融和 【後編】
1936年4月23日 大日本帝国 東京都 某料亭
部屋の中には独特の緊張感が漂っていた。茶色の軍服を着た陸軍軍人、青色の軍服を着た海軍軍人が皿が載っている長机を挟んで対峙していた。彼らは一言も話す事なく、ただもう一人の代表者来るのを待っていた。
「皆お揃いのようだな、結構結構。」
静寂を破って入ってきた人物は先に来ていた陸軍側の代表者に挨拶を交わし、席に座った。
「では、これより第1回、陸海軍合同戦略勉強会を始める!」
司会は山下少将が執った。
「よろしくお願いします‼︎」
「では、山本少将。お願いします。」
各々には冊子が手渡されていた。
「今配った冊子を見て欲しい。一番始めの頁だ。」
見開き1ページに描かれた地図を見て、海軍側では声を上げる者が多々いた。陸軍側でも気づいた人も何人かいた。
「山本少将、これは…。」
皆が驚くのも無理はない。その地図にはハワイ諸島が描かれていたからだった。
「見ての通り、諸君達が見ているのはハワイ諸島だ。今日の議題は如何にしてハワイ諸島を占領するかということである。」
「山本さん、これが懸案事項ですか?」
「はい、そうです。」
納得の表情を見せた山下は陸軍側のグループへと向かった。山本は見事に色分けされた集団に失笑していた。
「その…諸君!せっかくこうして集まったんだ。お互いの意見を交えるのも悪くはないと思うが…。」
その言葉を聞いて皆、顔を見合わせた。山下が何人か引き連れたのを筆頭に、色分けされた集団は一つの集団になっていった。それを確認した山本も集団に入っていった。
同時刻 陸軍省
陸軍情報部の本部長となっていた野山大佐は膨大な数の書類の整理を終え、副官と執務室でお茶を飲んでいた。ハワイやモスクワへ送る諜報員の数を増やすことが決まったのも、野山大佐の仕事を増やすのに拍車をかけていた。
「まったく…書類の処理にこんなにも手間がかかるとは…。」
野山は現場が恋しいようだった。
「もしかして大佐、現場が恋しいのですか?」
2年間副官をしていただけあって、流石の指摘だった。
「ハハッ。俺も歳だからな…。」
「そういえば、今頃でしょうか?」
ふと思い出したように副官が口を開いた。
「陸海軍合同の勉強会とやらか?」
「はい、それにしても何の勉強会でしょうね?」
「聞いた話によれば、陸海軍を一つに纏めあげるとか…。」
「放っておけません。改めて調査を…。」
「いや、必要ない。」
「何故ですか?」
「何だろうか…何かいい予感がするんだ。」
野山は部屋の窓を開けた。普段よりも星が綺麗に見えていた。