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梅雨
浅井君がきたら声かけよう。
お父さんに助けてもらった御礼をきちんと言おう。
助けてもらった浅井さんには面と向かって御礼できなかったから。
なにより、時間がない。
たぶん、今年の夏を乗り切るのが精一杯。
自然な形で話をできる機会はおそらくこの同窓会だけだろう。
同窓会。
どんよりとした雲が空を覆ってはいるが、雨は落ちてはいない。
多くの人が来ていた。
ひとつ上の学年の同窓会。
少し居心地が悪い。
浅井君を探す。
浅井君にそれとなく近づき、声をかけるタイミングを見計らう。
聞こえてきた話。
”引っ越しをしなければいけないんだ”。
そのあと、何を話したのかはあまり覚えていない。
どうしてあんなことができたのかはよくわからない。
6月の終わり。
一緒に住むことになった。
彼の呼び名が、久美姉が呼んでいた“浅井君”から“拓実君”に変わった。
鎌倉に蝉が鳴き始めた。