薫風
久美姉に子供ができて結婚が決まってからは、あわただしくなった。
もちろん、久美姉はこの鎌倉から引っ越す。
「引っ越しはいつ?」
「月内には引っ越すわ。彼のところに荷物を運ぶだけだもの。」
ついちょっと前には、”先生”と呼んでいた人を”彼”と呼んでいることに気がついた。
「ごめんね。香奈。」
「なにが。」
「一緒に暮らせなくなって。どうするの、ここ。」
「まだ、なにも考えていない。」
海の近くに住むため、久美姉と2人で暮らすため、懸命に探してきたこの場所。
どうしようかな。
「結婚式とか披露宴とかするの?」
「なにもしないつもりだったんだけど、同窓会で披露しようかって話になっている。」
「同窓会で?」
「彼、先生じゃない。3年間、私たちの学年のクラス担任していたし。なにもしないっていうのもなんだしねっていうことになって。」
久美姉と彼は、生徒と先生の関係だった。
「そうとう集まるんじゃない?」
「おそらくね。」
「おんなじ学年じゃないけど、出席していい?」
「もちろん、同窓会の案内状ができたら、渡すわね。」
「浅井君、来るかな。」
「へえ。浅井君に興味あるんだ。顔、赤くなってるよ。」
「べっ、べつに。」
久美姉には私たちを助けてくれた人の息子が浅井君だっていうことを伝えていなかった。
「浅井君とは話をしたことないけど、来るんじゃないかな。たしか1年の時、彼のクラスだったから。」
「そうなんだ。」
「浅井君、来るか確認してもらう?それとも来るように言ってもらう?」
「ううん。ちょっと聞いてみただけだから。」