私の最近
「どうも、この度この町の学校に交換留学してまいりました。よろしくお願いします。」
愛想笑いを浮かべ、ある程度かしこまった挨拶をする。
想像通り、クラス内が少しざわつき、それを先生が静める。
そして、先生の指示で、急遽作られたように見える教室の端っこのスペースの机に向かった。
留学は正直面倒だったけど、ここに来たのはある目的のために。
それと、学校側で他校に留学に行って恥ずかしくない生徒が他にいなかったのも理由だけどね。
うちの学校はやたら見栄を張りたがる学校だから。
そのおかげか、先生が生徒を熱血的に指導して部活でも勉強面でも結構有名になったのだが。
そのせいで今はこんな田舎の学校とまで交換留学するような学校になったのでけども。
はあ、なんか暑いし、やたら珍しいのか視線がすごい。
もう初日から嫌になってきた。
本当は来るのだって嫌だったのに、今回だけはお父さんが本気で頼んで来たから。
学校のメンツもあるので、少しでも行儀良く振る舞うように先生や校長、ましてや理事長までにも念を押された。
普段は行儀が良いわけでもなく悪いわけでもなく、ただ友達と先生や目上に対して態度を分けているだけで、その事は先生も友人もよく分かってくれている。
だからこそ念押しされたのだけれども。
しかし、このお利口さん状態がいつまで続くか自分でも分からない。
正直今にでも猫背になってダラしなくなってしまいそう。
いつボロが出るものか。
はぁ〜、やっぱり学校は退屈だなぁ。
そんなわけで、授業が始まった。
授業自体に差し支えはなかったが、
クーラーが無いから暑くって集中出来なかった。
これが前の学校だったら近くの友人と愚痴り合っているというのに。
まあ、初めはしょうがないか。
にしても、扇風機の風は届かないし、下敷きで扇いだ風も生暖かい。
はぁ〜…
時期としては夏休みが終わって、新学期始めのテストが終わった頃合いだった。
友人曰く、向こうではもう風が涼しくなってきたんだって。
こっちはまったくそんな気配がないように太陽が照りつける。
風が吹けばそりゃあ涼しいけど、元々が暑いからであって、
はぁ、不便だなぁ。
初日の学校が終わって帰りのバスに乗りながらため息を吐いた。
このバスに乗るのに30分は待った。
時間を把握しないといけないみたい。
夜の方は50分や1時間感覚だ。
はぁ、それからバスを降りたら10分も歩く。
目的地は居候先。
お父さんの頼み事の目的地でもある。
自分と違う苗字の家に帰るのは何か違和感が凄まじい。
家に入ろうとすると、
「あ、お帰りー!」
家の前の花壇に水を上げている幼女が、その手を止め可愛らしくこちらにかけてきた。
この子は居候先の、私の許嫁とかいう、酒井 真斗の妹、酒井 夏七子だ。
つまり私は今酒井家に居候していると言える。
不本意ながら、親の決定で酒井家の長男、真斗と結婚する予定だ。
いきなり見合いで会って結婚というのも何だから、とお父さんが変な気を遣った。つもりなのだろう。こちらとしてはもっと遊びたかったんだが、
ついでに不便な暮らしも経験してこいとの事でこんな所まで、おそらく学校とグルになって飛ばされた。
そもそも結婚なんてまだまだ先だし、恋愛だってしてみたい。
花のJKいろんな事をしたいししりたいし。
しょうがなく、留学期間は大人しくしてよう。
少しの辛抱だ。
特に見返りはないがあんまり考え込むと良いこともないので、
なるべく気にしないようにしよう。
と言っても現状は不満だらけなのだが。
そんな中唯一の癒しがこの夏七子ちゃんだけだ。
私を家族の、姉のように迎えてくれて、今では慕ってくれてるし懐いてくれている。
だから、私も大好きだ。
妹のように可愛がっているつもりだ。
むしろ本当に妹に欲しい。
そんな事は、可能だが、その方法は今は論外だ。
夏七子ちゃんが居るから、少しは退屈じゃない。
「綺音ちゃん、学校はどうだったー?」
私の手を引きながら家の玄関へと誘う。
「もー、それ毎日聞いてるよ。別に普通で、大丈夫だって。」
「ほんとにー?綺音ちゃん可愛いから男子に告白とかされたんじゃないのー?」
子供は本当にこういう話題が好きだよね。まあ女子もそうだけど。
そんな私も女なわけだが、、
「うちのクラスにそんな度胸のありそうな奴は居ないよ。」
「えー、分かんないよー。実は好きでしたって男子が居るんじゃない?」
「ないない、それに来たばっかりなのに好きになられてもこっちとしては…」
困る。
困る?何故?
「じゃあお兄ちゃんは?」
「はは、それも毎日聞いてる。別にそんなんじゃないって。ただの許嫁なだけで、何だったら断ってもいいってあいつも言ってるし。」
「ざんねーん、綺音ちゃんとお兄ちゃんは結構お似合いだと思うけどなー」
「ははは」
愛想笑いしかできない。
そんな中噂の張本人がご登場。
「ふぃー、ただいまただいまーっと、あー、よっこいしょ。」
私の後ろ、玄関から泥と汗にまみれた臭い男が帰ってきた。
「お、帰ってきてたか、おけぇーりー」
「お兄ちゃんもおかえり!」
「…おかえり」
他人に、いや、慣れない人に「おかえり」と言うのはまだ少し、慣れない。
「よっこいしょっと」
いちいち何かするたびに漏れるソレはおっさんを連想させるが、真斗は一応、私と7歳差。24歳だ。
「お兄ちゃん、お風呂もうすぐ沸くからー!」
そう言って夏七子ちゃんは洗面所に行った。
真面目に手洗いをしている出来た子だ。
それから台所に立って料理をする。
とても14歳とは思えない。
私は料理はそんなに出来な…今後覚えいく予定なので、私も台所に行って夏七子ちゃんの手伝いをする。
前まではただ見ているだけだったが、申し訳なくなって。
そして、真斗は、農具を玄関の隅に片して、
タンスから自分のパンツだけを持って風呂場に向かった。
着替えは、元から風呂場に置いてあるので、風呂から上がってサッパリした真斗はパジャマに首からタオルを下げ冷蔵庫から冷たく冷えている缶ジュースを取り出し、私達が食事の準備をしたちゃぶ台に腰を下ろした。
もちろん、「よっこらせ」と漏らして。
「ふー、それじゃあ、いただきます!」
一息ついて食事の挨拶をする。
「いただきます!」
「いただきます」
これにはそれほど恥ずかしさはないけど、この歳でやるにしては、と考えてしまう。
「今日も美味そうだな!ありがとう!」
ちゃんと労いの言葉を忘れない。
「お兄ちゃんもいつもお疲れ様!」
「…お疲れ、さま」
「おう、俺はお前らのために頑張れるからな!
ところで、学校はどうだった?」
わざとなのか?と思うくらい毎日同じ質問を繰り返す、この兄妹。
だから今日もそれに同じ返答をして、そこから他愛もない話を、美味しい料理を囲んでした。
「ふぃー…」
寝転がってテレビを見つめる真斗を他所に私と夏七子ちゃんは順番に風呂に入った。
、たまに一緒に入ることもあるが。、
それから、自分の宿題やレポートをやったり夏七子ちゃんの勉強を見たりする。
それが終わる頃には夏七子ちゃんは眠くなってしまうので、寝かしつける。
私も、特にすることが無いので、真斗と一緒にテレビを見てるか、ボーッと田舎の夜空を縁側から見上げてる。
この時に吹く風が何となく心地よくてなんとなく好きだ。
最近の毎日はこんな感じに過ぎていく。
もうそろそろ慣れてきそう、なのかな。
そろそろ2週間が経ちそうになっている。
たまに両親と手紙でやりとりしている。
早く帰りたい、そんな事が気にならなくなってきて、薄れ始めてきている。
悪く無いかも、最初に比べて考え方もポジティブになってきたかも。
だからって不満がなくなったわけじゃ無いが。
これから先どうなるのか、留学が終わるまでにはまだまだある、3ヶ月もある。
うーん、考えるのが面倒だ。
とりあえず私の最近の1日はこうして過ぎていくのだった。
また、朝早く起きてバスが来るのを待たなければいけない。
そろそろ時間も覚えてきたから余裕が出来た。
余裕なんてものは今は無限に感じるかのように暇で退屈だ。
でも、それが最近は…ちょっと好き。
なんてもう少ししたら思い始めるのかな?
…
以降
後書きは飛ばしてもらっていいです