彼女との最初の出会い
これは全てフィクションであり、物語の人物は全て架空のものです。
俺が小学5年生の時、ふとテレビのニュース番組で『リスカ依存』が深刻な問題になっていると専門家やニュースキャスターが暗い顔をして語っていた。
俺からしたら「ふーん。まぁ、世の中にはそんな人がいるんだなぁ。」程度に思ってそれ以外には何も思わなかった。そんな事、ほとんど非現実的な事だと思っていたのは高校2年の夏休みのある日の夕方までだった。
高校2年の夏休みのある日の早朝
俺はテニス部の練習で体育館の更衣室で着替え、ラケットを持ちコートに向かおうと体育館のドアを開けようとした時に後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「裕也くん。おはよ。」
声をかけてくれたのは同じクラスの根暗で常に一人で行動をしている結愛という人だった。俺はあまり話した事も顔もよく知らない人に声をかけられて大した返事をする事が出来なかった。
「おう。おはよ。」
そう言って俺はすぐに練習コートに向かった。
夕方になり部員とマネージャーで反省会をし、帰り支度をしていると体育館のドアの前に朝に俺に声をかけてくれた結愛が立っていた。
「お疲れ様。よかったら一緒に帰ろ。」
驚いた。理由はこいつは図書部だ。夏休みは朝から昼に終わるはずなのに夕方のテニス部の練習が終わるまで待っていたからだ。
俺は特に一緒に帰る事に対して別に拒否する理由が無いので「わかった。少し待っててくれ」と言った。
更衣室では結愛の話でもちきりだった。俺に気があるのではと。俺は結愛を待たせるわけにはいかないのですぐに着替えて体育館のドアの前に立っている結愛の場所へ走って向かった。
「待てせて悪かった。帰ろうか。」
と言って俺と結愛は体育館を後にした。
体育館の裏の門を通り、門の外で友達を待っている知り合いにさよならの挨拶を交わした。その時にやはり俺と結愛を交互に見ていた。
「なんか私、裕也くんに迷惑かな…」
結愛は周りの視線に気付いていた。
「別に。たまには違う人と帰るのも楽しいと思うよ。」
結愛は何も言わず頷いた。しばらく二人で沈黙が続いた。
「…」
「…」
俺はいつもの帰り道をぼうっと眺めていた。
結愛は下を向いている。
さすがに沈黙が続くのは気まずいと思い、話しかけようと面白い話をしようと声をかけた。
「そーいやさ」
「あの…」
かぶった。たまにこうゆう時がある。沈黙の時に起こりやすい。
俺は結愛の話を聞いてみたいと思い、結愛を優先した。
「ん?どうした?」
結愛は立ち止まり俺の顔を見ている。顔が上がっているところを初めて見た。俺は一瞬のうちに(あれ?こいつこんな可愛い顔してたのか。)と思った。たしかに本当に可愛いかった。そんじゃそこらのクラスのうるさい女子より可愛い顔をしている。
「あのさ。ライン。友達になろ。」
そう言って結愛はスマホを取り出し携帯アプリのラインを開いた。だいたいの人は開いたら友達のトプ画がズラリと並ぶ光景を目にするだろう。結愛はそうではなかった。
友達の数(3人)
数少ない友達に俺のを追加しようとしたのか。
同情してしまった。
俺はすぐに「俺でよければ」とラインを開き、QRコードを見せた。
「ごめんね…ありがと。」
結愛の顔は下を向いている。泣いているような声だった。
「近くにクレープ屋があるから何か好きなものを買ってやるよ。」
俺は悲しい空気が1番嫌いだと思ってしまう人間だ。なんとかして結愛を元気付けようと提案したのが『クレープを奢る事』だった。
結愛は頷いた。
歩いて2分、ショッピングモール前のクレープ屋に着いた。
今日は運良く並んでいなかった。結愛はいちごチョコ生クリームが食べたいと言った。
俺はバナナチョコ生クリームが食べたかったのでその二つを頼んだ。
出てきたのはできたてホヤホヤの生地で巻かれたクレープだった。俺はこれが好きなのだ。
「はい。どうぞ。」
「ありがと。」
ベンチに座っていた結愛にいちごチョコ生クリームを渡した。
結愛ってこんな可愛いやつだったのか?結愛の鼻に生クリームがこびりついていた。
「結愛。鼻についてるぞ。」
そう言ったら結愛は恥ずかしそうにすぐに鼻を拭いた。
「結愛って。可愛いんだな。」
結愛はまた俺を見た。驚いた顔をしている。
大きな目がさらに大きくなっていた。
しばらくするとまた下を向いた。
「そんな事ない…。私、根暗だし。」
また沈黙が続いた。結愛の手はスカートをぎゅっと握りしめていた。手の甲に涙の粒が何粒が落ちていた。
俺にしてやれることは慰めてやることしかない。俺は赤ちゃんを泣き止ますように頭を撫でた。
横で結愛が泣いている。俺はひたすら頭を撫でてやる事しかできなかった。
しばらく経ち、結愛が「ありがとう」と立ち上がった。
「もう、いいのか?」
俺は結愛に聞いた。結愛の鼻は真っ赤になっていた。
「うん。クレープ、ありがとね。私ここから一人で帰れるから。じゃあね。」
そう言って走って行ってしまった。
ピロリーン♪
ラインの通知音が鳴った。
「お兄、今日の夕飯の当番はお兄だから。ご飯買って来て。」
そうだった。今日は俺が夕飯の当番だった。
俺の家は父子家庭。母さんが三年前に仕事場で倒れてそのまま逝ってしまった。
俺は一つため息をついてすぐ近くのショッピングモールに入った。