笑顔の始まり
今日の目的地は遊園地。
彼女の要望で朝早くに無理矢理起こして何とか車に乗せる。
遊園地までの移動の間も彼女は眠っていた。
眠りについて敏感に成り過ぎになっているのかもしれないが、やっぱり心配になってしまう。
医者が言うには最期は眠ったまま二度と目覚めなくなる、らしい。
つまりそのきっかけは眠る度に訪れるようなものだ。
気づいた時はもう目覚めない状態になっていたら?
……いや、これは今悩んだってラチが明かない。
今はまだ大丈夫。
そう信じるしかない。
それに彼女自身が一番怖いハズだ。
私が安心させなければならない。
そんな私が不安がっていたら彼女のためにもならないだろう。
遊園地に着けば始めのうちは眠そうにするだろうけど次第に楽しんでくれるようになる。
その後も、運転している間仕方のないことを考えたりそれを割り切ろうとしたりとしきりにそんな考えが頭をよぎっては消えていた。
だいたい遊園地に着いたのが10時頃。
さすがに子供のように「わぁ!」なんて興奮したりはしていなかったけれど、楽しげな雰囲気に押されてかニコニコ笑っていた。
彼女が笑顔になれている、それだけでもココに来た意味はあったんだと思える。
……そんな日が続くってーーいや、今なんだ。
大事にしよう、今を。
「さて、まずは何から乗る?」
楽しい時間は、始まったばかりなんだ。
その日は閉門まで緩やかなモノから激しいモノまで時に休憩を挟みながら感想を言ったりして、まさしく"デート"を満喫した。
色んなアトラクションと大勢の人による喧騒に心休まるモノを感じ、私たちもそれに溶け込み楽しむ事ができたと思う。
「今日平日でしょ? 人少ないと思ってたんだけどね」
観覧車がゆっくりと上に上がり続けるなか外を眺めながら彼女が口を開く。
私も外を見てみると閉門間際だけあって人がさっきより少なくはなっているが確かに賑わっていた。
「そう言ったって俺たちもその中の一組だよ。」
なんか悪いことをしているような気分になって少しニヤッとしてくる。
「そうね。」
こっちを振り向いて笑う彼女の横顔を夕焼けのオレンジが照らす。
……私の笑顔が強張っていないか、と心配になってしまった。
彼女がこんなにも儚く感じてしまう時が来るなんて。
私たちは観覧車を降りたあと閉門のアナウンスが鳴る遊園地の出口へと向かって行った。
「ココ、パレードもやってる時あるみたいだからまた来ようか。」
そう楽しげな未来の話しをしながら。
なんとなく心に生まれる寂しさを抱えながら。