終わりと
その時が来たのはそれから数日後だった。
他とは違う着信メロディーを携帯が鳴らした。
急いで出発の支度をしながら電話に出る。
「もしもしーー!」
病室に私がやっとついた時、看護師が妻に必死に話しかけていた。
意識をつなぐために。
「すみません、お待たせしました!」
「あ、ほら、旦那さん来ましたよ!」
そう言って立ち位置を変わってくれる。
「美与! 美与!!」
彼女はベッドに寝たままだったが私のほうを見て力なく笑おうとする。
「何、どうしたの…。 ただ眠いだけよ。 いつも通り……。」
そう言っている間も今にも目を閉じそうに、うつらうつらとしている。
彼女も自分がどういう状況なのか判っているんだろう。
こんな時でも笑おうとしている。
心配ないよ、って。
私はなんて言えばいい?
どうすればいい……?
ここ数日、この時が来る時のことを考えてしまい夢にまで見た。
しかし、いざとなった今彼女になんて声をかければいいのか判らなかった。
「美与! …美与!!……」
手を握る。
周りの事なんて考えていられなかった。
彼女の横になっているベッドの側面に膝をついて座り込み、彼女被さるように抱く。
彼女の名前を呼んで、泣くことしかできなかった。
そんな私の頭に暖かい…手が乗せられる。
「だいじょうぶだよ……。 わたしはだいじょうぶ。 たのしかった。 しあわせだった。 ううん、いまもしあわせ……」
「でも、ごめんね。 もう、だめ、すごくねむいわ。」
私は……
「あ…あぁ、俺も大丈夫。 ありがとうな。 ありがとう。 ……おやすみなさい。 ゆっくり、眠ってくれ。」
夢の中では…いや、夢の中でも幸せでいて欲しくて。
幸せな夢を見て欲しくて。
できなかったことや行けなかったところで二人で楽しい時間を過ごす。
そんな夢を、夢でせめて叶えて欲しくて。
そして彼女は、目を閉じた。
聞こえる彼女の寝息。
普通に寝ているだけだ……。
もう寝覚めないなんて信じられない。
……………私はしばらくそのまま、美与を抱きしめたままでいた。
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……。
しばらくして落ち着いてきた私に、それまでずっと見守っていてくれた医者が「大丈夫ですか…?」と訪ねてくれる。
「えぇ、もう、大丈夫です……」そう答えるとその医者はワンテンポ置いて口を開ける。
「……さて、では、これからの事ですがーーー」