美子 と
「え?」
絶句する穂花。
「美味しかったかい?」
「……。」
温度差に気怠げな綺音。
「普通。」
「そっか、残念。」
そこに扉を開けて美子が入ってきた。
「ま、生きてるんだけどね。」
「?」
「冗談でもやめて下さいよ。」
「嘘は言ってないよ?」
「え?」
「あー、この話?」
そういって美子がかざした左手は
「もう要らないから。」
薬指が足りなかった。
「何で?」
「いちいち言わないとダメ?」
「…」
「ただのケジメ。
本当は腕ごといこうと思ってたけど、止められたから。」
落ち込む穂花をよそに話を戻す。
「それで、私に何の用?」
「あぁ、彼女の件ね。
その様子じゃダメだったみたいね。」
「この人が脳筋過ぎるので何か楽にいけるのがあればー ていう現状です。」
綺音を指して言う雄大。
「結局は暴力が一番早くてシンプルでしょ」
「でも、それじゃあ勝てないっていう話なの。」
呆れる美子。
「まだ会ってすらないのにどうして言い切れるの?」
「それは会えば分かるんだけど、この人も警告するくらいなんだから、
私の話を真面目に聞く気ある?」
黙って座って、それを促す綺音。
続いて雄大も座る。
「簡単に言えばドッペルゲンガー。
同じ人間が2人いる。
どうしてかは、知らない。
どこまで一緒かは、分からない。
、
簡潔に言えば1対1じゃ共倒れになるだけ。
だから人手が要る。」
「要らないけど。」
「…根拠は?」
「会えば分かる。
それは会う前から分かってる。
そもそも貴方達だって私が共倒れになった方がいいでしょ?」
「これは私の問題だから。」
立ち上がる綺音を制止する。
「それじゃあ、困るよ。
本来、それぞれの実験場で1人の生き残りを決める。
まだ実験は継続中だ。」
「でも、監督役が居ない?」
「引き継いだよ。
誰かのおかげで人手不足だからね。」
「穂花達の町は決まったけど、こっちがまだでね。
決着をつけてくれると助かるね。」
「それはそっちの都合。
こっちのメリットは?」
「生き残りと最強を名乗れる?」
「くっっっだらない!」
吐き捨てて綺音は出て行った。
「あーあ。
何が不満なんだか。
後は頼んだよ。」
「…はい。」
雄大が後を追う。
「穂花はいかないの?」
「なんだかあいつ、今までで一番無理してる気がする。」
「なんで?」
「それは、分からないけど、
見ていて痛々しいほど何かを否定してる。
様な気がする。」
「ふーん。」
「それこそ体裁を気にしないほど、何かに固執してる。」
「止める?」
「無理、いつもながら力不足。
止めるよりは見届ける、かな。
あの町の生き残りとして。」
「なら早く行った方がいいんじゃない?
ほら、彼女、イレギュラーだから。」
「そうする!」
「せいぜい頑張ってね。」
「はい。」
一礼をして去って行く穂花。
「さて、もういいかな?」
「十分ですよ。
とっくに。」
「じゃあ最後に遺すモノはある?」
「…__.。.。
ありすぎて、無いです。」
「そう。
じゃあ、ご苦労様。」
恨んでもしょうがないし、
願ってもしょうがないし、
諦めきれなくても、しょうがない。
せめて苦しまないのが救いか。
信じていないが、来世に期待でもして、
何も残せなかった今世に
さようなら