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世界の暁  作者: ゆきかぜ
第7章
29/31

表と裏

1937年 7月5日 アメリカ合衆国 オアフ島某所



珍しく涼しい夜の町を1人の男が歩いていた。煙草の煙を引きながら、目的地へと向かう。暫くネオン通りを歩いて、裏道に足を進める。暗い路地に浮かんだ看板の灯りが目に付いた。入り口で煙草を捨て、身なりを整える。ドアを開けると灯りと騒めきが体を包んだ。酔いに浮かれた人々を尻目に奥へ進む。



「おーい、ここだ。ここ。」



訛った英語がその男を誘導した。帽子を壁に掛けて、椅子に座る。



「久しぶりだな、進藤。ワシントン以来か?」


「そうなるかな、キューン。」



挨拶を済ました彼らは固い握手を交わした。



「ニューヨークじゃ良い仕事したそうだな。こっちでも評判は上々だったよ。」


「なぁに、俺だけの手柄じゃないさ。」


「にしても、ここ最近。キツくなったよなぁ…。」



キューンは煙草を出した。キューンは進藤と同じく諜報員をしており。ドイツの諜報組織の1つである“ハンブルグ商会”に属していた。東機関とは協力関係を結んでいて、時には共同で諜報活動を行う事もあった。



「ニューヨークの拠点がやられた。芋づる式にマンハッタン、ブルックリンの支部まで干されたよ。」


「マジかよ…。随分と大人しくなったと思ったらそんな事情だったのか。」


「そっちはどうだい?」


「俺んとこは、まぁ店にガサ入れが来たぐらいかな。幸い何にも出なかったが。」



ハンブルグ商会は軍事施設が近い町に飲食店を展開しており、そこを諜報活動の拠点にしていた。無論、従業員は全員が諜報員で、今この2人がいる店もそのうちの1つである。



「アレを見てみろよ。」



キューンが指を指した先を見ると、酔っ払っている士官が若いウェイトレスと話し込んでいて、その後ろでは水兵達が出されている料理に舌鼓をうっていた。



「客は満足、んで俺らは金と情報をもらう。一石二鳥さ。」


「俺もここで寿司屋を始めたら、儲かるかな?w」


「オランダ人にはウケるだろうが、アメリカ人には早いだろうなw」


「冗談だって冗談。」



話がひと段落ついたのを見計らったのか、ウェイトレスが注文を聞きに来た。彼女はキューンの顔を見るなりニッコリと微笑んだ。



「いつものでいいわよね?お連れさんは?」


「俺のと同じでいいよ。」



彼女は注文を聞き終えると、何かを書いたメモ用紙をキューンに渡した。それをチラッと見たキューンは丸めてポケットに入れた。



「それは何だい?」


「あぁ、本部からの言付けだよ。君の依頼の件だ。時間はかかるが用意しておくだとよ。」


「それは有難い。感謝するよ。」



キューンは顔を近づけた。



「にしても、オアフ島要塞の見取り図だなんて、一体何に使うんだよ。」


「詳細は“軍機”でね。」


「ま、そう言うだろうと思ってたよ。ウチの関連が要塞で売店してて良かったな。」



さっきのウェイトレスが料理を運んできた。茹でたジャガイモにベーコン、ソーセージを添えた極めてシンプルなものだった。飲み物は無論、ビールである。



「乾杯!」



ジョッキの中身を一気に喉越しで押し込む。日本のビールとはまた違った味。進藤もキューンも愉快そうだった。


そんな彼らを店の奥からとある2人組が見ていた。





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