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追撃

21世紀後半、人類はエネルギー、食料、環境問題、人口爆発への対応策として人口制御計画をスタートさせた。

膨大な容量を持つ仮想空間に、データ化した大量の人類の意識を移動させる事で様々な問題を解決する為であった。

そして西暦2447年..


彼女は眩い光を前方に浅い眠りの中で感じていた。

声がした。男女どちらでもない澄んだ中性的な声が

「目覚めよ、目覚めるのだリサ・カレンスキー」

声は金髪の美しい女に呼び掛けていた、女はゆっくりとまぶたを開きしばらくそのままだった。


「目覚めたかね、リサ・カレンスキー?」それは声だけの存在で姿はなかった。

女はゆっくりと上半身を上げた、「ここは何処だ?」

「月面にあるウォールズと呼ばれる人類統合管理機構の管理下の仮想空間内だ」

「?」

「無理もない、状況は説明する」

女は自分の部屋に居たがそれはあきらかに造りものであり、本物でないのは独自の嗅覚ですぐに感じていた。

「我々には時間がない、端的に説明する」

「待て、今は何年だ?」リサは遮るように言う。

「2447年だ」中性的な声が答えた。


「まずは話を聞いて欲しい、リサ・カレンスキー」

「聞こう」


「君に逃走した戦闘兵器を追跡し破壊してもらいたい」

「何だって?」

「我々がウォールズ防衛の為に作り出した人型の戦闘兵器だ、我々はシルトと呼んでいる」

「いきなり起こして、凄い話だな」

「事態の解決は緊急性が極めて高い、シルトは地球へと侵入した。我々は4体のシルトを追跡に向かわせたが、全て撃破された」

「でアタシにそいつを破壊しろと?」

「そうだ。君には高い犯罪捜査能力がある。冬眠状態の過去の多くの意識データから君が一番この事態の解決に適切だと我々は判断した」


リサは一呼吸置いて「で、そのシルトってのはどれくらいの力があるんだ?」


「単体で大都市一つを破壊出来る」

「そんな化け物は私じゃ無理だ」

「君の意識データをシルトに移し、追撃するなら可能ではと我々は考えている」


「分かった、やろう」リサは仕方ないといった感じで答えた。

「そうか。君の懸命な判断に感謝する」中性的な声は高揚していた。

「随分と急いでいるみたいだが、いくつか質問させて欲しい。私は起きたばかりで知らない事だらけだ」


「分かった、何が知りたい?」

「えーと、まずアンタの名前だ」

「ジョンでいい」

「おい、それ適当につけた名前じゃ」

リサを遮るように「私は複数の意識データの集合体であり、名前はない。君が不便さを感じるようなので任意に選んだ」

あーわかったと言わんばかりにリサは両手を上げ、ヤレヤレといったポーズをした「ではジョン、まずは」「私が死んだ理由だ。私は死んだら意識データを半永久的に保存する契約をマンシェン社と結んでいた。」


「君は仕事中に殉職した、2050年9月10日の19時55分。メトロポリタン美術館で麻薬テロリストとの激しい銃撃戦があった。君はその時に殉職した」


「当時の映像とかはないか?あれば見たい」

「少し待って欲しい、検索してみる」


一分程して「当時のニュース映像がある、今から再生する」

いきなりリサの目の前に画面が現れて映像が流れ始める。


マイクを持った小綺麗な女が実況していた

「現在ここマンハッタンのメトロポリタン美術館は麻薬テロリストに占拠され、館内には多数の人質が居ます。NY市警は多数の警官、SWATを既に配置し事件の対応にあたっています。あっすいませんNY市警の方ですか?お話を.....」

黒いビジネススーツの後ろ姿があった、それはリサだった。

リサは「ノーコメント」ずかずかと歩き去っていく。

リサは食い入るように見ていた、映像は銃撃戦の前のもので現場の状況を説明して終了した。

「これだけ?」

「済まない、映像記録はこれしかない」

リサは残念そうに肩を落とす。

「君は激しい銃撃戦の最中に死亡した。犯人側の誰によるものかは解明されていない」

「この犯人側の首謀者は誰だ?」とリサ

「ジョージ・ラミレスという男だった」

「アイツか」リサは過去の記憶を辿っていた、それは不倶戴天の敵であり、その当時彼女はラミレスの逮捕に全てを捧げていたのだ。


「ジョージ・ラミレスは、事件当夜NY市警第八分署のリチャード・アイローケン刑事によって射殺されている」

アイローケンはリサの部下だった。そうかアイツがやってくれたのか。リサは一人事のようにつぶやいた。



「他に質問は」とジョン。

「例のシルトとかいう化け物を退治した後、私はどうなる?」

「君にはウォールズでの居住権が与えられる。それなりの地位を約束する」

「もし失敗した場合は?」

「君に何か懲罰を加えたりはしない、ただできれば再度シルト追撃を行って貰いたい」

「了解だ」


「でいつ出発する?」

「用意が出来次第すぐにでも」ジョンは少し急かした。





準備


「ではこれより君の意識データをシルトに移す。いいかな?」

「結構時間掛かるんだろ?」

「意識データの移動は数分で完了する」

「やってくれ」

「了解した。データ移動中は君のあらゆる視覚がなくなる。では開始する」

リサの視界から全てが消えた、真っ暗の状態。ジョンは無言だった。リサは少し不安になったが、ジョンの言うとおり、数分後に突然視界が開けた。そこは例の自室ではなかった。

リサは辺りを見回してみた。そこは小部屋で、リサはベッドに寝た状態で起きた。目の前にには巨大な窓があり、窓の外は大きな施設のような場所である。何かの実験施設か?

「君の意識データは完全にシルトへと移動が完了した」相変わらずジョンは声だけで姿はない。「ここは仮想空間ではない、現実世界だ」

「これがシルト?」窓ガラスに映るそれはリサの姿である。

「そのシルトは君の為に作りだした特別なものだ。君のデータを元に、生前の君の肉体をある程度再現してある」

リサは立ち上がって手を動かしてみた。手を鼻の辺りに持っていくと自分の体臭ではなかったが、かすかに石鹸の様な香りがする。これが機械だって?まるで私自身、というか人間そのものじゃないか。

「シルトは人型ではあるが、人間ではない。その内部は精妙な機械的な構造だ」

「君の現在の体は君のデータを元に造られた、クローン人間に近い」

「体臭以外は完璧に私の体だな」

「だが」と間を置いてジョンが言った。「逃走したシルトとの戦闘を想定し、君の体にはほぼシルト同様の機能が備わっている」

「不思議だ。この体の機能や使い方をいつの間にか私は知っている」リサは驚いた。これが25世紀の技術なのか。

「意識データ移動の際、あらゆる機能の操作情報を君の意識データに加えてある」

「但し」とジョンは少し声音を変えて「通常のシルトに装備されている、ある機能がない」

「何だ?」

「通常のシルトには超小型の縮退炉がある。だが君の体にはない」

「シルトは縮退炉の膨大なエネルギーで瞬時に大量のビームを発生させる事が出来る。この濃密な自由電子レーザーのビームを上空から使用すれば大都市一つが消滅する。マイクロブラックホールを生成してホーキング輻射の熱を利用した砲撃も可能なのだ」


リサは考えてみた。理由は明白だ。

「私があんた達に刃向かうって可能性だろ?」

「その可能性は極めて低いと我々は考えている。だが我々はあらゆる事態に備えなければならない」

「普通はまあそう考えるな」リサはニヤリとした。


「君の体についてだが、五感や生理機能は普通の人間と変わらない」

「つまり飯を食ったり糞もすると?」

「その通り。君は肉体人だったという経歴から、その方が望ましいと考えられる。五感や生理機能がない場合、君は精神的に違和感を感じるはずだ」

「全くよく出来てるよ、この体は」

「但し、食欲や性欲は少し抑制出来る。五感に関して言えば極めて健康的で最良の状態が維持出来るはずだ。君の体には縮退炉ではなく、超小型の常温核融合炉が搭載されている。これが各種武装、サポートシステムの動力源になる」

「よし、じゃあ出発だな」

「用意は出来ている」ジョンの声は少し嬉しそうだった。




地球へ



リサは衣服と靴を与えられた。ジョンが用意した衣服は現在の地球ではごくごく普通のものらしいが、過去から来たリサからは少し違和感のある代物だった。まあ400年も経てばファッションなんかも変わるのだろうが。

下着のブラとパンツは21世紀とあまり変わっていないようだ。

衣服は上下別で、薄い水色のの長袖のYシャツのような感じのもの、下は黒いスラックスみたいなものでベルトはない。靴は茶色いスニーカーというか柔らかい素材で、履き心地は悪くない。

腕時計というものはすでに存在しないらしく、時間は右手の甲に淡い緑色に発光して表示させる事が出来る。


「部屋を出て格納庫に向かってもらいたい」ジョンが言った。

リサはドアを抜けて、例の実験施設みたいな場所に入った。

「ジョン」

「何だ」

「あんたは声だけで姿はないんだな」

「声だけで問題はないはずだ。君の耳にある極小な通信機とのコミュニケーションは理想的と我々は考えている」

リサは実験施設を出て廊下へ出た。

「その通路を真っ直ぐに行った先に格納庫がある」

施設内に人影はなく、二脚歩行のロボットみたいなのとすれ違うだけだ。

仮想空間に人が住んでいて、外にはロボットしかいないのだ。

「ここに人は居ないのか?」リサは興味本位に聞いてみた。

「人型のクローンのサポートユニットも居る。彼らはAIであり人間ではない」

「仮想空間の住人は外に出ないのか?」

「長年の仮想空間での生活により、彼らが現実世界に出なくてもいいような体制が構築されている。物事の性質上、クローンに意識データのコピーを移して外で活動する場合もなくはない」


「というより、住人達は外に出たがらないんだろ?」

「そうだ、外に出たがる者は少ない」

つまり長年の不便ない仮想空間での生活が生んだ弊害、むしろ仮想空間の住人からすれば現実世界の生活が非効率極まりないのだろうな。

リサはがあれこれ考えているうちに格納庫へ着いていた。

大きなガラス張りの部屋の向こうは巨大な格納庫があり、宇宙船がいくつもの並んでいる。

「リサ、これからは君にサポートユニットが随伴する」

「ロボットか?」

「人型のAIサポートユニットだ。この時代に不慣れな君をあらゆる面で支援する」


コツコツと靴音がして、十五歳ぐらいの少女が部屋に入って来た。

メイドみたいな白とピンクの服で、髪はいわゆるツインテールってやつか?

どう見てもコスプレにしか見えないぞ。

「リィーナと言います、これよりあなたのお世話をさせていただきます」

リサは少女の格好に笑いを堪えていた、今にも吹き出しそうだった。

「リサ、今後は彼女が君のサポートを行う。私と会話したい場合は彼女を通して可能だ。リィーナ後を頼む」

「了解です」リィーナは答えた。







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