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竜として異世界に転ず  作者: 暁悠
第3章 深罪激闘編
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第56話 愛憎Ⅲ:激戦の連続

 時は少し遡り、リーベとナイトが止まって会話し始めた頃。


「あら? 攻撃しなくていいんですか?」


 動きが止まった──と、アブーリアは更に緊張感を高める。

 先程まで怒涛の攻勢に出ていたリーベが、攻撃を止めた。つまり──


(誘導していたのか? ナイトを? ……最初から思ってはいたが、とんでもない人だな、やっぱり……)


 現在、アブーリアはナイトより後方十メートル程度の茂みに位置している。ナイトの様子から、アブーリアの存在はバレていないようである。


(わざわざ奇襲しやすい地点(ポイント)にまで……本当、助かるな)


 そう思いながら、アブーリアは鎌に魔力を込めていく。静かに、気取られないように。


「……あんた、なんか権能を隠しているでしょ」

「当たり前じゃあないですか。『本質反転(アンヴェルシオン)』すれば権能も反転し、変化する……それくらいは、アイテルカイトから教わっているでしょう?」

「わかってんだよそのくらい! 問題はあんたがどんな権能を隠し持っているかだ!!」


 幸い、ナイトの意識は完全にリーベに向いていた。ここまで、全力で気配を隠匿してきたお陰である。

 しかも、ナイトはかなり長考している様子。時間としては数秒程度だが、目まぐるしく変わるこの戦場での数秒は大きい。

 ありったけの魔力を込め、魔法で強化すれば、流石の〝竜〟も斬れるだろう──と、アブーリアは考える。後は、タイミングのみ。

 殺意すらも包み隠して、鎌を持つ。


「あんたの権能、わかったよ! 発動条件は直接的な『接触』だ!! どーだあたしは──」


 喋り、考えている今がチャンスとばかりに、アブーリアは物音一つ立てずに茂みから出た。普通ならば少しの物音は立ててしまいそうなものだが、本当に無音で移動する辺り、アブーリアの技術の高さが窺えた。

 ──が、しかし。

 同時に、ナイトの口が止まった。

 そして……ハッキリと、振り返ってアブーリアの方を見たのだ。


(バレた!? どうして……いや、大丈夫だ、関係ない。ここまで近寄ったら避けられな──)


 避けられない──そう踏んだアブーリアは、攻撃を止めない。

 確かに、もう避けられない距離と速度。

 ──なの、だが。


「くっ!!」


 ナイトは、高く跳躍した。高く跳躍と言っても、一メートル程度。しかし、それで十分だったのだ。


(──は? 跳んで──)


 アブーリアが狙ったのは、ナイトの心臓(コア)がある肩から胸部にかけて。そんな中、一メートルも跳ばれると──。

 ナイトの両脚の(くるぶし)から下が斬り落とされた。しかし、問題なくすぐに『再生』して振り返り、アブーリアを殴りつける。アブーリアもただ受けるわけもなく、リーベのように鎌の柄で防御した。


「ぐはっ──」


 しかしはやり、種族からして違ったのだ。遥か後方にふっ飛ばされ、背後の木を十本ほど折ってようやく止まった。


(クソ……思ったよりフッ飛ばされちまった……)


 血を吐きながらも意識は失わないアブーリア。ここは流石と言うべきだろう。並の人間ならば既に絶命しているダメージなのだから。


(全力で武具強化(リインフォース)を使っておいて良かった……。使っていなかったら、間違いなく壊れていたな……)


 そうなれば本当に終わりなので、心底安堵するアブーリアである。


(こうなるなら〝不可視化(インビジブル)〟も習っておくんだったな……)


「大丈夫ですか!?」


 アブーリアの隣に、リーベが『転移』してきた。すぐに神聖魔法:欠損部再生(リジェネレーション)上位体力回復(ハイ・ヒーリング)を施す。


「ああ。全身ボロボロだが、戦えないほどじゃない」


 先程まで血を吐いていたとは思えないほど冷静沈着な態度のアブーリアを見て、リーベは自省した。


(正直、侮っていました……。アブーリアは魔人とはいえ脆い人間なのだと、そう思っていましたが……これは、少し失礼でしたわね)


「まだ魔力は残っているか?」

「当然ですわ」


 そう答えたリーベは、発動していた『本質反転(アンヴェルシオン)』を解除した。

 漆黒だったドレスと長い髪が、元の純白に戻る。


「……おい?」

「バレてしまっては仕方ありませんわ。戦闘に関してはあなたの方が秀でていますから、お願いします。わたくしは支援に専念しましょう」


 おいおい嘘だろ──という表情をするアブーリア。当たり前である。


(あんな超弩級のヤバイ奴を、俺一人で相手しろってか……? 多分、リーベによる『支援魔法』の効果はあるんだろうが……それでもだぞ?)


 つい先程、ナイトの力をその身を以て思い知ったアブーリアからすれば、そう考えてしまうのも無理はない事なのだった。


「もちろん、全力で支援します。出来る限り、お願いします」


 そう言われれば、どうしてか断れなくなるアブーリアである。

 そうしてリーベによって付与された『支援効果』は、全部で六つ。

 最上級膂力増強マキシマム・パワーゲイン最上級敏捷強化マキシマム・スピードゲイン最上級魔力増加マキシマム・マナブースト最上級武具強化マキシマム・リインフォース最上級防御力強化マキシマム・ディフェンスゲイン潜在能力解放(ハイポテンシャル)。全て、最上級難度の支援魔法である。


「……えげつないな」

「褒め言葉として受け取っておきますわ。それよりも、来ますよ!」


 リーベに言われ、鎌を構え直すアブーリア。

 ──かくして、戦いは第二ラウンドへ。



   ◇◇◇



 ナイトの前に立つアブーリア。両者睨み合い──


「ッシ──」


 最初に動いたのはナイトだ。

 短く呼吸をし、アブーリアに徒手空拳で襲いかかる。


「くっ」


 だが、ただでそれを受けるアブーリアではない。観察したリーベの戦い方から、最適解を導き出している。

 ナイトの拳撃(けんげき)を鎌の柄で受け流し、柄頭でナイトを地面に押さえつける。


「ははっ、思ったほどじゃないな」

「てめっ……リーベのような事を……! 何だよ、てめーらそういう(・・・・)関係なのかよ!?」

「………………は?」


 予想外の反応が帰ってきて、ポカンとするアブーリアである。

 それ自体は、あまり問題にはならないだろう。なぜならば、誰であろうとそういう反応をするから。ただし、それとは別方向での問題が一つ──


「てめー、図星だな!?」

「マズいッ!」


 リーベが叫んだ事で、アブーリアもナイトの性格──そして司っていた感情を思い出したのだ。

 ナイトが司っているのは、〝嫉妬〟。元より、何に対しても嫉妬する可能性はあったのだ。それに加えて、今回の組み合わせは女性のリーベと男性のアブーリア。可能性十分……どころか、役満のような状態である。

 その事実を、アブーリアは一瞬、忘れた。


「アブーリア、逃げて──」


 漆黒に染まった姿のリーベ──『本質反転(アンヴェルシオン)』をした状態の彼女が、アブーリアの服の襟を掴んで後方に投げ飛ばした。


「なっ──」


 次の瞬間に、ナイトを中心として生まれた渦潮のようなものに飲まれる二人。


「リーベ──がっ」


 リーベに手を伸ばしたアブーリアだったが、頭に何か巨大なものをぶつけられたような感覚に襲われ、よろめき、波に飲まれてしまった。


「ちょうどいい!! まずはリーベ(あんた)から殺してやるよ!!」


 そんなナイトの叫びを聞いた直後、アブーリアの体が地面に激突する。

 かなり勢いがあったようで、そのまま少し転がった。


「……ってて……クソ、ダル──っ!?」


 立ち上がって見てみると、目の前には黒い膜のようなもの。柔らかそうだが、実際は硬い。


(……結界……のようなものか? ってか、〝アレ〟なんだよ……?)


 突然アブーリアを襲った、脳内に直接響くような衝撃。


(魔力の塊のような……いや、多分これは──)


 リーベからの、強く、纏まった思念。

 たくさんの事を速く、それでいて強烈に伝えたので、脳内を直接鈍器で殴られたような衝撃を受ける事になってしまったのだ。


(急いでるとはいえ、手荒な真似しやがって……)


 そもそも『思念通話』そのものに慣れていないアブーリアからすれば、そう愚痴ってしまうのも仕方のない事だった。

 それは置いておいて、リーベにぶつけられた思念の解析を始めるアブーリア。軍で働いていたのはまだ短期間だが、一度だけ隠密任務も(こな)した事があった。『秘匿思念』の解析など御茶の子さいさいであり、慣れていた。なので、手際もいい。

 すぐに解析は終了する。そして、その内容は──


『今展開されたのは、推察するに『内外を分断する領域的結界』のようなものでしょう……名付けるとすれば『領域結界』でしょうか。

 分断されても魔法効果は残留します。流石に時間経過で解除されますが……その前に脱出します。

 指示は一つ。最大威力を用意して、その場で待っていて』


 ──である。


「はぁ……リーベめ……。どこまでも規格外だな、竜ってのは…………ダル……」


 そんな事を言いながらも、アブーリアは自身が持つ刃に増幅した全魔力を注ぎ、思いつく限りあらゆる魔法を追加付与し、アブーリアなりの〝全力〟を練り上げていく。

 全ては、リーベの〝作戦〟を完全に遂行するため──



   ◆◆◆



 視点は、リーベに移る。

 リーベは現在、周囲を闇に覆われていた。真っ黒で、止まっているのか動いているのか、上下左右すらままならない。


(……感覚器官に支障を来している……? 方向感覚が全くと言っていいほど機能しない……)


 ただ、下だけはわかる。

 リーベの足の下が、〝下〟である。当たり前だが、現在のリーベにとっては重要な事だった。

 そして下は、水のような感触である。現在その上に立っているが、少し動くたびに水のような音がする。


(彼女の権能は『嫉妬の海(タイダルエンヴィ)』……属性はやはり〝水〟、その『領域結界』だとすると、こういう事もあり得るでしょうね……)


 そんな、妙な納得感を得るリーベである。


(さて……アブーリアにはああ言ってしまいましたが……はてさてどうしましょうか? この『領域』がわたくしが想像するようなものだった場合、当たり前ですが今のわたくしは絶体絶命ですね)


 リーベの想像する『領域結界』とは、内外を完全分断するのは当たり前として、領域内では権能が必中になる……つまり、『嫉妬』による『力の吸収』が無条件で必中になるというものだ。


(アヴラージュさんが言うように、『力』がどこまでを指すのか不明ですから……厄介な事を考えてくれましたね、本当に)


 そう愚痴ってしまうリーベである。


「あはははっ……あんた、わかってる? あんたの魔力がどんどん吸われてんの!」


 おや──と、リーベは肩透かしを食らったような気持ちになる。

 まさか向こうから答え合わせをしてくれるとは、リーベも思っていなかったのだ。

 これなら思ったよりも早く終わりそう──と内心ほくそ笑んだリーベとナイトの戦いは、第三ラウンドへ──。

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