黒い泪
「おかえり、綾音。」
「え…?」
家に知らない人が居る。
灯りのついていない家で、だが泥棒ではない。
なら、この人は。
「あなたは」
問いかける途中でサンタクロースは私を指差した。
すると、背中に何かが不器用に抱き付いてきた。
顔だけ振り返ると母さんだった。
そして、母さんは私の首筋を噛みついてきた。
咄嗟に逸らし、肩を噛まれる。
「母さん!?痛い、痛いよ!!」
引き離そうにも力は物凄く、結局噛み千切られた。
「いあ゛ああああああああ」
絶叫しても、母さんは変わらずまた噛み付こうとしてくる。
抱きつく力も私より遥かに強く、振りほどけない。
頭を掴んでも、その勢いは止められず、歯が当たる前に全力で背中を壁にぶつけた。
「う゛っ!?」
隙を突いて振りほどく。
改めて振り返ると、ソレはやはり母さんで、母さんでは無かった。
「か、あさ ん?」
「ぅうう、あぁ゛ああああああああ゛!」
ソレは涙を流しながら発狂し、後ろから笑みの視線を向けられてるであろう私に襲いかかってくる。
肩を掴もうとする手を捕まえ、動きを止める。
「やめて!何がどうなってるの!?」
「ぅあ゛ああああああああ」
顔を血に染め、おかげで涙の跡が分かる。
母さんは泣いている。
だから私の掴む力が強くなった。
「母さん!正気に戻って!!」
「があああ゛!ああぁあ!」
私に張り合うように吠える。
憎悪が湧き上がる。
きっと 。
強く引き寄せ、そのまま頭突く。
片方の手を離して、両腕で残りの手を掴み強くひねる。
そのまま背中に付け、足を引っかけ上にのしかかるように一緒に倒れた。
「止めて!母さん正気になって!」
「ぁーぁーぁーぁー」
「お前!何をした!?」
笑っているサンタクロースに怒号を飛ばす。
「いやぁ、心外だなぁ。俺は何もしてないよ。」
「ふざけるな!!」
「あーいや。大真面目なんだが、人の話聞く気ある?」
「はぁ…はぁ…」
文字通り肩の力を抜き、呼吸を落ち着かせる。
「くれぐれも拘束を解くなよ。」
「うるさい…!」
一つため息をついてから話し始めた。
「はぁ…、言っとくが、俺が来た時にはもうこうなっていた。」
「…」
「ほんとだ、嘘じゃない。それと俺は泥棒じゃないからな。」
「じゃあなんでここに居る?」
「そう怒らないでよ。君を待っていたんだよ。」
「お前は誰だ、私は知らないぞ。」
「冗談だろ?本当に知らない?」
立ち上がって近づいてくる。
顔が見えて、何かがフラッシュバックして、
知らない場所、知らない友達、知らない自分。
知らない事を知っている。
分からない。
「あ ̄
力が抜けた途端、伏していた母が無理やり起き上がる。
急いで力を込めても、腕が折れようとも立ち上がる。
バランスを崩して尻餅をついた私にのしかかろうとする母さん。
だが、母さんはそこから動かなかった。
「邪魔をするな」
サンタクロースが母の髪の毛を引っ張っている。
それでも母さんは振り返りもせずただ私を喰らおうと。
その瞳は私を見ていなかった。
「やめろ!」
「離して良いのか?そんなに喰われたいか。」
「母さんがそんな事するわけが無い!」
「自分の夫をも食べたコイツがお前を喰えない訳がない。
それでもいいのなら_____
え?
急に周りの音が消え、周りの風景が鈍化していく。
その中で思考は正常で、あらゆる事を考えるも結末はおよそ、
「父さんを母さんが食べた?」
目の前のモノが母に見える。
果たしてソレは。
これだけ騒いでも現れない父。
「ぎぅあぁあああああ゛あああ゛‼︎‼︎」
サンタクロースは母さんの髪の毛を引っ張り上げ、後ろに放る。
「お前ぇ゛ええ!」
「なぁ、いい加減答えを出せよ」
「ぐっ!?」
首を掴まれ持ち上げられる。
いつかどこかで誰かに、自分がしたように。
「食うか喰われたいか
生きるか生かすか」
私は
「ぐぅ、っ!」
私、は、
「ま、っだ、死に、たく、な いっ、」
「生きる、か?」
手を離す。
「なら喰らえ」
崩れ落ちた私に投げかけられた。
「お前が生きるなら、ソレを食え。
生きるために喰らう。
それこそ弱肉強食、本能の赴くままに。」
立ち上がろうとする私に飛びかかる母さん。
その血の臭いに体が軽くなる。
それでも迷う私を容赦なく喰らう母さん。
やめてよ、母さん。
「----、----。」
涙が口の中に入る。
どっちのだろう。
泣いていたのは誰だったんだろう。
「美味いか?初めて自分で狩った肉は。」
「…」
「その味は知ってるだろう?そう言うことだよ。」
「…」
「さて、君のお父さんに挨拶をしに行こうか。」
「…」
「別れの挨拶は悔いの無いように。それが俺たちの一番の後悔だろ?」
「…」
転がっている死体は目の前に。
ソレヲコイツハ父ダトイウ。
言われなくたって分かる。
お母さんの夫で、私の父さんだから。
「食え。強くなる為に、これは犠牲じゃない。」
母さんの噛み口から見える肉を少し食む。
満たされない欲望に理性が負けた。
数日をかけて父さんだったものを食べ、
その後数日をかけて母さんも食べた。
サンタクロースから聞かされた話もほとんど覚えていない。
唯一、先生に言われた"悔いの無い別れ"だけが私の中のどこかを彷徨う。
食うと喰うの使い分けは気分かなんかです。
はむはむ
おかしな文ですけど、私が書きたいものがかけたかなぁって、読みづらいかもしれませんが。