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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第59話 傲欲Ⅱ:援軍の到着

 シュトルツの権能(チカラ)──ハープズフトが欲しがるそれの名は、『気高き王の傲慢プライドトランセンデンス』。最初に生まれた最も重い深罪(しんざい)に相応しき力であり、常に他を圧倒する力そのもの。

 ハープズフトの『強欲の炎(グリードフレア)』は、欲したもの全てを自らのものにする力。それを持ってしても手に入らなかったのが、シュトルツの力。

 手に入らないものこそ、最も欲する。それがハープズフト。


「しかし、私の権能では、他人の権能を模倣する事は不可能……。けれど、抜け道も一つ。死した深罪(しんざい)の魂と権能は、現存する深罪の中で最も強い者に回帰する……というのは知ってますね? つまり、あなたを殺せば、あなたの力も手に入る!!」

「わかっているとも。オレとしても、ソレ(・・)が狙いだ」


 つまり、殺した(勝った)方の総取りというわけである。

 かくして、二人の戦いは激しさを増す事となる。


(あれが効かないなら、オレの手札はアヴラージュ達の増援に頼る事になりそうだな……。昔からの付き合い故、一番の切り札(ジョーカー)はここ一年以内に生まれたアヴラージュになるわけだが……)


 一番、可能性を秘めた存在。

 つい最近生まれ落ちた癖に、グングン成長を続けている、奇妙な竜。今までに見た事のないような雰囲気を纏っていた。


(出来るだけ早く頼むぞ、アヴラージュ……)


 シュトルツは切に、そう願うのだった。



   ◇◇◇



 今まではどちらかと言うと攻勢に傾いていたシュトルツだったが、戦術を変えている。

 現在は──


「っ──後ろですかっ!」

「いや、ずっと前だ」

「──っ!?」


 ハープズフトの前から急にシュトルツが消失し、背後から魔力を感じた。

 なのでハープズフトは、振り返って背後にいるはずのシュトルツに攻撃を行ったのだ。漆黒の礼服とマントを身に纏い、純白の髪と青い瞳を持つシュトルツに。

 しかしながら、それはデコイ。というか、能力によって生み出された『虚飾』なのだ。

 最初から、シュトルツは正面切って攻撃していた。だというのに、ハープズフトは翻弄されている。

 理由は簡単で、シュトルツは『本質反転(アンヴェルシオン)』を短い期間で何度も切り替え(スイッチ)繰り返している。それだけである。

 それだけでも、十分に翻弄出来ていた。倒す事こそ不可能なものの、時間稼ぎだけならシュトルツとしても御茶の子さいさいである。


(オレの『本質反転(アンヴェルシオン)』については、ハープズフトに知られている。何度も披露したしな……。しかしそれも、使い方一つ──)


 またシュトルツが『本質反転(アンヴェルシオン)』した。

 流石のシュトルツも、オルグに使ったような単純な使い方はもう出来ない。

 ならば、どうするか?


(アヴラージュのような、予測不可能な強さこそないが……オレはオレのやり方でやってやるさ)


 その答えは──


「やはり面倒(すばらしい)ですねぇ、その力!!」


本質反転(アンヴェルシオン)』したにも関わらず正面切って向かってきたシュトルツに対し、ハープズフトはそう叫ぶ。

 シュトルツの『本質反転(アンヴェルシオン)』は、彼の一挙手一投足どれを取っても予測しがたいものになる。全てが偽物である可能性が常にあるのだから、当たり前といえばそうなのだが。

 しかし、攻略法というか、ヒントも一つ。

 シュトルツの反転権能である『虚飾現実(ヴァニティリアル)』は、大体が視界の支配及び錯覚を操る事が多い。それは魔力の気配をも隠蔽及び錯覚させる事が可能なので、対処は容易ではないが……。


(そうとわかっていれば、対処のし様もあるというものです)


 し様もあるとは言うが、それが難しすぎるのがハープズフトにとっては玉に(きず)である。しかし、それを手に入れる事が出来れば晴れて、ハープズフトは世界最強の一角へと上り詰める事が出来るのだ。

 そんな事を考えている内に、シュトルツとの距離は縮まった。

 そのシュトルツは──何かおかしな動きをするでもなく、ただハープズフトに拳を打った。


(おや? まさかここまで迫っても消えない……。再び『本質反転(アンヴェルシオン)』を解除し、ありのままのあの力でなければ私にダメージを与える事は困難だというのに……? 何かがおかしいですね)


 本来ならば避ける動作……ましてや受け止めるなどするつもりがなかったハープズフトだが、この局面になって考えが変わった。何かがあると、そう踏んだのだ。

 シュトルツの『虚飾』は、当たり前だが反転を解除して権能が戻れば効果が消える。未だに幻像と思わしきシュトルツが存在しているという事は、それの正体がどうであれまだ反転を解除していないという事。

 それを前提に考えるならば、今、目の前で拳を放とうとしているこのシュトルツは──


(本体の可能性が高い──)


 ハープズフトからすれば、完全に想定外である。

 しかし、今の(・・)シュトルツの力は『偽装』能力なのだ。通常時にあるような『気高き王の傲慢プライドトランセンデンス』──つまり万人を『圧倒』する力ではない。

 そうであれば、自分を害するほどの威力はないはず──と、ハープズフトは一瞬だけ焦った心を鎮めた。


(そうであれば、何ら問題はないじゃないですか。焦って損をしましたよ、まったく)


 そんな事を思いながら、ハープズフトは余裕を持ってシュトルツの拳を受け止める。

 ──が。


「……?」


 ハープズフトの体が浮く。その肉体が感じたのは、強い〝衝撃〟と〝痛み〟。


(これ、は──?)


 連続で打ち込まれたシュトルツの打撃は、どれもこれも、味わった事のないような激痛と物理的な衝撃をハープズフトに与えた。


「……流石のお前も、想定出来ていなかったようだな」

「は……?」

「伝えていないし、使ってもいない。こんな使い方を、お前が知るはずもなし……」

「これは……」


(感覚の『偽装』──ッ!!)


 ハープズフトからすれば、完全に想定外の使い道である。


(どうして思いつかなかった? 偽装能力……視覚的効果だとばかり思っていた……。アイテルカイトは〝こう〟であるという先入観……〝憧れは理解から最も遠い感情〟とは言うが……まさか、自分にそれが降りかかるとは……っ)


 ハープズフトは、悔しさからか唇を噛んだ。

 そこから血が出ても、構いはしない。


「悔しいか?」

「……ええ」

「いい表情(ツラ)だ。そのままオレに翻弄されて、さっさと負けて(死んで)くれればいいんだが」

「私の矜持にかけても、そうは行きませんよ」

「わかっているとも」


 そんな会話を交わしている間に、両者共に立ち上がって構え直す。

 再び幕を開けた戦いは、更に熾烈さを増していく──。



   ◇◇◇



焦熱炎覇(コンフラグレート)


 ハープズフトが発動したのは、これまた人間の大魔法使いから奪い、学んだ火属性の最上級元素魔法。

 本来は超広域焼滅攻撃を行う魔法だが、やはりハープズフトは発動範囲の制限によって威力と指向性を増していた。


「熱っ……ハハッ、やっぱりお前は(それ)だよなぁ。お前の権能名も『強欲の炎(グリードフレア)』……ピッタリだ」

「ええ。私としてもお気に入りですともッ!!」


 そんな会話を交わしながら、ハープズフトは焦熱炎覇(コンフラグレート)凍結地獄(コキュートス)のように圧縮した炎球を幾つもシュトルツにけしかける。

 それを前に、シュトルツは──


「チッ、やはりその技術、厄介だな……」


 再度『本質反転(アンヴェルシオン)』を使用、その軌道や自分の位置を『偽装』し、問題なく回避。

 そして、今度はシュトルツが攻勢に出る。


「はぁッ!!」


 ハープズフトから少し離れた地点にいたシュトルツは『虚像』で、本体は既にハープズフトから目と鼻の先にいる。

 そんなシュトルツは、またハープズフトに『感覚偽装』の拳を放つのだ。


「くッ……そちらもそちらで厄介千万……恐ろしいですね」

「厄介じゃなくちゃあ使わない」


 厄介であれ、ハープズフトにとっては──


(しかし、慣れてきました……。そうとわかっていれば、対策だって如何用にも立てられる。けれど、そんな事を思っていると……)


 未だに違和感こそあれ、シュトルツから放たれるその『虚飾拳』に対応出来ているハープズフトである。初見時のように、翻弄されたりはしない。


 ──そして、時が訪れる──


 二人の脳に、またもあの時と同じ(・・・・・・)感覚が流れ込んだ。

 しかも、連続で二つ。

 つまり──


(フェレライとナイト……!! エルピス達、リーベ、アブーリア……やってくれたんだな……! 疑っていたわけではないが、流石と言ったところか……)


 エルピス率いるチーム〝(ゆう)()〟とフェレライ……そして、リーベ・アブーリアとナイトの戦いが終わったのだ。

 結果は──シュトルツ側の勝利。

 ここで、シュトルツも畳み掛けるように攻撃の勢いを増した。

 発動していた『本質反転(アンヴェルシオン)』を解き──


「なっ──」

「──ハァッ!!」


 今までにないほど強い力で、ハープズフトを叩く。

 殴る、蹴る、折る、投げる、貫く。

 フェイント等、様々な技術も応用して。

 リーベが遣わせる援軍こそ独断専行によるものだが、シュトルツはそれすらも予測していた。リーベならば、確実にこうするだろうと。

 そう信じているからこそ、シュトルツはここで攻撃の勢いを強めたのだ。

 そして、それは──


「お待たせして申し訳ありませんッ!!」


 美しい、ハープのような声が響き渡った。


(一、二、三、四、五……五人ッ! 五人、現れたッ!? 一体誰が──いや、この声には聞き憶えがある。忌々しき〝善徳〟の──それも、〝慈愛〟の──)


 もちろん、リーベ率いる援軍である。


「フンッ!!」


 まずは第一手。巨大な戦斧──〝剛健(ロバスト)〟を手にしたシュタルクがハープズフトに襲いかかる。

 上空で回転しながら慣性法則によって威力と勢いを増し、ハープズフトに向かって振り下ろす。


「クッ……」


 人類で見ると無類の強者に位置するシュタルクの攻撃だが、相手が悪かった。放たれた攻撃はハープズフトの掌によって簡単に受け止められてしまう。

 しかしながら、シュタルクもこの程度で倒せるとは微塵も思っていない。


「まぁ、そう来ますよね」


 ハープズフトの左右から、二人。

 アインザッツとリーベによる支援魔法により強化された、〝魔人〟アブーリアと〝勇者〟エルピス。

 両者共に、自身の最大威力を秘めた武器を持っていた。

 そして、ハープズフトの片手は塞がっている。この状況では、確実にどちらかの攻撃は受けてしまうだろう。

 ──だが、やはりというか何というか、〝格〟が違った。


「なっ……」

「だるいな、これは……」


 ハープズフトは、軽く手を振っただけだ。その小さな動作から生み出された衝撃波が、アブーリアとエルピスの動きを止めた。

 それから、アブーリアに蹴りを叩き込んでシュタルクを放り捨て、エルピスは片手で殴り飛ばす。


「チッ……」

「これは、想定以上だね……」

「だるすぎる……」


 ハープズフトは、シュトルツとの戦いで少しずつ力を増していた。それは、シュトルツが持つ力への羨望がより肥大化したため。

 エルピスも、それぐらい予測している。しかし、その強化幅が想定より上だったのだ。

 しかしながら……。


(まぁ、あまり予測した結果に変わりはないね)


 どちらにしろ、どうせこうなるだろうなとは思っていたエルピスである。

 なので、別に悔しくも何ともない。

 なぜなら、本命は──


「──詠唱完了。穏やかじゃあありませんが、ここで死んでください。どうか地獄で、天使様の恵みがあらん事を──天なる讃美歌セイクリッド・グレイスッ!!」


 飛行魔法(フライトマジック)で空中に浮遊していたアインザッツから、とある神聖魔法が放たれる。

 ハープズフトを取り囲むように八本の光の柱が出現し、それを中心として地面に魔法陣が描かれる。それはほんの一瞬の間に行われ、既にハープズフトは檻の中。

 その詠唱中も、ハープズフトに気取らせない辺り、エルピス達が気を逸らしていたのに加えて、ハープズフトが「アインザッツは支援に回っている」と思ったのがあれど、アインザッツの技量が(うかが)える。

 アインザッツが放ったのは、天使への祈りを捧げ、その代わりに天使の力の一端を借り受けるという〝神聖魔法〟の最上位に位置する魔法だった。

 ──神聖魔法:天なる讃美歌セイクリッド・グレイス。対象を光の柱で囲み、その上で魔法陣を築き、魔法陣内の対象を聖なる光で消滅させる御技である。


 ──援軍の到着により、戦いは第二ラウンドへ──

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