最強なオレがエルフ耳少女と、皺くちゃバァさんに襲われた話
オレの名前は。栗栖・マス・ナクナーレ。中学3年生だ。
最強の欧米人の父と、究極の日本女性との合いの子だ。
当然、そんな最強クラスの二人から生まれたのだ。
オレも最強……。
だが、特殊スキルとかはまだ無い。あぁ神様、早く異世界に呼んでくれませんかね?
「……」
さて、そんな最強なオレだが。今日はクラスのダチから聞いた「幽霊が出る」とウワサを調べに、山奥の小屋まで来ていた。
学校帰りなので、当然、学生服のままだ。
「ここが、ウワサのハウスか……」
オレはその小屋を見る。
木とレンガで造られたその小屋は、手入れが行き届いていないのか、ボロボロにみえる。
だが、屋根の上に見える煙突からは、煙が出ていて。
中に人が住んでいることが、よく分かった。
「う~ん。人がいるのか……」
正直、オレはあのウワサを信じていないし。変なことが起きそうならすぐ帰るつもりでいた。本当なら来たくもなかったのだが。
しかし。ウワサというのは、胡散臭いものほど不思議な魅力があるように思う。
そんなことをウダウダと考えていると、背後から声がかかる。
「あれ?お兄ちゃん、だぁれ?」
「うおっ!」
急に声がかかるものだから、変な声が出てしまう。ダチがいなくて良かった。こんなん聞かれたら、飽きるまで延々口真似でからかわれる。
振り返るとそこには。
尖がったエルフ耳をした少女が、紙袋をかかえ、こちらを見上げていた。
「え?」
オレは再度驚く。
この話、現代風ホラーじゃないんですか?エルフ耳とか出ちゃうの?
「お兄ちゃん、だぁれ?」
エルフ少女はもう一度、そう言う。
あぁ、そうだよな。物語なんだから。いいんだよ。
「あ、あぁ。実は、道に迷ったんだよ」
オレはしどろもどろになりながらも、ここにいてもおかしくない理由を考えだし、口にする。
まさか、肝試しです。なんて言えやしない。
「迷子さんかぁ……あ、服の裾がやぶれてる。お兄ちゃん私、裁縫得意なんだよ?なおしてあげるから、お家おいでよ」
そう、学生服の端をひっぱりながら言ってくる少女。
「……」
家って、当然目の前にある、「ウワサのハウス」だよな。どうするかな。
だが、ここで断ったら怪しまれるか?
「あぁ……お願いできるかな」
オレは少女の誘いに乗るのだった。
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中に入ると、外観とはうってかわって。とても綺麗な内装だった。
フローリングの床に、真っ赤な絨毯。テーブルはちいさく、大きなソファがあった。それはまるで、どこかのホテルのようでもあった。
「ちょっと待っててね」
そういいながらエルフ耳の少女は、隣の部屋にいってしまう。
「あぁ……」
オレは再度、部屋の中を見渡す。思いがけない展開ではあるが、家の中に入ることが出来た。
人もいない。
まさにシャッターチャンスである。
オレはポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、撮影モードにする。
そして、一枚の写真をとった。
部屋全体が見える、そんな一枚だ。
「もう一枚……」
と、つぶやきながら。別のアングルを探していると。少女が入った部屋とは違う扉から。
一人の皺くちゃのバァさんが出てくる。
「……おんや。お客さんかえ?」
バァさんは、背中の曲がった、よぼよぼの身体で、しょぼしょぼの目をしていた。
寝着のままなのか、だぼっとしたスエット姿だ。
オレはスマートフォンをポケットにしまう。
見られたか?
他人の家に入って、速攻写真をとる。そんな失礼な行動を。
「あ、実は森の中で迷子になってしまって。それでこの家の前で、どうしたものかと悩んでいたら、小さな女の子が誘ってくれまして……」
オレはバァさんの様子を見ながら、さっきの出来事をいう。
「おん……?尻がかゆい……?」
「い、いえ、迷子になってしまいまして……?」
このバァさんいきなり何を言い出すんだ。ケツ?そんなこと一言もいってないぞ!
「そうかい、そうかい。ゆっくりしていきなさい……」
そう言い、バァさんはソファに腰をかける。
うわ。気まずい。
見知らぬ家で、見知らずのバァさんと二人っきり。
このバァさんには申し訳ないが、さっきの少女とならともかく、全く嬉しくなかった。
そして、そこで。もう一つの扉が開く。
「あ、おバァちゃん。もう起きていいの?」
エルフ耳の少女だ。バァさんに気が付き声をかけている。そして、そんな手の中には薄緑色の箱がある。
「おぉ……エルフ子。もう大丈夫やえ」
そしてバァさんはそう答える。ホームドラマのような温かみのあるやりとりだ。
「じゃあ、さっそく裾なおすね、お兄ちゃん」
エルフ耳の少女は、こちらに来ると、その箱を開け、中から裁縫セットを。
とりだし……。
「……え?」
オレは自分の目を疑った。箱の中身がオレの予想を裏切ったからだ。
ナイフ。
果物ナイフだった。銀色にギラギラと輝く刃。それが、箱の中にぎっしりと詰められている。
少女はその中の一本を手にとり。
「ウケッケ……」
と言う。
「お……おまえ、それをどうする気だ……?」
オレは後ずさる。
「当然、こうするに決まってるだろおおぉぉ!!!」
そう叫んだかと思うと、俺の顔めがけて、ナイフを投げてくる。
「ヒィッ!!」
オレはそれを避けるが、その避けた先にもナイフは飛んでくる。
前髪の束が、切れて床に落ちた。
「なんだよ……何だっていうんだよ……」
オレは膝がガクガク。ガクガクなる。
それに対し、少女は堂々したもので。
「どうせ。あんたも「ウワサ」を聞きつけてやってきたんでしょ?……ウハハッ。バカなおにぃ~ちゃん」
おい、あんたの孫?やばいんですけど?……オレは、バァさんに目をやる。
しかし、バァさんはこっちを見ていない。天井の辺りをニコニコと見ながら、ソファに座っている。
「くそっ」
オレは、少女のナイフ投げから逃げるように、隣の部屋にいく。
少女のいた部屋は、やばそうだ。もしかしたらスペアのナイフがあるかもしれない。
オレはバァさんの出てきた部屋へと入り、扉を閉め。
自分の体重をかけて、扉が開かないようにする。
「……」
そこは、調理場だった。
大きな調理台に、大きなカマド。大小そろった鍋やフライパンは壁につるされ。
料理の出来ないオレにも、そこがかなり充実した環境であることがよく分かった。
「お兄ちゃ~~ん?」
扉の向こうで、少女が声を出す。
「!!」
そうだ。重くてデカイ家具!!
扉をふさぐ、そんなものを探して、オレは必死で目を動かす。
しかし、そんなものは見つからない。
どれもこれもチェーンで固定されている。
「どういうことだよ」
オレは絶望的な気分になる。
「エルフ子。そんなんじゃ~、ご飯出来ないぇ……」
今度は背後から、バァさんの声が聞こえる。
そして。
ハァ~~~!!っと気合を入れるような声が聞こえ。
「……ローバァ・パーフェクションッッ!!!」
そう、叫んだかと、思ったら。
背後にあった扉は粉々に。
そして、その爆風をモロに食らったオレは意識を失った。
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「ウヒッヒ……!! もうすぐ、もうすぐじゃぞぉぉぉ~」
気が付くと。
オレは調理場の床で倒れていた。身体を起こそうと思うが、両手が縄でくくられているらしく。動けない。
仕方がないので、頭と視線だけを動かし。現状を確認する。
バァさんは口元を、ニヤニヤ・ニヤニヤさせながら。
手元にあった直径30cmのフライパンをカマドで加熱する。
「……!!」
カマドの火はテラテラと、バァさんの皺くちゃ顔を照らし、まるで興奮し赤く火照っているかのように見える。
美少女の赤面なら汁だくものだが、こんなの全く萌えない。
オレはこれから自分の身に起こるであろう、最悪の未来を想像し絶叫する。
「……ウワァァ!!や、やめろよぉぉぉッ!!」
オレは力の限り、暴れてみるが、縄で両手をしばられているため、思うようにいかない。
M男なら、この状況を喜べるのかもしれないが。
オレには全くそんな趣味はなかった。
「ウブッヒ!!!」
バァさんはどこから、そんな声をだしたのか分からない笑い声を出し。
カマドの中から熱々の、真っ赤な。身体に当てたら一発で、やけどしそうな。
そんな凶器をカマドから取り出す。そして、その熱々のフライパンを……。
振り上げた。
「さぁ、お兄ちゃぁぁあん!!!お仕置きだおおおおっ!!!」
エルフ耳の少女は興奮して叫ぶ。
「ウアワアアアァァァッッ!!!」
オレは、次にくるであろう、衝撃にそなえ、身体をまるめるが……!!
それはフェイントだった。
本命の攻撃。
バァさんは、バク転をかましながら、オレの背中に熱々のフライパンを押し付ける!!
「オオオオァアアアア!!!?」
熱い!!熱い!!熱い!!!
いや、痛い!!冷たい!!?
全ての神経が、背中に集中する。背中が痛い!!
やめろよ!!
オレが何をしたっていうんだッ!!!
「ウォォォォ!!!」
オレは、その晩。エルフ耳の少女と、バァさんに襲われたのだ。
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「おめ~、ウソはもっと上手につけよな~。そんなん言われたら一気に冷めるじょ?」
オレはクラスのダチ達に、昨日のこと話してみたが、誰も信じてくれない。
そうなのだ。
オレは目覚めると、何故か自分のベッドの中で。
「……」
背中のやけども、何故かなくなっていた。
痛みもない。
オレは一人になり、滅入った気持ちで、スマートフォンを見つめる。
そう。何故かスマートフォンの画像だけは残っていたのだ。
だがそれすらも「どこかで撮ったんだろ?」の一言で済まされてしまった。
オレの手の中には。
あの日、あの時の。誰もいない部屋の中だけが映っていた。