけど。」
「その時に、俺が生きてたらな。
ふーっ。」
真斗は腰に手を当て伸びをした後、放ってあった荷物から弁当を取り出した。
肩に巻いたタオルで汗を拭きながら私の隣に座った。
「お昼は食べたか?」
「いや、気がついたらお昼だった。」
「迷ってたのか?」
「どーでしょね。」
「食うか?」
蓋を開けて真っ先に私に差し出した。
「いいよ、私の分は帰ればあるんだし。」
「ん、そうか。お茶だけでも飲んどけ。」
緩くなってる水筒を私に差し出した。
「ありがとう。」
真斗がお弁当を食べ終えて作業に戻るので、私は帰ることにした。
大体の道のりを真斗に聞いて、ボーッとしながら帰った。
家に着くと知らない靴があった。
確かに鍵は閉めたはずだけど、腹を括って家の中を探す。
金目のある所には誰もおらず、代わりにリビングでテレビを見ながら酒を飲んでる見知らぬ男がいた。
背中に包丁を隠しながら声をかけた。
「あの、誰ですか?」
「あ?お前こそ誰だよ?」
男のガラは悪く、開き直って私に聞いてきた。
「ここは私たちの家です、あなたは誰ですか?」
臨戦態勢で聞き直す。
「はぁ!?いつから俺様の家にてめぇなんかが居るんだよ!?」
男は立ち上がって私に向かってきた。
埒があかないので、私から説明した。
「私は高崎綺音、昨日からここに泊まってる。あなたは?」
「あぁ?誰だよ、知らねぇよ、出てけようるせぇなぁ!!」
吠えるだけ吠えて、私の肩を掴もうとした手を掴む。
そして、手を交差させて包丁を相手の首に突きつけた。
「誰だ、お前」
「ぐっ!」
男は私の目を見て怯んだ。
そして何かを理解した。
「っ、そうか、お嬢ちゃんはあのクソガキにご執心って事か。」
掴む手に更に力を込めて、包丁の先を首に当てる。
「う、離せ!俺はガキの、夏七子の親父だ!」
「嘘じゃないな?」
「ああ!いいから離せ、化け物!!」
そう言われて正気に戻った。
冷静になれば今、自分は異常なんだと分かる。
力が抜けたその隙に抜け出された。
「こなクソが!」
呆然としている私の頬を男が強く殴った。
吹き飛んだ拍子に包丁を落とした。
起き上がる前に男にのしかられマウントを取られた。
「てめぇ、誰に手をあげたか分かってんのか?あぁん!?」
振りかざした拳は降りてこなかった。
「止めろよ、クソ野郎」
聴いたこともないくらい凍てついた真斗の声。
寝落ちして書いてた部分が全部白紙になって絶望していたらこんな日に。
暑さに負けず頑張りますと思います。




