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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第57話 愛憎Ⅳ:決着の時

 これなら早く終わりそう──なんて思っていたリーベだったが、結構追い詰められているのだ。

 現在進行形で魔力を吸われており、時間経過による自動回復のペースを完全に超えている。減りきりはしないものの、減っていくばかり……。


(このままではジリ貧……。どうにかして削られきる前にケリをつけないと……)


 それでは、相手に絶対的な優位性(アドバンテージ)を与えているこの状況で、どう勝利するのか? 考えるまでもないが、策は一つに限られる。

 自らの全てを懸けた一撃で、確実に屠り去る事のみ。


(まぁ、それが難しいのですけれど……)


 そんな事を考えながら、今もリーベはナイトによる怒涛の連撃を往なし続けている。

 鎌に力を蓄えながらなので、想定していたよりも消耗していた。


「あっはははははっ!! もう限界でしょ? サッサと死になよ──っ!!」


 攻撃をするナイトも、リーベが片手間で何か企んでいるのはわかっていた。だからこそより強く、速く攻撃の勢いを増している。

 ──ある瞬間、ナイトが放った拳撃(けんげき)が、リーベの左目を潰した。


「くっ」

「もう余裕もないねぇ!!」


 両者一歩も譲らぬ、ギリギリの戦い。


(今この瞬間、最も警戒すべきは──)


 ………

 ……

 …


 リーベは、作戦会議中のシュトルツの急な警告を思い出していた。


『そうだ、これも伝えておこう』

『伝え忘れ多くないか?』

『千年も、だからな。少し記憶漏れがあっても仕方が無い』

『いいですから、伝える事とは?』


 少しの言い合いに発展しそうになったシュトルツとアヴラージュを宥め、話題を戻すリーベ。

 シュトルツは少し眉を(ひそ)めながら、その警告事項を伝えてくれた。


 ──曰く。

 〝深罪(しんざい)〟の六人には、それぞれ追い詰められたここぞという時にだけ使う、〝奥義〟のようなものを持っている、と。


『特定条件下、または特定の制約があるが、それでも強力なもの。そこに引き込まれた時点で終わりだな。特に……ナイトと、ハープズフト、ヴォルストか』


 そんな説明に、アヴラージュが『半数じゃねーか……』と溜め息をついていた。

 ナイトの奥義は、〝メイルストロムエンヴィー〟というもの。


『内外を分断・断絶する特殊な結界の内部でしか使えないが、選択対象の力を全て奪うというものだ』

『全て? 一つ残らず、全部?』

『ああ、全部だ。しかし、対抗策もある。それは──』


 ………

 ……

 …


全てを呑み込む嫉妬メイルストロムエンヴィーッ!!」


 先に事を起こしたのはナイト。

 展開した『領域結界』内の選択対象の魔力を全て奪う、ナイトの奥義である。


(来たっ!!)


 内心で、シュトルツに伝えられた〝対抗策〟の成功を祈るリーベ。


 次の瞬間、リーベの全魔力がナイトに奪われた。

 ガクリと、一瞬よろめいた。魔力がなくなった証拠である。もう、リーベの命ももはや風前の灯火。

 ──が。


 ナイトは、ある一つの違和感を抱いた。


(……なんか、おかしくない? リーベから感じた最初の魔力量と、今奪った魔力量、全然違うんだけど。いや、消耗してるから当たり前なんだけど……)


 それでも少なすぎる──と、ナイトは感じたのだ。

 そして、その理由をすぐに知る事になる。


 リーベの魔力が、微少ながら回復していた。

 リーベはその微少な魔力で体力回復(ヒーリング)を何度も行使し、規格外の出力効率で以て魔力を大幅に回復させようとしていた。


「──なっ!? なんであんた、回復出来てんの!? 全部、全部全部奪ったじゃん!! 回復魔法も使えないくらい、全部!!」

「……ふふ、ふふふ……」

「何笑ってんのよ!!」


 かなり苛立っているのか、ナイトに余裕はない。

 対するリーベは、所有魔力量に大きすぎる差があるというのに余裕そのものだ。

 ナイトは、『解析眼』を駆使してリーベの全てを観察する。しかし、そんな種も仕掛けも、どこにも──


(いや、ある! 得物(カマ)だ。あの鎌に──何、この魔力量? まさか、奪われる直前に、ほぼ全ての魔力を(こっち)に移したっていうの……?)


 そんな事、可能なのだろうか? 奥義を発動する瞬間を見破って、()つナイトに絶対にバレないように、ほぼ全ての魔力を鎌に移すなど……。

 可能なのだ。なぜなら──


(アイテルカイトの入れ知恵かぁ!!)


 内心でそう叫ぶナイトである。

 そこにあるのは、深い憎しみと絶望。

 ナイトとしては、先刻の一撃で全てを終わらせる気だった。サッサと『領域結界』を解除して、リーベの付き人も殺す気だった。

 しかし──


「ふふふ……奥義(それ)って、連続で発動出来ないのでしょう?」

「ひっ……!?」


 鎌の魔力は、深く大きな憎悪のエネルギーへと変換される。それこそ、ナイトが抱くそれよりも、遥かに強大な……。

 更に、リーベの権能である『心無虐殺(デスストリーク)』も宿り、放てば必殺となる刃が完成していた。



「……や、やめ……悪かった! もう人間を襲わない! あんたらも、絶対、殺さない!! 手を出さないから、見逃し──」


 そんな命乞いを始めたナイトを見て、リーベは内心でほくそ笑む。

 悪意はない。その理由は──


(とは言っても、ほぼ万全に近いナイトを相手に、一刀両断出来るほどこの鎌も強くはない。加えて少し魔力を使ってしまったから、一撃でナイトを殺す事は不可能でしょう。彼女自身にそれがバレていないのが救いですが……放てば確実にバレる……)


 どうしたものか、とリーベは悩む。

 が──


(大丈夫でしょう。何より、わたくしは幸運です。だって、きっとこの位置は──)


 ()()()()()()()()()と、リーベは感じるのだ。

 もう感じ慣れた、アブーリアの大きな魔力を。『隔絶』されているとはいえ、リーベとアブーリアの関係は、ナイトとリーベのそれ以上に強固だった。憎悪だろうと、友情だろうと。


(だからわたくしは──)


 ──いつの間にかナイトは、『領域』の端まで後退りしていた。


「これで終わりです──命を刈り取る憎悪の刃ヘイトレッドハーヴェストッ!!」

「や、やめ──ッ!!」


 ナイトが目を瞑って、衝撃に備えようとした──が。


(……あれ?)


 放たれた魔力や衝撃を見て、違和感を覚える。

 リーベが「これで終わり」と言う割には、それが少ない。そして、小さかったのだ。

 その憎悪の刃は、ナイトに炸裂する──事は、なく。


「……え?」

「…………ふふっ、ふふふっ……そうですか……少し魔力を使ったお陰で、威力が減って──『結界』を破壊するに、留まる事が出来た……」


 リーベがそう告げた次の瞬間、ナイトが展開していた『領域結界』に一筋の亀裂が入った。それは恐ろしいほどに真っ直ぐ広がり──やがて、『領域結界』は崩壊した。


「な、なっ……」


 せっかくの『領域結界』を破壊された事に、少しの屈辱を感じるナイトである。

 せっかく、後一歩のところまで追い詰めていたのに。

 自分が、圧倒的に優位だったのに。

 それが、今では、自分に圧倒的に有利だった戦場(フィールド)を壊され、その分の魔力も消耗していた。


「ああ……わたくし、これで終わりだと言いましたね。あれは嘘です。正確には、あれではない……」

「──は?」


 一瞬、ナイトは何を言っているかわからなかった。

 しかし、すぐにその意味を理解して──


「まさか──」

「待ってたぞ、リーベ」


 その声が聞こえた時には──ひと振りの鎌が、ナイトの体を左右真っ二つに両断していた。



   ◆◆◆



 アブーリアが振るった鎌が、ナイトの核と、魔力を精製及び循環させる〝丹田〟を破壊した。真っ二つになったナイトの死骸は、もう再生する気配もない。


「……やったな、リーベ」

「ええ…………」


 リーベが、一瞬よろめいた。


「リーベ?」


 そんなリーベを、アブーリアが支える。


「ああ……ありがとうございます……。過去、類を見ないほどに魔力を消費しましたから……流石に、少し疲れました……」

「ああ、流石にな」


 アブーリアの肩も借りて、一旦は大樹の下に移動したリーベ。そこで、休息を取る二人。


「いや、本当に……流石に(ダル)いな……」

「よく頑張ってくれましたよ……あなたがいなければ、わたくしは確実に負けていましたから……。まあ、あなたがいなければあの『領域』を発動される事もなかったでしょうけど」


 そんな事を言いながら、いたずらに微笑うリーベである。

 それを聞いたアブーリアは──


「……ははっ、そんなのありかよ」


 ──と、同じく少しだけ微笑うのだった。



   ◇◇◇



 そんなふうに、暫しの休息を取っていた二人だったが──リーベに、一つの連絡が入る。


『リーベ、聞こえるかい?』

『エルピスさん? どうしたのですか?』

『こっちは終わった。今からシュトルツのところに向かいたいんだけれども……実は、事前に座標を教えてもらっていたラインハイトが……戦死、してね』


 突然の訃報を聞いたリーベだったが、動じない。

 そのまま、エルピスの意図を理解した。


『すぐにでも、迎えに行きます。ヴァーユランへ、ですね?』

『大丈夫なのかい? 凄く疲れているようだけど』

『わたくしにも、助っ人(あいぼう)がいますから』

『……ははっ、そうか。わかったよ、なるべく早くね』


 そう言って、エルピスは『思念通話』を終わった。


「……どうした?」

「エルピスさんからですよ。どうやら……お仲間が一人、戦死したようで」

「…………そうか。そいつが転移関係を担ってて、移動出来ないからリーベを頼った、か」

「正解です。流石ですね」

「まぁな。早く行ってこいよ。そのまま、シュトルツへの増援に俺を置いて行くなよ?」


 そんな会話を交わす中で、しれっと上位体力回復(ハイ・ヒーリング)を施す辺り、アブーリアのイケメンムーブが光っている。


「……ええ、わかりましたわ」


 一瞬だけ優しい笑みを浮かべたリーベは、すぐに『転移』で消えてしまったのだった。

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