イレギュラー
「ありえないありえないありえない」
繰り返し、髪をかき乱す。
「何でお前が生き残るんだよ!」
穂花の襟元を掴む美子。
「…」
必死に振りほどこうとする穂花。
それを見て美子の動きが止まった。
「いや、
いや…?」
「先生。」
「何かな?」
カーテンの方から男の声がした。
「この場合はどうなるんですか?」
「何が?」
「私が今ここで穂花を殺したら。
そうしたら、」
「あー、そういうこと。」
「そうしたら元々ここに居た綺音と、
元々あっちに居た私が生き残った事になりますよね。」
「そうだね。」
「そうしたら、どうなりますか?」
「…やってみたら?
その方が早いでしょ?」
「答えて下さい。」
「………。」
「何故答えないんですか?」
「あー、まあ、そのぉ…
分からないんだよねぇ〜。」
「何ですかそれは?」
「自分でも散々言ってたじゃないか、イレギュラーだって。
だから答えは、やって見なきゃ分からない。だね。」
「…。」
「やるもやらないも君の自由だ。」
「ふざ、けん、なぁ!あ!!」
迷っている隙に何とか全力で美子を振りほどく穂花。
「あいかわらず!、
好き勝手言いやがって!、」
「そっか、じゃあ、私は関係ないんだ。」
「はぁ!?」
「やる気でしょ?
私はどっちでもいいよ。
どっちが生き残っても。」
「今回は邪魔しないでよ。」
「ここは私の家じゃないし、ご自由に。」
「お前!」
「だから、『来るな』って言ったのに…」
その言葉が穂花に届く前に、
雄大が窓ガラスを突き破る音に掻き消された。
全員が派手に登場した雄大に注目した。
「いい加減にして下さいよ、綺音さん。」
等の雄大は綺音を睨みつけていた。
「本当にそれでいいんですか?」
「いいよ。って、言ってるよ。
ずっと。
理由も添えて。」
「っっっっっ…!!!」
振りかぶった拳を綺音に思いっきり突き出した。
「あなたは!!!」
「。」
何も言わずに殴り飛ばされる綺音。
「何で!そんなに!!」
胸ぐらを掴んで起こす雄大。
「いいの?
私に構ってて。
死んじゃうよ?」
笑う綺音。
振り返ると穂花はうずくまっていた。
そこに追い討ちをかけている美子を
雄大が後ろから羽交い締めにして引き剥がした。
「同郷でしょ!?
協力出来ないんですか!?
殺しあう理由があるんですか!?」
「外野がうるさいよ!
邪魔しないでよ!」
美子に睨まれた綺音は悪びれもせず答えた。
「私は何もしてないんだけどねー。」
「押さえといてよ!」
「"私は"邪魔しない。
さっさと殺さなかったあなたの落ち度でしょ?」
「くそッ!くそッ!!!」
穂花の前に立ち塞がる雄大を恨めしく睨む美子。
「あああああああ!!!」
絶叫を上げながら無鉄砲に突っ込む美子。
雄大と美子が取っ組み合いになった瞬間に耳障りな音が響いた。
さらに嬌声を上げる美子。
悶絶しながら耳を抑えて膝をつく雄大。
置いてかれた綺音と穂花は音のなる方をみた。
そこにはさっきまで隠れていた男、
おそらく美子の先生であろう男が箱のようなものを持っていた。
見覚えがあった綺音はすぐにそれに飛びかかった。
咄嗟に身を庇ったので箱を壊すのは簡単だった。
「何でだ!?
何故効かない!?
聞こえないのか!?!」
さっきまで余裕だった先生が綺音に見下ろされて恐怖を漏らした。
「ヒッ!」
「ば、化け物じゃないのか!?
そんな筈は!」
「何度目なの、
私たちは"イレギュラー"なんでしょ?」
先生は絶句した