暗雲
さて、法被の製作所についた。
担当責任者を呼んで欠席を確認する。
中学生の子が1人が休みで他はみんなちゃんと来ているようだ。
特別枠に1人、高校生の方が足りないが。
「時間を取らせてごめんね。」
「そんなことないよ、これくらいは。」
「ありがと、じゃあ頑張ろうね。」
「うん。」
軽く挨拶を交わして、
最後に料理担当の場所へと向かった。
私は基本裏方で会計などをしているが、仮の担当場所としてはここになる。
委員長も私とほとんど変わらない。
正直忙しくなるのは当日からなので、それまではレシピの改良や安全確認など。
それでもやはり手は空くので他の所へ手伝いに行ってもらっている事もある。
目的の家庭科室は静かだった。
料理がお好み焼き1品だけになったので人員を他に割ける余裕が出来た。
だから家庭科室は静かで当たり前。
静かなのは人が居ないから。
だが今この家庭科室には2人居た。
「ねぇ」
「…」
カチカチとわずかに携帯のボタンを弄る音が聞こえる。
「山本さん」
携帯電話を弄るのを止めた山本穂花が顔上げてこちらを睨んだ。
「ここで何してるの?」
意に介さず思ったことを口にした。
「何もしてねぇーよ。する事がねぇんだろ?」
「ないはずはないよ。ここには、他の所の手伝いに散らばってくれって頼んでるよ。」
「そんな話聞いてないですー。」
「そう、じゃあ今から「はあ?なんでアタシがそんな事しなきゃいけないの?」
「なんで、って、何が疑問なの?」
「アタシの係りと場所はここで、係りの仕事はもう当日までないんでしょ?
だったら普通帰って良くね?」
「そうね。」
「アンタふざけてんの?」
「ならあなたは真面目なの?
そうは見えないけど。」
「アンタが脅してくるからでしょ」
「嫌なら蹴ればいいでしょう。」
「ほんとっ、ムカつく!留学生だか知らないけど急に来た奴にここまで仕切られなきゃいけないんだよ。」
「急に来たやつしかここまで仕切れないのもどうかと思うよ。」
「ほんと何様のつもり。ボンボンだからって偉そうにしてさ。」
「そういう振る舞いはしてないつもりだけど、そう思うのなら私は偉いって事じゃない?」
「ぶりっ子かよ、ウザ。」
飽きた。
山本さんとの会話に。
「はぁ…そろそろいい?いつまでここに居るつもり、早く何処かの手伝いに行きなさい。」
「だから、なんでアタシが!」
山本さんに近づく。
「なんだよ、また手をあげるのか?」
「そうして欲しい?」
座っている山本さんの胸ぐらを掴んで起き上がらせる。
「っ…!ムカつくんだよアンタのその目!」
「そう」
「アイツらと同じ目で!自分は大人のつもりか?!アタシを見下してんのかよ!?」
パンッ
景気の良い音がなった。
鳴らした、山本さんの頬を平手打ちした。
「大人ならどうした?大人じゃないならどうした?そんなこと気にしてるからいつまでも子供なんじゃないの?
見下されてると思う欠点があるからって勝手に見下されてるって思ってる方がナルシストなんじゃないの?
あなたは自分のことしか考えられない子供なの?」
「…るっさいなぁ!
アイツらとおんなじこと垂れ流してさ!
子供で悪いか!」
私が離さないと分かって仕返しにと頬をひっぱたかれた。
「アタシは今を自由に生きたいんだ!誰かに、何かに束縛されるなんてゴメンだ!」
胸ぐらを掴み返してきた。
「自由なんて、束縛の中でしか自由は確立されない。
そんなの子供でもちょっと考えれば解るだろう。
いつまでそんな事を夢想しているつもり?
あなたが今していることは現実逃避っていうのよ。」
「夢を見ちゃいけないって!?アンタらみたいになるなら、アタシは子供のままでいい!」
もう一撃、山本さんのそれを寸でで受け止める。
「好きに好きなだけ見てればいい。
ただそんな理由でこの場をサボらせはしない!」
掴んだ手をそのまま強く握って捻り絞る。
山本さんの表情が激痛に歪む。
「悪いけど、私もまだ大人じゃないから。」
「くっ…‼」
山本さんが引き離そうと必死にもがくがビクともしない。
「大人じゃなくても、子供でも、分かるよね?
一人じゃ何もできない。だから、私達はこうして協力しあってる。
分かるよね、そこに一人だって欠けちゃいけないって、ねぇ?」
さらに深く捻る。
「い゛っ!?」
「今日休んでる青山さんも、ここでサボろうとしてたあなたでさえも。今は人手が惜しいって言ったはずだよね。
みんなで協力しようよ。」
そういって手を放してやった。
それが間違いだった。
「嫌だね、アンタ達だけで勝手にやればいいじゃん。」
ノーモーションで顔を掌で掴みにかかる。
構えてただけあって顔を腕で塞がれたが、それでも上がガラ空き。
そのまま髪の毛の根元から掴む。
そのまま下に引っ張り後ろに逃げようとしていた山本さんを引き寄せる。
当然この際に何本か音を立てて抜けている。
「ったぁ!?ちょっ、離してよ!」
「分かるよね?」
「離せっ!離せよ!」
「わかるよね」
「この!」
反撃しようとする山本さんの手をかわして、
下げていた髪を上に持ち上げ空いている手で首元を掴んだ。
もう髪を掴んでいても意味がないので離してやった。
「解る、よね?」
「ぐっ、、離、せよ、っ!」
すごく息苦しそうに喋り辛そうにそう答えが返ってきた。
なら、しょうがない。
ダンっ‼︎
強い衝撃音が家庭科室の床に響いた。
「グェ!…おえっ」
「ねぇ、山本さん、私もまだ大人じゃないから、山本さんの返事次第ではこういう事もしてしまう。」
苦しんでいる山本さんに微笑んで問いかけた。
「だからさ、答えてよ、
わかるよね?」
「グッ…!ぁ…ぁあ、う…うん…」
「そう。
良い返事が聞けて良かったよ。」
首から手を離してやると今度は自分で締めるような仕草をして自分の首を撫でながら咳き込んだ。
「ゲホ、ゲホ、おぇっ…ゲホッ」
少しやり過ぎたという気もする。
頭に血が上りすぎた、いや、これくらいしないと彼女は手伝いに参加しなかっただろう。
考えるのを放棄して手を出した自分がどれだけ愚かしいかも分かっているつもりだ、が時間がないのだ。
時間がないから仕方がない、そんな自分への猜疑心を抑えつけて今は前へと進むしかない。
それしか…
山本さんは私が家庭科室を出た後に自主的に、小道具の所へ手伝いに行ったらしい。
すごく気まずかったと責任者に言われたが、助かった、そうだ。
今日は青山さんが学校に来ているが挨拶を交わしただけで居た。
放課後、みんなが解散した後にいつもと雰囲気の違う青山さんが私の所にやって来た。
ねっていたらねりすぎてだいぶ遅れました。
すみません。
気付いたら夏突入してました。
今回のは少し短いかなと思いましたが、次の分と合わせてたら長くなってしまっていたので話数的にはこれくらいでいいのかなぁと。
いまさらですがだいぶ構想もかたまって来たので次回までの間はあまり開けないよう頑張ります。
それでは