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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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幕間 後始末

 ──視点は戻り、エルピス達。


 バラバラになったフェレライの肉片が氷の大地に転がる。

 再生する様子はない。


「……放置して大丈夫なのか?」

「核は壊している。再生はしない」

「ならばいいが……」


 それだけの会話を交わして、エルピスは再度、ラインハイトの亡骸を抱き上げた。


(軽い……冷たい……)


 そこにもう、温もりはない。人肌にあるはずの、温もりは。


「……ダメ元で……死者蘇生(リザレクション)を……」

「いや、いい。多分、無理だ。彼女は、生命と記憶を奪ったと言っていた。多分、ラインハイトを人質か何かにする気だったんだろう。自分が追い詰められた時用の……。僕達が、そんな覚悟もせずに来たと思っていたんだ。基本的に、人を舐めていたから」


 そう、冷静に分析するエルピス。

 同時に、自分の状態に疑問を抱いていた。

 怒りと冷静、その中庸。何者にも勝るような速さと力を手に入れた、あの状態。


(あれは何だったんだ……? 自分の力が、信じられないほど上昇したように感じた。特に『超速思考』なんて使っていないのに、みんなの動きが遅く見えた……。あんなに硬かったフェレライの肉体も、豆腐のように……)


 そう思って、もう一度フェレライの死骸に目を移すエルピス。

 依然として、再生を始めるような様子はない。完全に、死んでいた。死を偽装している──とは、思えない。

 興味を失ったエルピスは、再度ラインハイトに意識を移し、ラインハイトの亡骸を背負う。


「……どうするのです?」

「彼女の故郷に、お墓を作ってあげないと」

「……わかるのですか?」

「当たり前だ。みんなと出会った場所は、ずっと覚えている。まるで、昨日の事のように思い出せるさ。ラインハイトと出会った場所も……君達と、出会った場所も」


 そう言って少し歩いて、エルピスは立ち止まった。

 様子からして、誰かと『念話』でもしているようだった。

 それを見たシュトルツとアインザッツは、エルピスの後を追う。


 ──その中で誰も、フェレライの死骸から抜け出す悍ましい光に気づけなかった。



   ◇◇◇



 少し待って、三人の前に一人の美女が現れた。

 純黒のドレスは少しボロボロで、青い瞳が美しい顔にも少しだが傷がある。左目は、潰れていた。

 リーベである。

 エルピスが連絡を取っていたのはリーベだった。エルピスは、シュトルツとは繋がらないと踏んでいた。相手が相手なので、仕方なくもある。

 元素魔法の使い手であるラインハイトが命を落としてしまうと転移魔法で帰るという手段が潰れてしまう事になるのだ。

 よって、帰る手段は他者依存となる。知り合いの中で、準備ナシに大陸を渡るような大規模転移を扱えるのは、相当の永い時を生きているような存在のみである。

 それでエルピスは、比較的簡単に終わっていそうなリーベを指名したわけだ。

 しかし──


「やはり苦戦したのかい?」


 駆けつけてきたリーベは、想定以上のダメージを負っているようだったのである。


「ええ。流石に、ヴォルスト相手には苦戦致しませんでしたが……ナイトの力を、性根を、甘く見ていましたわ」

「どういう事だい?」

「話は後で。ヴァーユラン……でしたわよね。早急に向かって……仲間を失ったばかりでお辛いでしょうが、シュトルツの援護に向かっていただきます。仲間は多い方がいいですから」


 神の視点で告げるならば、この行動はリーベの独断である。シュトルツ自身はアヴラージュが来てくれればおいいだろうと思っているのだが、リーベはそうではない。心配なのだ。

 その意図を汲み取ったエルピスは──


「ああ、わかったよ」


 少し笑いながら、そう答えたのだった。



   ◇◇◇



 場所を移し、現在地点はヴァーユラン連邦共和国──八つの州があるその中でも、耳長族(エルフ)が暮らすファシナンテ州に訪れたエルピス達。

 そこには、当然だがラインハイトの実家が──ない。当然だ。一万年も不在にするのだから、ラインハイト自身が旅立つ前に売り払ってしまっている。もはやそこに家はなく、空き地のようなものになっていた。

 そして、その近くには──シュヒテルン家の墓があった。


「……この近くに作ろうか」


 本来ならば正式な手順を追って葬式を執り行うべきなのだが、エルピスはそれを行わない。火急の事態なのである。であるからして、仕方のない事なのだ。


「…………」


 それでも、エルピスは悔しそうに唇を噛む。

 本当なら、本当ならちゃんとした手順を踏んで供養してあげなければいけないのに──と、エルピスは胸が張り裂けそうな想いに襲われた。

 遺体を埋めただけの、簡易的な墓。墓石などを買っている時間もないので、とても簡素なものに仕上がってしまっている。

 手を合わせ、静かに黙祷をする三人。リーベは加わっていない。すぐにでも『転移』出来るよう、常に準備しているようだった。


 やがて三人は立ち上がり、リーベに告げる。


「さあ、向かおう」

「本当に、ごめんなさい……」

「いいんだ。リーベの心配も、(もっと)もだからね」


 国を出る道中でそんな話をしながら、国外に出る門の前に『転移』してきた四人。


 主に大国などで使われている『都市結界』や『帝国結界』は、外部からの侵入を一切シャットアウトするものだ。しかし、内部での『転移魔法』や『空間転移』の使用は認められている。内部から内部への移動は可能だが、内部から外部へ、外部から内部への移動は不可能となっている。


 そのまま審査を終えて国外に出た三人は、『転移』でシュトルツの援護に向かう──前に。

『転移』で、とある場所に訪れた。そこには──


「……戻ったか」

「ええ」

「えっと……アブーリア、だっけ?」

「そうだ。俺も、援護に向かう」

「仲間は、多い方がいいですからね」


 アブーリアも、リーベほどではないがボロボロだ。エルピスからすれば、リーベがこの状況であるのに、魔人とはいえ純人間のアブーリアが生存している事が驚きだ。

 なので──


「大丈夫なのかい? リーベと同じく、ボロボロだけど……」

「……舐めてるのか?」

「いやいや、そんな事は。早く向かおう!」


 何やら危険な感じがしたので、すぐに話題を切り替えるエルピスなのだった。


 エルピス達三人とアブーリアを連れて、リーベは今度こそ、シュトルツの援護に向かうのだった──。

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