彼女からの告白 第一
妹からのラインで思い出した俺は急に疲労を感じた。
はぁ。面倒くさいな…
つい漏らした言葉ほど正直なものは無い。
自分にしか聞こえない呟きを漏らした。そのはずだが帰ろうとしている親子がこちらを見ていた。おそらく聞こえていたのだ。
俺は若干恥ずかしくなり足早に食品売り場に向かった。
食品売り場の音。バーコードを読み取るあの機械音が鳴り止まない。別にうるさいとは思わない。
カートが並んでいる場所の前に立った。まず何がいいか。メニューすら決めていなかった。
…何がいいか。
暑いからな。冷麺でも作るか。
俺は冷麺用の麺を買おうと売り場へ向かった。
冷麺を三つ、俺と妹と父さんの分をかごに入れた。
これだけじゃ野菜が無いな…
俺は野菜コーナーにどんな野菜が冷麺と合うか想像しながらかごに入れた。
入れたものはキャベツ、ニンジン、玉ねぎ。
これだけあればマシかと思ったが卵も必要だった。
卵コーナーに向かった時、俺が知っている人がいた。そいつはクラスのうるさい女子の中心人物だった。
「長谷川、お前も買い物なのか?」
俺は長谷川に声をかけた。
「まぁねー!裕ちゃんも買い物かー!一緒にお会計しよ?!」
いつもハイテンションである長谷川は一緒に話していてこちらもテンションが上がる。
「おう。俺は終わったから長谷川を待つよ。」
そう言うと長谷川は嬉しそうにカートを押して惣菜売り場に向かった。俺もそれについて行った。
「長谷川って料理とかすんのか?」
長谷川は一瞬、惣菜を探す手が止まった。さっきよりも若干低い声で返事をしてきた。
「うん…」
明らかに聞いてはいけない事を聞いてしまった。そう俺は感じた。これ以上は触れないでおこう。
「そうなんか。俺も自分で作る事があるからたまに料理の作り方とか教えてくれよ。」
別に本当に教えて欲しいわけではない。話題を変えようとしたのだ。
「うん!明日学校にレシピの本持ってくるから一緒に見よ!!」
長谷川は明るい人間だ。学校では笑い声や話す時の声が隣のクラスに聞こえてくるほどうるさいが、常にクラスの太陽的な存在でクラスの活気を良くしている。他人に優しくできる人間なので友達が多いのだ。
中学時代にこいつの事が好きだった理由がこれだ。『明るい人が好き』
会計を長谷川と一緒に済ませて、食品売り場からビニール袋を左手にぶら下げて右手に携帯を持ち、妹にラインで「今から帰る。」と送信した。
「ね!この後映画見に行かない?!」
長谷川からお誘いがあった。夕飯の当番が無ければ行きたい。だが無理なのだ。
「ごめんな。家に妹が腹空かせて待たせてるからまた今度行こうな。」
そう伝えて長谷川に「じゃあな」と手を振った。
ショッピングモールから家まで徒歩5分。そこまで遠くないが左手のビニール袋が邪魔くさくて道のりが長く感じる。
やっと家まで着いた。ポストに手紙が入っているか見てみた。妹の高校案内が入った書類が入っていた。
妹はもうすぐ高校生。俺と同じ学校に入る予定だ。
そーいや、俺も中3の時にこんな書類を見たなぁ…
懐かしい気持ちになった。中学時代は今いる高校よりも頭のいい場所を狙っていたが落ちてしまい滑り止めとして今の高校にいるのだ。ちなみに妹は第一志望でこの高校を選んだそうだ。
玄関の前に立ち、カバンから鍵を出してドアを開けた。
開けた途端、妹の笑い声が聞こえた。何か面白い番組でもやっているのか。たしか今日はあまり名の知れないお笑い芸人がギャグを披露する番組が放送されるのだと二日前のCMでやっていたな。
リビングに入り、ビニール袋をテーブルの上にドサッと置いた。
俺は皮肉交じりに「面白いか?」と聞いた。
妹はテレビを見て笑いながら「やばいやばい」と言ってきた。
『やばい』と言う言葉は悪い状況の時に使うのではないかと思った。まぁ、細かい事はどうでもいい。
俺はキッチンに向かい手を洗い、うがいを済ませて食材を並べ料理にとりかかった。
料理をしながら妹に高校案内が来ていた事を伝えた。
妹は「そーなん?!」とテーブルに乗った書類を乱暴に開けた。
「これでJKだあああああああ!!!!!」
リビングじゅうに妹の声が鳴り響いた。
「うるせぇよ。」
本当にうるさかった。近所の人に聞こえたら恥ずかしいわ。
料理が終わり、できた三つの冷麺の一つをラップで包んで冷蔵庫の中に入れた。父さんは帰りが非常に遅い人だ。たまに翌日の5時に帰ってくる事もある。
「ほら。できたよ。」
自分で言うのもなんだが俺は料理には自信がある。
「お!今日は冷麺か!」
妹も俺も麺系の食べ物が好きだ。
夕飯を食べ終え、二人分の食器を洗っていた。俺のポケットからラインの着信音が聞こえた。
手早く洗い終えてラインを見た。
結愛からだった。
「11時に猿ヶ島公園に来て。お願い。」
どういう事か。まぁ、ここから自転車で2分で着くので「わかった。」と送った。
猿ヶ島公園は大きな公園である。遊具やら山など子供が楽しめるものは十分にある。
現在の時刻は10時半。まだ早いが待つのも暇なので行くことにした。妹から虫除けスプレーを借りて体全体にかけて、ドアを開けた。「お、裕也か。どこに行くんだ?」
父さんだ。今日は早帰りだ。
「父さん、お疲れ様。猿ヶ島公園だよ。じゃあね。」
父さんは「夜道には気をつけろ。」とだけ言って家に入って行った。
俺は自転車にまたがり、ゆっくり公園へ向かった。
夜の住宅街は賑やかだ。家族の笑い声がどこからも聞こえてくる。この一つ一つの家に家族がいるのだと思うと日本という国は平和だと思った。
そう思っているうちに公園に着いた。ベンチらへんで待ち合わせなのだろうと思い、向かった。人影があった。結愛だった。
「結愛か。早かったな。もしかして待たせたか?」
結愛は俺の目を見ていた。
「ううん。私もちょうど来たところだよ。」
結愛がこんなに俺の事を見ていると急に結愛の事を意識しだしてしまった。
変な意味では無い。それだは断言できる。
ただ、これが恋の始まりに思うものなのかは自分でも分からなかった。
「裕也くんに言いたい事があるの。ここに呼んだのはそれが理由。」
結愛は整った顔で俺を見てきた。
「裕也くん。私さ。ずっと前からあなたの事が気になってたの。」
俺は一瞬結愛が何を言っているのかわからなかった。俺はただ結愛の言葉を聞いていた。
「いつの間にか裕也くんの事が好きになっちゃってさ。放課後に一緒に帰った時に告白をしようかと思ったけど、勇気が出なくて…。それで夜呼び出そうと思ってラインを交換したんだ。」
告白。俺は結愛から告白をされている。
頭の中でものすごい勢いで情報を処理しているのがわかる。
「あの…。もしよろしければ、私と、付き合って、下さい…。」
カタコトな感じではあったが結愛の目線が強い。妙なマネをさせない空気を作り出している。
「あ、あの…えっと、その…。」
俺は何を言おうかまだ決まってもいないのに本能的に何かを言おうとしていた。