第61話 傲欲Ⅳ:変化の狭間
時刻は少し前に遡り──
転移してみると、そこにいたのは、アインザッツさん、シュタルクさん、アブーリアの三人だけ。多分、残りは俺の眼前の『結界』内部でハープズフトと交戦中と思われる。
《ここまで近ければ流石に中が見える。いるのは、多分三人。シュトルツ、リーベ、エルピスはいるね》
三人ね。
そこで俺は思ったのだ。あれ? と。
エルピスさんのチーム〝勇希〟って、あともう一人いたよね?
《そうだね。ラインハイトがいない》
そうだよな?
見た限り、どこにもいないが……。というか、どうしてこの三人が外で待機しているのかもワカラン。
……まさか、な?
そんなわけ、ないよな。
少し振り返ると、いきなり俺が現れたからか、アブーリアは少し困惑しているようだった。シュタルクさんとアインザッツさんが何ともないのは、『転移』に慣れているからだろうか。
「あの、アインザッツさん」
シュタルクさんはまだ怖いので、アインザッツさんの方に行ってしまう俺である。
シュタルクさんってば、小六男子くらいの大きさしかないのに威圧感が半端じゃないのだ。まさに、歴戦の勇士……という感じ。
未だに慣れていない。
……が、それに比べてアインザッツさんはどうだろう?
話に聞いていただけだが、元聖職者とだけあってこちらは雰囲気の包容力が半端じゃない。流石に、リーベほどではないが。リーベは女神様とか、そんな感じの雰囲気なのでね。めちゃ美人だし。
「なんでしょう?」
「エルピスさんのチームって、もう一人いましたよね? 確か、ラインハイトさん。中で戦っているわけでもなさそうなのですが……一体、どこへ?」
信じたくもないさ。
短い付き合い……というか、最近会ったばかりの人とはいえ、見知った人が死ぬのは。
でも、なんでだろう。ちょっと……察せられる、というか。
アインザッツさんとシュタルクさん、ラインハイトさんの名前を出した途端、表情が曇った。
もうね、そこで察したよ。
エルピスさん達の相手は〝暴食〟のフェレライだ。戦いの中で何かを食われて死んだとしても、何もおかしくはない。
「……すみません。聞いたのが間違いでした」
「いえいえ……」
それだけ言って、俺は結界内部に視線を戻した。
シュトルツ、リーベ、エルピスさんの三人が、怒涛の連携で……紫髪の青年を追い詰めていた。
艶のある紫色の髪に、数多の感情を秘めた金色の瞳。袈裟のようなものを着ている。あれが……ハープズフトか。
「さてと……」
思わせぶりに呟いた俺は、島の一部を覆う半球状の『結界』、その頂点部に浮遊した。
とりあえず、良いタイミングでここに穴を空け、最大威力で奇襲する作戦。まぁ上からの奇襲だし、踵落としがいいだろうか。
「おっ」
見てみるとなんと、ちょうど良く真下にハープズフトとシュトルツがいるではないか!
未だに殴り合いをしているが、終わったタイミングで奇襲だな。
少し待つと、シュトルツとハープズフトの殴り合いが終わって両者距離を取り睨み合っている。
──今だな。
俺は〝竜人態〟になった上で燃え滾る竜へ。名付けるなら〝灼熱竜人態〟かな。
この『干渉遮断結界』は能力や魔法による干渉のみを遮断するので、物理的な衝撃まで完全遮断されるわけではないだろう。
この結界に穴をぶち空けたらどうなるのか……。それは定かじゃないが、まぁ一大事になったとして、その時はその時だ。
《…………》
ルディアより、あからさまな『ジコチューだなぁ』という沈黙。
なんと失礼なやつであろうか? 否定はしないが。俺は、結構な自己中なのである。というか、多分そのせいで前世も──
…………。
やめよう、この話は。自分から話を広げといてだが。
さてさて気を取り直して。
脚の熱は温存しておきたいので、とりあえず殴り破ろう。
なので──
「極熱赫灼拳打──ッ!!」
熱と共に莫大な威力を込めた拳で、『結界』に一撃。すると、結界にヒビが入って俺が入れる程度の裂け目が出来た。
《どうやら権能効果を内部に閉じ込めていたようだ。ボクが修復しておこう》
ルディアがそう言うと同時に、結界が修復された。
これでヨシ。
後は右脚に熱を集中させて──
「灼熱熔化蹴撃──踵落とし!!」
──急降下! 推定ハープズフトの脳天に一撃!!
「グハッ!?」
ハープズフトは反応出来なかったようだ。
かなりの隙が出来たので──
「ふんッ!!」
今度は腹部に手痛い蹴りを!!
「ガッハァッ!?」
今度もしっかり入り、ハープズフトはふっ飛ばされて岩壁に激突。大ダメージを期待出来そうだな、これは。
ただ、効いたのは蹴りっぽいな。それに付与された〝熱〟は、あまり影響を及ぼしていない様子である。
ま、それは置いといて──さて、と。
「あれ、あんま〝熱〟効いてない? まあ、いいか。遅れて悪い、シュトルツ!」
とりあえずは謝っておこう。
全員で戦うべきところ、少人数で戦わざるを得ない状況に追い込まれている……と、仮定するなら、俺はもう少し早く来るべきだっただろうから。
「……本当にな、アヴラージュ」
確かに、本当に遅れてしまった。俺自身、ここまでかかるとは思わなんだから仕方ない。
けど、こういう時にカッコよくキメられる台詞がある。
「いいだろ?『主役は遅れてやってくる』ってな!」
こういう事である。
《何と言うか……凄くアヴらしいよ。とってもね》
悪いか?
《馬鹿言うなよ、最高さ! それじゃ、早く決着をつけよう!》
だな。
とりあえず……。
「まだ戦れるよな、シュトルツ?」
「当たり前だ。……だが、アヴラージュ」
「あん?」
「その姿は……まさか、お前……」
ああ、〝竜人態〟か。確か、竜の完成形とか言われてたっけ。
「ツォーンと戦ってる最中にな。今はとりあえず、ハープズフトの相手だ」
「そうだな。……お前が成ったというなら、オレも使っておこうか」
「え?」
……おいおい、待てよ。
確かに、ハープズフトが成れるならシュトルツも成れたっておかしくはない。昔はシュトルツが筆頭……つまり、シュトルツが最強だったわけだ。なので、そこに疑問は湧かなかったのだが……。
まあいいや。勝つ確率が上がるなら、もうそれで。
次の瞬間、シュトルツの姿が変化し始めた。
漆黒の竜鱗に覆われた一対の角、翼、尻尾が生え、両脚の膝から下、それと両腕の前腕から手にかけてが、同じく漆黒の竜鱗に覆われた。
って、あれ?
俺は角、翼、尻尾が出るだけなんだけど……。
「お前の〝完成形〟は不完全だな」
「そうなの?」
「本来はこういうモノだ」
そうなんだ……。
俺も出来るかな? ほら、気合いでどうにかこうにか……。
多分、感覚としては『竜化』する時と同じでいいだろう。巨大化はせず、全身を竜鱗で覆う感覚…………。
すると、俺の体もシュトルツと同じように竜鱗に覆われた。
「……凄いな、お前」
まさかの、シュトルツが素直に褒めるレベル。
「だろ? ふふん……さっさと戦おうぜ!」
「だな」
気を良くした俺は、『格納空間』から黒銀蒼の竜剣を取り出して構えた。
シュトルツは、相変わらずの肉弾戦法。
なんとちょうどいいタイミングだろうか。ふっ飛ばされたハープズフトも、もう起き上がっている。
そして、急な乱入者である俺に向かってこう叫ぶのだ。
「ククッ……クソッ……誰だ、誰だお前はっ!? どうして私の邪魔を──」
そこで、俺の姿を目にしたのだろう。ツォーンは最初、俺の事をちょっと強い人間だと思っていたようだったが……この姿を見たなら、俺が竜であるというのは一目瞭然。
「……あなた、私達と同じ……」
「そうだよ、竜だよ。何か悪いか? 俺はアヴラージュ。シュトルツの援軍として来た。魔族のお前を殺しにな」
どうせ殺すのだ。別に挑発的でも大丈夫だろう。
「……人間側ですか。なんと惜しい……。完成形にまで成れる竜が、最初から敵対関係とは……」
なんだか……気持ち悪いな、コイツ。
いや、別に傷つけるとか、そういうんじゃないんだけどね?
なんだか、喋り方がネットリしていて気持ち悪いのだ。なんというか、変態チックというか……。
「シュトルツさんが使わないならと思っていましたが、そちらが使うなら私も使いましょうとも」
そうだった。ツォーンが言っていたな……ハープズフトも竜人態に成れるって。
はてさて、どんな姿になるやら……。
そんな事を思っている内に、ハープズフトの『変化』が開始された。
俺達と同じように角、翼、尻尾が生える。しかし、そのどれもが俺達よりも刺々しい形だ。刺々しく、禍々しい。
角、翼、尻尾、前腕から手にかけて、膝から足にかけてが紫色の竜鱗に覆われた。
なんというか……真っ先に、俺は〝恐怖〟を感じた。シュトルツの、武人のようなそれとは大違い。流石は〝強欲〟を関するだけあり、もっと根本的な……。
「私はね、シュトルツさんと一対一で向き合いたいのです。その上で──」
恐怖心が掻き立てられる。恐怖心が、激しく警鐘を鳴らしている。
「あなたは邪魔です」
《来るよ、アヴ!!》
目の前の何が動くより先に、ルディアの警告が聞こえた。
だからだろう。俺の意識が、まだハッキリしているのは。
「……まさか。最大速度、最大効率で動いたというのに」
俺は間一髪で、俺の〝竜核〟を貫こうとするハープズフトの貫手を受け止めていた。
今回はちょっと短めです。




