非日常の始まり
一気に投稿しますので、一気に読んでいただけるとありがたいです。
そうすれば多少は感情移入しやすくなるやもしれませんので。
尚一括投稿故前書き後書きも一つにさせていただきます。
告げられたのは聞き慣れない漢字七つの、おそらくは病名。
「ふ…か、確定?」
目の前に座る医者は少し顔を俯かせ気味に。
「……不覚醒、睡眠障害、です。」
いつからか妻はよく眠るようになった。
昼間も時々寝入っていて、彼女は「なんか眠いんだよね~」とその時は笑いながら言っていた。
心配だったが私も学生の頃なんかはよく眠っていたのでそういうものなのだろうと思っていた。
しかしだんだんとその頻度が増し、寝起きもボーっとしている時間が増え、今朝ついに彼女は「なんかこのまま起きられなくなるようで怖い」と言ってくれた。
無呼吸症候群やナルコレプシーといった病気も想定してとりあえず病院に行ってみよう、ということになった。
もし病気だったら治るのかな、迷惑かけちゃってゴメンね。迷惑じゃないよ、もっと頼ってくれ。それに病気だったとしても大丈夫さ。私が側に居る。……ありがと。じゃあずっと側に居てね。あぁ。
行きの車の中で半分本気で半分冗談で、半分心配そうに半部少し笑って。
それが……
予想外の聞き慣れない病名。
不覚醒? ……つまり本当に起きない、ということなのか?
しかも原因も対処法も無いらしい。
「過去世界中を見てもかなり稀な症例です。」
やりきれない、という顔をしながらそう言う。
この医者はきっと良い人なんだろう。
「寝ている際にレム睡眠状態になる割合が少しずつ多くなり、だんだん寝る時間自体が増えてきて、最期は眠ったまま起きなくなってしまうようです。」
「眠ったまま……?」
「臓器などはちゃんと機能しており脳だけが働いていない状態になります。 点滴などの処置を施せば身体の機能全体がストップしてしまうことは防げます。」
脳死、植物人間、そんな単語が頭をよぎった。
「そ、そんな……」
そんなことが……
「奥さんは見たところかなり病状は進んでいるようで……」
一旦言葉を切って、けれどその続きを発するためにまた口が開く。
続く内容はすぐに察しがついた。
聞きたくない。
知りたくない。
聞かなければ、知らなければならない内容。
それでも…そうだとしても……
「おそらく、奥さんに残された時間はーー」
私が医者から話しを聞かされている間妻に待っていてもらった部屋に向かう。
「美与~」
彼女は椅子に腰掛けて眠っていた。
「ッ!」
一瞬ドキッとしてしまう。
いや、まだ…まだ大丈夫のハズだ……。
「ほ…ほら、美与起きて。 帰るよ。」
「ん、んん……。」
良かった。
やっぱりホッとする。
「もういいの?」
「うん」
病院に居てもどうすることもできない、ということで家に帰ることにした。
「…それで、なんだって?」
帰りの車でそう尋ねる妻。
「あ、あぁ…その……」
言い淀んでしまう。
一瞬誤魔化そうかとも思ったが彼女は納得しないだろうし喜ばないだろう。
先生に言われたことをなるべく慎重に伝える。
「そう…。」
彼女はそうとだけ言った。
今朝言っていた通り判っていたのかもしれない。
彼女の顔は車の窓へ向けられていてこちらから確認することはできなかった。
私はなんて声を掛ければいいのだろう……。
結局、私は黙っていることしかできなかった。