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空蝉
夏が終わり、少しもの悲しさが漂う海。
海を眺める女性。
たたすむ女性。
ボードをかかえる女性。
全ての女性が香奈に見えてしまう。
「拓実君。」
と駆け寄ってくる。
声のする方向に振り向くけれども、そこには誰もいない。
現実の世界にはもう香奈はいない。
そして、僕はまだ現実の世界にいる。
「この海で香奈は頑張っていたのね。」
「ええ。僕も頑張っていた姿をほとんどみていませんが。その姿を想像することはできます。」
「“遠く”の海で毎日のように泳いでいるのかしら。」
香奈のママは天を仰ぎ、そして海を見つめ、呟くように言った。
「香奈は大空を自由に羽ばたいている気がします。香奈には羽根がありますから。」
【蜩 (ひぐらし) ~完~】