別れ道で
「報告は以上か?」
「分かってるはずじゃないんですか。」
「フン。なら、余計な事だけはするなよ。」
「そっちこそ。」
鍵を差し出された。
「これは?」
「お前の未練だ。」
「山本さん?見てないよ。」
教室に残って居た子達に聴いてもやはり見ていないと。
そこで山本と連んでた2人を探すことにした。
小道具担当の渡瀬くんはちょうど片付け中だったのだが、
屋台のある場所に行くと何やら騒ぎになっていた。
「渡瀬くん、どうしたの?」
とりあえず目の前の騒ぎを聞くことにした。
「あ、高崎さん。
実は道具を片付けに来たら、骨組みの所々が折れてて。
不自然に歪んでるし切り口もあるから誰かがやったんじゃないかって。」
「それで、さっき斧を持った山本さんを見たって子がいて。」
「とりあえず俺たちはどうやって片付けようって。
山本を探しに行った奴もいるけど。」
渡瀬くんの周りに居た子達が補足してくれた。
まさかこんな所にまで首を突っ込んでるなんて。
怒りで拳を固く握る。
ピピ 誰かの携帯の通知音がなる。
「山本は荷物を取りに教室に行ったみたい。
帰ろうとしてるのかよ。」
それを聞いて教室に急行した。
「山本さん、なんでこんな事をしたの?」
「…」
教室内には既に委員長と山本がいた。
「訳があるなら教えて。」
「…じゃあ、理由なんてないよ。私がそうしたいからそうしただけ。」
「それだけでなんで、みんなの思い出を壊すような事をしたの!?」
「さっき言ったでしょ。」
「じゃあ、その盗ったお金は何に使うの?」
「そんなの、私の勝手でしょ。」
やっと教室に着くと既に委員長が止めに入って居たが、
「お前ぇ…!」
委員長と山本との間に入り、胸ぐらを掴みあげた。
「またお前が!」
私の睨みつけている瞳を臆さず覗き込む山本。
山本の拳も震えていた。
「離せよ…!」
「なんでやったんだ、って聞いてんだよ!」
「うるさいなぁ!お前らに分かるかよっ!!」
山本は私の肩を強く押した。
「分からないから聞いてんだよ!売り上げを何処へやった!」
「どうせお前らには関係無いだろ!自分たちに還ってくる訳でもないのにそんな必死になって、
ばっかみたい」
頭が熱くなる。
考えがまとまらなくなる。
「てぇめえええええ!!」
殴りかかっても防がれるのは分かっている。
山本の無防備な髪の毛を掴み下に引きずりおろす。
痛みでガードがとけた顔をすかさず殴り飛ばす。
周りの机や椅子を巻き込んで山本は倒れた。
泣きながら、悶えながら、身を丸くして守っているのをお構いなく上から何度も殴りつけた。
服に返り血がついた時、殴ろうと振り上げた腕を掴まれた。
振り切ろうにも向こうの方が力が強い。
横槍を入れたのは誰だと睨むと先生がいた。
「もう止めろ!」
「離せっ!」
「落ち着け!止めろ!」
どれだけ、どれだけ力を込めても先生の拘束を解けなかった。
「離して!そいつは!」
「分かってる!だからお前は落ち着け。」
山本から引き剥がされて少しは落ち着いた。
何をしても先生の拘束を解けないのだと無意識に理解した。
「後は私に任せてくれ。いいか、今日はもう帰れ。後のことはやっておくから。」
「でも!」
「高崎さん!もう止めて!帰ろ、今日はもういいから。」
先生程の力がない委員長に腕を掴まれて、ようやく落ち着いた。
「っ…!」
「後は先生に任せて。」
「ああ。秋月、高崎を頼むぞ。」
先生は山本を抱えて教室を出て行った
私は散らばる机と散乱する血を見て普段よりも冷静になった。
「ごめん、委員長…」
「いいよ。大丈夫だから。」
委員長の言葉に少し心が救われた。
一緒に机と椅子を直し、ついた血を拭き取り、その雑巾を見えないように捨てた。
「さあ、早く帰ろう。うちは後夜祭がないから。」
「うん、」
自分たちの荷物を持って教室を後にした。
「また、明日ね。」
「うん、じゃあね委員長。」
「バイバイ」
私はまっすぐに、いつもの別れ道でそれぞれの帰路についた。