お祭り前夜
学園祭まで残すところ今日も含めて3日となった。
「あれ、委員長?」
それは青山さんと下校するために下駄箱に向かっている時だった。
先行していた青山さんが委員長を見つけた。
最近事務仕事をほぼ委員長に任せっきりだったので少し気まずい。
今日だって、青山さんたちの所に手伝いに行っていたので今一緒に帰ろうとしている所だった。
「ぽいね。」
「おーい」
下駄箱に向けて歩を進める。
「あら、お疲れ様。今帰り?」
「うん、委員長もお疲れ」
「お疲れ」
久しく3人が揃った気がする。
「どう、委員長の方は進んでる?」
私はギクッとなった。
「まあそこそこかな。大丈夫、ちゃんと今週中に終わりそうだから。」
秋の涼しい夕暮れ時に冷や汗が出た。
「さっすが委員長!」
「それほどでも。誰かさんが本気だって言うから私も触発されただけ。」
「うっ…」
委員長がこっちを見ながら言うもんだから思わず呻いてしまった。
もちろん合わせて来ようとする目線も逸らした。
「あー」
言われてしたり顔でこちらを見てくる青山さん。
顔が熱くなってくるのは残暑のせい。
そう言い聞かせて誤魔化す。
「それほどでも。」
「ふふ、それじゃあね2人とも。夜道は危ないから気を付けて。」
「え?」
委員長も一緒に帰ろうと思ってたんだけど。
「じゃあね。」
「あ、じゃあね。」
委員長は何も返さずにそのまま校門をくぐっていった。
「何か用事でもあるのかな?」
「たぶんそうだと思うけど。」
私達もその後でさっさと帰り道についた。
委員長が言っていたのはこの事だろうか。
もう夏も終わって秋になっている。
昼間はまだ暑さを時折感じるくらいだが、青山さんと別れてバスを待っている間に何度か身震いしていた。
先週までは確かにまだ夕暮れだったと思っていたんだけど。
そろそろ冬服を出さないといけないかもなんて考えていたらバスが来た。
バスは時折少人数の乗り降りがあったが、私はたまった疲れでか眠りこけていた。
暗い夜道。
真っ暗で怖いから光を目指した。
真っ赤な光は私から恐怖心を拭った。
恐怖心が無くなった今、思い出したかのように空腹感に襲われる。
飢餓にも近いほど腹が空いた。
その衝動を抑えるべく、目の前で動くモノを掴んで捕食した。
最初は抵抗していたが、次第にその力は衰えて遂には動かなくなった。
何だかつまらなくなった。
何よりそんなに美味しくはなかったので別のモノを探した。
ご馳走は自分からやって来た。
早速いただこうとしたらそのモノに首を掴まれ持ち上げられた。
そのモノの目は眩しく光を反射していた。
振りほどこうとすると、目が覚めた。
もうすぐ家の前の停留所が見えた。
起きた時には寒さを忘れて汗をかいていた。
自然と自分の首をさすった。
痛みも無ければ掴まれた痕も当然なかった。
真斗が私の首を絞める。
馬乗りに私を上から押さえつけるかのように。
真斗の目は暗く光を反射することもない。
ただ私に何かを重ねて私の首を強く強く、殺す気で締め付けていた。
真斗の目には私は写っていない、のに真斗は私を見て泣く。
私の名前を呼んで泣く。
私と同じ名前を。
今朝目が覚めたのは真斗に呼ばれて起きたから。
夏七子ちゃんは朝食の準備をしている。
真斗に言われるままにいつもの朝の支度をする。
食卓で夏七子ちゃんに合う頃にはすっかり夢の内容はボヤけていた。
「あ、綺音ちゃんおはよう!」
橋を一旦止めて夏七子ちゃんはこちらに挨拶をする。
それだけの事がすごく心地いい。
「おはよう。」
自然とこちらも笑顔になる。
そこに真斗も合流していつも通りに3人で食卓を囲む。
「どう?」
私が一口を飲み込んだタイミングで夏七子ちゃんが聞いてきた。
「うん、美味しいよ。」
「えへへ」
今が食事中じゃなければ私の答えに綻んだ夏七子ちゃんを撫でていただろう。
「良かったな。」
「うん!」
年の差からだろうか真斗と夏七子ちゃんがたまに親子のように見える。
だが、その光景は微笑ましいものに違いはなかった。
「ごちそうさまでした。」
真斗が先に食べ終わり食器を片す。
「今日は学校の近くまで寄るけど乗ってくか?」
真斗が仕事の用意をしながら聞く。
「いいの!?」
夏七子ちゃんは喜んで確認を促す。
「ああ。お前も乗ってくか?」
「じゃあ私も乗る。」
「ん、了解。」
私の少し後に夏七子ちゃんが食べ終わって、
いつものバスの時間より少し早くにみんなで家を出た。
真斗の運転は特筆するほどのものではないが、車内は演歌が流れてた。
なんでも真斗達のおばあちゃんの影響だとかで、
元気よく歌う夏七子ちゃんに真斗がハミングで合わせていた。
テレビで微かに聞いたような、なんて曲ばかりだったが真斗と夏七子ちゃんが楽しそうにしていて、そこに私も居る。それだけで良かった。
「またね、お兄ちゃん、綺音ちゃん。」
夏七子ちゃんから先に降ろした。
「勉強頑張れよ。」
「また後でね。」
夏七子ちゃんは笑顔で手を振った。
しばらくもしない内に車内が2人きりだという事を再認識した。
だがもう私の学校は見えてきている。
「間に合いそうか?」
不意に真斗が聞いてきた。
「うん。なんとかね。」
窓の外を眺めながら答えた。
「良かったな。」
「…うん。」
少し物足りなさを感じつつも車は止まってしまう。
「あまり無理はするなよ。」
優しい声音で私の背に言った。
「うん、そのつもり。」
照れ臭くて振り返れなかった。
「ありがとね、送ってくれて。」
それでもやっぱり面と向かって礼を言う。
それが私だから。
「これくらいお安い御用さ。」
真斗は片手を上げて答えて車を早々に車を出した。
真斗の車を見送って振り返ると委員長がいた。
「おはよう。高崎さん。」
「あ、委員長おはよう。」
いつもは教室で顔を合わせるが、今日はバスではないのでたまたま校門前で会った。
「送ってもらったの?」
「うん、近所に用事があるからついでに、って。」
「へー。」
委員長は真斗の車が去って行った方向を冷たく目線で一瞥した。
「そういえばさ。」
委員長は取り繕った笑顔で話を切り替えた。
私はそのことには気づいてなかった。
教室で何人かと挨拶を交わし自分の席に着く。
それから朝のホームルームが過ぎ、授業もいつも通りに過ぎていった。
帰りのホームルームで先生が私達を激励した。
結局先生は表立っては手伝ってくれなかったが裏やこういう場面で私達を支えてくれてる。
先生ありがとう。心の中で感謝を告げた。
巻き返しが上手くいき、何とか今日中には全ての作業が終わった。
みんな笑顔でキラキラと輝かしい汗に夕日を反射させていた。
料理班の試食もバッチリと報告がきた。
各担当場所を回って短く、本番は明日だけどお疲れ様ありがとう、と挨拶をした。
そんなつもりはなかったがみんなから拍手を貰って、照れ臭い
。
それから帰りに青山さんと合流して委員長と3人で缶ジュースで乾杯をした。
帰りはバスになるが、疲れで眠ってしまって乗っている気がしなかった。
家に帰ると真斗しか居なかった。
夏七子ちゃんはどうしたのかと聞くと友達の家に泊まるんだそうな。
だから今夜は真斗と二人きり。
遅れてすみませんでした。
今回はだいぶ忙しくて構ってられてなかったです。
ですが暇を見つけては構想だけはしてたのでだいぶ行く先も着地点も固まってきた所です。
骨組みはほぼ終わってそこに付ける肉も決め終わった所ですかね。
あとは上手くはめれるか。
そんなわけで、なんとなくHL表記をホームルームにしました。