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世界の暁  作者: ゆきかぜ
第3章
13/31

訪日

諸条件あって投稿が遅れました。どうもお待たせいたしました。

1933年 8月30日 横須賀軍港


およそ三週間に渡る航海を終えたドイッチュラントは駆逐艦の護衛の元、厳かな雰囲気に包まれた横須賀軍港に入港した。ヒトラーは目に映る様々な艦艇を食い入るように見ていた。出迎えに来ていた伏見宮軍令部総長は徐々に見えてくる艦影に好奇心が湧きたてられていたようだった。



「あれがドイツ海軍の豆戦艦か、まるで重巡だな。」



重巡並の船体に28㎝三連装砲が2基とコンパクトにまとめられた船体。これを戦艦と称することは、長門型や伊勢型を保有している日本海軍にとって考えられないことだった。ドイッチュラントが桟橋に近づくにつれて、軍楽隊の演奏がより大きくなった。



「大歓迎ですな。総統。」


「ゲッベルスが居たら、何と言うかな?」


「新聞が賑わいますな。」


「ハハッ。そうだな。」



慣れない夏の暑い日差しに疲れてもいたようだったが軍楽隊がドイツの歌を演奏した時は爽やかな風が総統を包んでいるようだった。カメラのフラッシュに晒されながらタラップを降りるとまず、訪日研修将校団が目に入った。



「諸君らか?我が海軍期待の星たちは。」


「はっ‼︎ 光栄であります‼︎ オットー・チリアクス大佐以下24名、只今研修を終えました‼︎」


「うむ、ご苦労であった。」



ヒトラーは一人ずつ、労いの言葉をかけた。そこに伏見宮軍令部長がやって来た。



「彼らは江田島でよくやってくれました。熱心そのものでしたよ。」


「貴国の海軍は素晴らしいの一言に尽きる。学ばせてもらえた事を感謝します。」


「いえいえ、お役だて出来れば光栄です。お車までご案内しましょう。」


「わかりました。」



ヒトラーは伏見宮軍令部総長と車に乗って首相官邸に向かい。レーダー元帥と訪日研修将校団は海軍航空技術本部部長であった山本五十六の案内の元、空母 赤城の視察に向かった。


首相官邸で斎藤総理とヒトラーは今後の世界情勢や同盟の調整、技術交流の活性化について会談をした。この会談は後の第二次世界大戦で大きな影響を与えている。




1933年 9月3日 大日本帝国 鉄道省 広島駅


C51に牽かれた臨時列車は厳粛な空気に包まれながら広島駅に入線した。スイテ47型展望車の区分室で下車の用意をしていたヒトラーは、これから訪れる所に複雑な心境を抱いていた。列車から陸軍の側車に護られた車に乗り換え、広島港へ向かった。


目的地は徳島県にある板東俘虜収容所跡である。



「ここか…」



かつて第一次世界大戦で日本と戦ったドイツ兵が収容されていた板東俘虜収容所は、当時の所長であった松江豊寿中佐の方針で人道的で甚大かつ友好的に捕虜に接し、多くの捕虜から高い評価を得ていた。地元民との交流も盛んに行われ、あらゆる分野で両国の発展を促した。


同じ第一次世界大戦を戦ったヒトラーは前からこの場所を訪れたいと思っており、ついにその願いが叶えられた形となった。慰霊碑に花束を捧げ、町長の案内でドイツ兵が残した物を見ていたヒトラーは泣いていた。車に戻ろうとした時、一人のお婆さんが話しかけてきた。



「ドイツから来たお偉いさんはあんたかね?」


「そうだが。」


「これね、俘虜収容所のドイツの兵隊さんの物なんだけど、届けてもらえる?」



そう言われて渡されたのは一冊の詩集だった。表紙はボロボロで紙も茶色くなっていた。そのお婆さんはかつて俘虜収容所内のレストランで働いていて、その詩集は営業最後の日のドイツ兵の忘れ物だという。



「その人ね、詩を書くのが好きでいつも紙に書いていては私に見せてくれていたね。」


「その話、詳しく聞いてもよろしいか?」


「えぇ、構いませんよ。」



その2人の会話の写真は日独の新聞でトップを飾り、板東町はたちまち多くのドイツ人に知られる事となった。




1933年 9月10日 大日本帝国 呉軍港


12日に渡る日本訪問を終えて、横須賀から回航されたドイッチュラントに乗艦し、ヒトラーは帰国の途についた。段々離れていく陸地を少し寂しそうな目で見ていた。



「総統、日本が恋しいですか?」


「ハハハハッ。そう見えたかね? ま、間違いでもないが。」


「総統を虜にしてしまうとは、不思議な国ですな。日本は。」


「君もそう思うかね?だが、帰ったら忙しくなるぞ。」


「ですな。皆首を長くして総統の帰りを待ってますよ。」



海が荒れていたにも関わらず、ドイッチュラントの足取りは軽かった。




















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