刺客
「私は高崎 綺音。
向こうで不貞腐れてるのが…
あれ、誰だっけ?
ど忘れしちゃった。」
「山本 穂花だ。」
「おふたりは、仲悪いんですか?」
それぞれに距離を保ちながら食事していた。
「良くはないよ。喧嘩だってしたし。」
「…。」
「でも、別に憎んでるわけでも恨んでるわけでもないよ。今は、ね。」
「…。」
「そうですか…」
一気に気まずくなる。
「まあ、同じ生き残り同士、これから縁が腐ってくんじゃない?
はたまた既に腐ってるのかもしれないけど。」
「それでユウくんも生き残りって言ってたよね。
あれってどう言う意味か、聞いていい?」
しつこく差し出す缶詰を渋々受け取りながら彼は口を開いた。
「そんなご大層なものじゃないですよ。
そのまんまあなた達と同じです。」
「そういえば高崎さん達の”先生“はどうしたんですか?」
「ん、『綺音ちゃん』でいいよ。」
「…綺音さん達は、どうやって2人生き残ったんですか?」
「たまたま2人生き残った。」
「違う。私たちの先生は、私たちを残すために色々やってくれてた。
つまり向こうを裏切って、自分よりも私たちを生かしてくれた恩人だよ。」
「急に割って入ってきて物知り顔だね。」
「少なくともお前よりは知ってるはずだからな。」
「そうだったんですか、いい先生だったんですね。」
「誇りに思うよ。」
「そうかな?終始訳わかんなかったけど。」
「じゃあ、ユウくんの先生はどんな先生なの?」
「比べちゃうと、やっぱり最低な大人でしたよ。
でも、綺音さんが殺してくれたお陰で俺はこうして自由になった。」
「え?いつ殺したっけ?覚えがないけど。」
「綺音さんが泣きながら食事をしていた時に不意打ちした先生を、そのままあっさり殺したじゃないですか。」
「あー、あれ?そんなのあったっけ?」
「はい、確かに。
感謝してますよ。」
「アレが吉田の先生だったのね。」
「ユウくんじゃないの?」
「うるさい。」
「ふーん、ここで私にそんな口聞くんだ。ふーん。」
ムカついて舌を鳴らす。
「雄大、でいいでしょ。」
「まあ、いいでしょう。」
「好きに呼んでいいですよ。」
「それにしても、あそこ見られてたのかー、恥ずかしいなー。」
「すごかったですよ。
よく、あの音に耐えれましたね。」
「音?何も聞こえてなかったけど。」
「え!?
綺音さんは人形人肉種ですよね!?」
「そうだよ。」
「まさか、進化したんだですか!?」
「ストップストップ。
すれ違いが加速してる。」
割って入る。
「あの時、綺音は文字通り聞こえてなかった。
何も。」
「アレ、あんたもいたの?」
「私は聴こえてたから動けなかったの。
それでこいつは自分で鼓膜を破ってたわけ。」
「あ、あの音の事?確かに鬱陶しいから自分で破ったっけな。」
「凄いですね、思いついてもまずやれないですよ。」
「それだけこいつが異常なんだよ。」
「まって、私の扱いがおかしくない?」
「改めてありがとうございました。」
意外と律儀な子だ。
「どうしたしまして。」
得意げな綺音に少しイラッとした。
「それでこの後はどうするんですか?」
「特に考えてないよ。
お腹空いたから自分の家に帰って来ただけだし。」
「え、ここって…」
「私、あそこの町の生まれじゃないんだ。」
「だからこそ2人も生き残りが出たのかもしれないけど。」
「いや、それは違うよ。」
また、知らない男が現れた。
「君はまたこの町で生き残らないといけない。」
男の見た目からして恐らくは、
この町での綺音の、
本来の先生だろうか。




