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花冷え
昨日までのうららかな日とはうってかわり、その日は朝から冷たい風が吹いていた。
「ただいま。寒いっ。」
「おかえり。」
「ママ、どうしたの?」
「香奈。」
手元の新聞の切り抜きをながめながら、涙を流していたようだ。
久美姉と私を助けてくれた人が事故でなくなったこと。
それが昨年の今日。
ママは静かな口調でしっかりと話をしてくれた。
新聞の切り抜きを読む。
“浅井君のお父さんじゃない!”
「その人の息子、たぶん、同じ高校。私のひとつうえ。久美姉の学年。ちょっと、久美姉の卒業アルバムを借りてくる。」
久美姉は引っ越しで忙しかったから、ママと2人で浅井さんのお宅に挨拶にでかけた。
「生きている間に挨拶にくることができず、申し訳ありませんでした。ライフセーバーになって人助けをしたいと考えています。」
ママにも打ち明けていない将来の夢を命の恩人“浅井さん”の前で報告した。
ライフセーバーになりたいって、ママに打ち明けたのはそれから1ヶ月余り立ってからのことだった。