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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第64話 離別Ⅴ:双竜消失

 少しして、ハープズフトの体から紫色に輝く光球が抜け出した。それはゆらゆらと移動して、シュトルツの体に吸い込まれる。


「……集まったのは〝暴食・色欲・嫉妬・強欲〟か……。…おいアヴラージュ」


 はい来た。来ると思ったよ。


「はいはい、なんですか?」

「お前、ツォーンを仕留めていないな?」

「そうだけど……なんか、アイツの方から戦うの止めちまって……」

「それで人類に被害が出たらどうする……」


 はぁーーーやれやれ──と、シュトルツが深い溜め息を吐いた。

 仕方ないじゃん、流されちゃったんだから。


「そん時は俺が何とかするって。アイツも、俺とまた殺し合いをしたがっていたしさ!」

「それなら……お前が全責任を負うならば、別にとやかく言わないが……」


 細かいやつめ。全然細かくないけど。

 さて、それじゃあツォーンについて話し合いますか。

 とりあえずは戦いに一区切りついた。

 みんなそれぞれボロボロだが、それはまあいい。一応は終わったのだから、ひと安心というものである。

 あとは帰って、一旦休憩──


 そう、思ったのに。


「……アヴラージュ」

「何?」


 問い返しているが、何が起こっているかはしっかりと把握済みだ。ルディアもいるので、出来ないわけはない。

 死んだはずのハープズフトの肉体が、ゆらりと立ち上がった。

 力なく伸ばされた手。指先からパチパチと、稲妻のようなものが走ったかと思えば──


「なっ……」

「なんだ、これ?」

「わかりませんが、途轍もない魔力反応です。これは──」

「穏やかではありませんわね……!」

「…………!」


《マズイよ、アヴ! これは、これは……この魔力量、アヴ以上だ!!》


 凄まじい魔力反応が観測された。

 ルディアまで、全力で警鐘を鳴らすほど。

 そりゃあ、リーベやアインザッツさんのような高度な魔力測定技能がなくてもわかる。

 これは……ヤバイ。果てしなく……途轍もなく。


「『いらないのは……お前と、お前』」


 女性と男性の声が混ざったような、奇妙で気色の悪い声が聞こえた。


「『だが、懐かしい。お前、まさかお前は……お前、その魂の輝き(・・・・)……』」


 これは、俺を指しているようだった。

 懐かしい……?

 そういえば、最初に、ルディアが俺の〝魂の輝き〟を『ボクの知っている〝ある人〟に似ている』と言っていたけど……それと、何か関係が?


《……ボクの、事実上の父さん。それと、この声は──》


 父さん!?

 え……は、え?


「『巡り巡って……まさか、ワタシの邪魔をする事になるなんて……お前、お前は、あの人じゃない!!』」

「何言ってるかわかんねーけど、俺は俺だ。誰の事言ってんのかもわかんねーけど、当たり前だろ!!」


 これ理不尽じゃない?


《……母さん、かなり錯乱しているね……》


 母さん?

 母さん!?

 つ、つまり……俺の魂(推定)は、元々この人の……。


《直接の転生体かどうかはわからない。けど、多分もとを辿れば──》


 ……マジか。


「『ああ、なんて事……愛する貴方が、こんなにもワタシの道を阻むなんて……。いいでしょう。これも、ワタシに課せられた試練らしい。貴方も超えて、全て──』」


 ハープズフト(?)の前に、巨大な〝穴〟が現れる。

 これは……?


「っ……吸い、込まれる……っ!!」

「オレもだ……。リーベは──」

「……? わたくしは……大丈夫ですが……?」


 リーベは何ともないのか……?


《効果対象の選択…………あれは、人為的に〝界渡り〟を可能にするものだろう……》


 どうにか出来ないのか? てか、何処に連れてかれる?


《わからないけど、別世界だ。キミがいた世界か、はたまた別の世界か……。どこかはわからない。だから今、必死に『解析』しているとも》


 吸引効果に『抵抗(レジスト)』とか出来そうか?


《解析が間に合えばね。けど、これは……》


 え?


「『どこともわからぬ異次元に消し飛ぶがいい──〝異境(いきょう)(ちょう)(えつ)()(かい)〟──』」


 聞き返すより早く、ハープズフトが発した言葉。

 〝穴〟の吸引力が増して──


「アヴラージュ!!」

「シュトルツ!!」


 駆け出したのは、エルピスさん、リーベ、アブーリア。

 けど……間に合わない。必死に手を伸ばしてくれているが、もう──


「『ああ、やっと、やっと…………──』」


「大丈夫だ、必ず戻る」


 シュトルツはもう無理だと割り切ったのか、勝手にもそんな事を言いやがる。

 その自信はどこから来るのやら……。

 そんな事を思いながら、俺とシュトルツは光に飲まれ、意識が暗転する。

 やっと一つの厄介事を終わらせたというのに、休む暇もなく、俺とシュトルツはどことも知らぬ〝場所〟に飛ばされてしまったのだった



   ◇◇◇



 とんでもない浮遊感に襲われている。

 意識も混濁して、自我がどこにあるのか曖昧になっている。

 頭がズキズキと痛む。

 なんだ、これ……? 知らない、記憶……。


 目の前には、目の覚めるような美しい女性。

 透き通った青い瞳と、灰色の長い髪が特に美しい。

 頬を赤く染めていて、とても……。

 俺は、その女性の頬を撫でている。まるで、夫婦のような接し方。そして、甘い口づけを──。


『あ  が き 、     わ』

『僕もだ。  を     』


 フワリと、言葉が頭に浮かんだ。


『も  、   貴方    』

『ああ、ああ……い   も……いつま    』


 断片のように曖昧で、ふんわりしている。


『こ  の  を め  ょう?』

『そう ね。うーん……そうだ。この子の名前は──』


 ──ルディア。


 ………

 ……

 …


 はっと、目が覚めた。

 夜空が見える。

 赤紫がかった空にキラキラと瞬き浮かぶ星が美しい。

 近くで、パチパチと鳴る火の音が聞こえる。


「……起きたか?」


 聞こえたのは、もう聞き慣れたシュトルツの声。


《安心したよ……やっと目覚めてくれたね》


 ──と、ルディアの声。


《ボクの〝声〟も届かないだなんて初めてだよ……》


 かなり心配をかけてしまったようで心苦しい。

 なんと、シュトルツまで俺を心配していたようだった。俺は結構ヤバイ状態だったようである。

 まぁ、俺の事はいい。問題は──


「ああ。もう大丈夫。……で、ここってどこだ?」


 上半身を起こした俺は、とりあえずこの問いをぶつけた。

 周りは、森。微かにする潮香で、近くに海がある事がわかる。

 確か〝貪婪(どんらん)の禁足地〟にも森はあったので、短距離を転移した可能性もまだ──


《それはないね》


 …………。

 ひと先ずはシュトルツの見解を聞いてみよう。


「……ワカラン、としか言えないな。オレ自身、わかっていない事だらけだ。ただ──」

「ただ?」

「……ただ、言える事は……ここは、オレ達がいた世界じゃない、って事だけだな」

「ほう? なんでそう言えるんだ?」

「〝深罪(しんざい)〟の気配だ」

「気配ぃ?」


 そんなスピリチュアルな……。


《いや、その確かめ方があったか……。キミ、一応はお手柄だね》


 は?

 それはどういう……。


「ああ。お前がツォーンを殺さなかったお陰で、この場所が別世界であるという確証が掴めた。オレ達深罪は、言わば人間で言う〝兄妹〟のようなものだ。血縁以上の繋がりが〝魂〟同士にある。どこにいても、気配は探れるんだ。……それが、一切感じ取れない。つまり、あの世界ではない」


 そんな感じなんだ……。

 お手柄っていうのはそういう事ね。ツォーンを殺さなかった事で、逆にこの世界がどういう感じかさぐれた、と……。

 シュトルツに戻る方法なんてないだろうし…………。

 ダメ元で聞いてみるけど、ルディア?


《……無理だね。ボクにそんな事をする技術はない。精々、死んでしまった無防備な魂を自分のいる世界に手招く……つまり、誘導するぐらいしか出来ないね》


 魂だけじゃ、意味ないよな……。

 はてさてどうしたものか。


「……なぁ、アヴラージュ」

「あん? 何だよ?」

「こんな時に聞くのも何だが……その……目と髪、どうした?」


 目と髪?

 ああ、青い右目と、前髪に入った灰色のメッシュね。

 今『俯瞰』してみたが、しれっと自然を統べる竜(エレメンタルドラゴン)に戻っていた。消耗が原因なのだろうか……。

 おっと、今はそれじゃない。


「これ?」

「そう、それだ。特にその右目……ルディアを思わせるんだが……」


 目だけでよくもまあわかるもんだな。


「まったく、よくわかるもんだよね」


 そんな事を言いながら、ルディアが俺の中から出てきた。


「もう出て大丈夫なのか?」

「うん。戦闘行為こそ出来ないけれど、出るだけなら出来るよ」


 俺達がそんな会話を交わしている隣で、シュトルツが口を掻っ開いて静止していた。

 それに気づいてしまっては、もう無視など出来ない。


「おーい、シュトルツー? 大丈夫かー?」


 目の前で手を振ってみるが、反応がない。

 ……ガチ静止である。

 数秒経って、やっとシュトルツが反応した。


「…………はっ」

「おっ、戻った。大丈夫か?」

「……何が起こったんだ?」

「ボクとアヴは、一時的に融合していたんだよ。それを解除しただけさ」


 また、ポカンと口を開けるシュトルツ。

 コイツらしからぬ姿だ。ちょっと笑える。


「……笑ってる場合か。じゃあ、再会出来たって事でいいんだな? そして、そんな事可能なのか?」

「ああ、そうだ。戦闘中だったが、バッチリ再会出来た。んで──」

「初めてじゃないしね、融合……は初めてだけど、〝憑依〟って形なら何度もした事あるし」

「…………そうか」


 まだ疑ってる感が拭えないが、一応は納得してくれたようである。

 はてさて、これからどうすべきか──そう思っていた、その時。


「貴様ら、動くな!!」


 ビクッとする俺と、微動だにしなくなるシュトルツ。

 もう気配を感じ取っていたようで、ルディアはバレないように俺の中に戻ってきている。

 ちゃんとしてるな、まったく。

 俺達に声をかけたのは、警察官の制服のようなものを着た……角の生えた人間が、ざっと二十名程度。いや、もっといるかな。十何人か、気配を消して潜伏しているようだ。


「見つけました。対象は二人……えっ、中央政府に? わ、我々シュッド政府軍で…………わかりました。中央政府に護送します」


 ……俺はまた、何か厄介事に巻き込まれるようだった。

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