演習 [後編]
長らくお待たせしました。
「これより模擬空戦を開始する。各機取り決めに従い思う存分やれ‼︎」
加賀の戦闘機隊隊長である中島正中尉は無線電話でそう伝えた。中島は加賀の戦闘機隊のみを編隊から分離させ、鳳翔の艦戦隊に向かった。
「九試艦戦、実力を見せてもらおう!」
九試艦戦の編隊がダイブして突っ込んできた。写真銃の光が見え、中島は直ぐに左旋回をした。約500kmぐらいの速さで九試艦戦が通り過ぎた。後ろを取ろうとするが速度の差は圧倒的だった。何機かの九五式艦戦が隊列を離れた。撃墜判定を受けたからだ。
「ちっ、中々やりおる…。」
中島は悠々と飛ぶ九試艦戦をただ呆然と眺めることしかできなかった。
駆逐艦 初春
堀越はこの一連の出来事をじっと見ていた。自身の設計した九試艦戦が問題もなく飛行しているので顔には安堵の表情が出ていた。
「堀越さん、凄い機体だ。」
側にいた大西は半ば興奮気味だった。模擬空戦は九試艦戦の圧勝に終わった。
同時刻 赤軍艦隊
戦艦 長門、伊勢、日向と空母 鳳翔は攻撃隊の格好の的になっていた。これまで航行中の戦艦は飛行機で撃沈できないとされていたが、その説はあっけなく覆された。まず、伊勢が6本目の魚雷が艦底を通過したため撃沈と判定。日向が急降下爆撃により中破。長門は魚雷1本と爆弾2発で小破と判定された。
ガンカメラの連写音も虚しく、目的を果たした攻撃隊は悠々と飛び去っていった。旗艦 長門の艦橋では大鑑巨砲主義者達のため息が広がっているようだった。対空砲で撃墜できた機体はたったの6機しかなく。あまりの有様に宇垣は自分のペンを折ってしまった。
空母 加賀
「山本さん、やりましたよ。」
源田が嬉しそうに艦橋に入ってきた。
「戦果は?」
「伊勢 撃沈、日向 中破、長門 鳳翔が小破との事です。」
報告を聞いた山本は笑みを浮かべた。この時あることを確証した。
「あと大西からですが、九試艦戦が圧勝のようです。」
「そうか…。」
「これで大砲屋の連中も納得したでしょう。」
「ははっ、そうだといいな。」
これまでとはかなり違った海軍大演習は幕を閉じようとしていた。この演習で航空機や電探などの兵器が有力視されるようになり、海軍の基本戦略や戦術、艦船の設備などを大きく変える原動力となった。また、山本を基とした何人かはある計画を立案することになる。